『Cheer』インタビュー

真心ブラザーズに聞く、未曾有の事態にもブレない音楽への姿勢「世界がどう変わっても健康で、面白いと思えればやり続ける」

 真心ブラザーズが、またまたやってくれた。漫画家・タナカカツキによる超ポップなチアガールのイラストに包まれた、17作目のオリジナルアルバム『Cheer』。直近の過去2作がこだわりのモノラル録音による濃厚なブルース/ロックンロールアルバムだったのに対し、生々しいバンドサウンドの醍醐味はそのままに、よりポップで明快な「歌もの」に照準を合わせた全10曲。リード曲「炎」を筆頭にキャッチーに振り切ったメロディと、レギュラーバンドに加えて東京スカパラダイスオーケストラのメンバーや、盟友・グレートマエカワ(フラワーカンパニーズ)&サンコンJr.(ウルフルズ)を迎えた楽曲など、エンタメ度の高さも文句なし。コロナ禍による時代の大変動に惑わされず、二人はいかにしてこのポジティブなアルバムを作り上げたのか? 二人の本音を探ってみよう。(宮本英夫)

『Cheer』が明るくポップな“歌もの”になった背景

真心ブラザーズ「炎」MV Short Ver.(2020年10月14日発売AL『Cheer』収録)

ーーそもそも、濃厚なブルース/ロックンロールアルバムが2作続いて、次はどうする? というのは、どのへんから始まったんですか。

桜井秀俊(以下、桜井):YO-KINGさんのほうから、「歌ものがいい」という話がありました。俺は最初、「歌もの」の意味を広くとらえていて、「いつも歌ものですけどね」とか思ったんだけど、もっと狭い意味の「明るくポップな」という要素が多い「歌もの」で、ああ、そっちのことを言っているのかと。じゃあ俺的には普通にやればいいのかなと思いましたね。

ーーある意味、そうですよね。自然体でいい。

桜井:そうそう。ルーツ寄りの音楽のほうが、普段使わない筋肉を鍛えておかないとできないことだったので。だから俺の作曲の個人作業の時には、久しぶりにポップセンスと言いますか、ポップセンスの蛇口を開いてやってみるか、ということです。

ーーYO-KINGさん、「歌もの」というテーマはどこからやってきたんでしょう。

YO-KING:きっかけは、何なんだろう? 基本的には「飽きたら次」の性格なので、今はそんな感じかなあと思ったんだけど……3月、4月頃の気分で、ああいう期間(ステイホーム)だから時間があったので、メロディをちゃんと作ってみようかなと思ったんですよね。いつも作っていないわけじゃないんだけど、いや、ぶっちゃけ、作っていないんで。

ーーあはは。どういうことですか。

YO-KING:ボブ・ディランって、(メロディを)作っていないじゃない? やっぱりあの人が好きだから、コード進行の上で歌詞をなぞっていく延長上のメロディというか、それをやってきたんですよね。それは数を撃つと、時々とんでもない曲ができるんだけど、数を撃つよりは「Aメロ〜Bメロ〜サビ」みたいなものをやってみようかなという気になって、ただその時点では何もできていないから、「そういう気でいます」という気持ちだけ伝えておいたほうが、後々楽かなあと思ったので。

ーーということは、手持ちの曲がないままに桜井さんにテーマだけ投げてみたと。「次、歌ものね」って。

YO-KING:そうそう。

ーー無責任と言えば、無責任な行為ですよね(笑)。

YO-KING:そう(笑)。LINE履歴を見ればわかるけど、「歌もので行こうと思っているような気がします」みたいな(笑)。まだ何とも言えないから。そこで二人とも、歌ものじゃなくてもいいと思ったんですよ。それを受けて桜井さんが、「じゃあ俺はルーツもので行く」と言ったら、それはそれで面白いし。とりあえず「そういう方向のものを作ろうとしています」ということなので。

ーーその言葉に、桜井さんはビビッと反応した。

桜井:そう。飲みに行きたくてもなかなか行けない時期だったしね。自分のタイプとして、学生の時、試験中になるとギターがうまくなったりとか、大学受験の時に曲がたくさんできたりとか、そういうところがあるんですよ。今は仕方ないから、受け入れてやって、でもこの先に自由を求める気持ちがすごく浮かんでくるんですよ。そもそもロック音楽にしびれたのもそういうことで、カウンターカルチャーとして、前の文化が退屈になって、「そうじゃないだろ」って新しいことをやるという、反動みたいなものにしびれて始めた部分はあるので。だから今回、リズムが躍動するものが多くなったし、前に転がる気持ちがあるし、「こういうものがほしいんだ」と思ったんでしょうね。それでできあがったものは明るく軽く、ジャンプ力があるものになったなあと思います。

ーーそうですね。まさに。

桜井:でも人によっては、世の中が暗くて、ダークサイドに引き込まれて、曲なんか書いている場合じゃなかったよ、と言っている音楽友達も多くて、「あ、そうなんだ」と。

ーーそれは僕もインタビューしていて、何人かいましたね。YO-KINGさんは関係なさそうですけど(笑)。

YO-KING:震災の時もいたよね、音楽どころじゃないという人は。でも俺はまったく、その理屈がよくわからない。

ーー動機が違うんでしょうね。音楽を作るということの。

YO-KING:キャラが違うというだけで、どっちがいい悪いではないけれど。で、まあ、17枚作っているというぐらい続けているということは、俺のその部分に魅力を感じて聴き続けている人が、少なからずいるということだから。そこは変える必要もないし、自分が楽な自分であり続けることが、仕事でもあり遊びでもあり。

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