梶浦由記が生み出す音楽は“時代を照らす光”に 『鬼滅の刃』や『まどか☆マギカ』楽曲に見る、作品世界の表現
梶浦楽曲に見出す希望の光
梶浦の楽曲は、常に混沌としたダークな世界の中に一筋の光を見出すような力を持っている。たとえば『Fate/Zero 2ndシーズン』エンディングテーマで春奈るなが歌った「空は高く風は歌う」では作詞作曲を担当。どこか寂しげで鬱蒼とした雰囲気のAメロからBメロで光が差し込み、サビでは壮大なコーラスと共に雄大な広がりを見せ、ドロドロとした戦いの先にあるものを感じさせた。また、アニメ『僕だけがいない街』(フジテレビ系)のエンディングテーマで、さユりが歌った「それは小さな光のような」は、先の見えない展開に残されたわずかな希望が示され、作品を見る者の救いとなった。さらに『劇場版「Fate/stay night [Heaven's Feel]」』第一章・第二章の主題歌で、Aimerが歌った「花の唄」「I beg you」も梶浦が作詞・作曲・編曲を担当。ダークで異国感溢れる梶浦らしい楽曲だが、Aimerのクールで温かみを感じられる歌声によって、梶浦が描いた世界観にさらなる広がりと光をもたらした。
現在大ヒット中の『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』主題歌としてLiSAが歌った「炎」もまた同様だ。「炎」は作曲・編曲を梶浦が手がけ、作詞をLiSAと梶浦で共作している。低音から広がるサビと、そこへ向かう畳みかけは、LiSAの楽曲には珍しい構成で、そこには梶浦らしさが表現されている。2番ではサビが登場せず、代わりに歌詞のない、熱いフェイクが心の叫びのように響く。全体に激しく、今にも崩れ落ちそうなほど必死に歌うLiSAのボーカルが印象的だ。そして、最後に一節だけ出てくるスキャットがわずかな希望の光を感じさせる。
思えば『魔法少女まどか☆マギカ』は放送時、東日本大震災によって放送が延期された経緯がある。「炎」がヒットしている現在は、くしくもコロナ禍の最中だ。もちろん、時代と作品に直接の因果関係はない。しかし、世の中が暗く落ち込んだ時、何かにすがりたい、希望を見出したいと思うのは世の常で、そこにあった梶浦の楽曲にそれだけの力と魅力がなければ、こうしたヒットは生まれなかっただろう。混沌とした中に一筋の光を見いだす梶浦の楽曲は、時代ごとに暗闇にいる人々へと差し出される、救いの手なのかもしれない。
■榑林史章
「山椒は小粒でピリリと辛い」がモットー。大東文化大卒後、ミュージック・リサーチ、THE BEST☆HIT編集を経て音楽ライターに。演歌からジャズ/クラシック、ロック、J-POP、アニソン/ボカロまでオールジャンルに対応し、これまでに5,000本近くのアーティストのインタビューを担当。主な執筆媒体はCDジャーナル、MusicVoice、リアルサウンド、music UP’s、アニメディア、B.L.T. VOICE GIRLS他、広告媒体等。2013年からは7年間、日本工学院ミュージックカレッジで非常勤講師を務めた経験も。