田中ヤコブ『おさきにどうぞ』連載 第1弾

田中ヤコブ×石塚淳(台風クラブ)対談、エレキギターで生み出すロマン 曲作りから録音まで“理想のサウンド美学”を語り合う

「楽曲のアレンジをする時に“XTC的かどうか”が多少ある」(田中)

ーーヤコブくんが特に好きなギタリストはいますか。

田中:好きなギタリストなら3人揺るぎない存在がいて。Pink Floydのデヴィッド・ギルモア、XTCのデイヴ・グレゴリー、人間椅子の和嶋慎治さん。この3人は不動です。

ーー石塚くんがギターを始めたきっかけは?

石塚:俺はOasisですかね。

田中:へえ!

石塚:小6の時、ユーロビートのコンピと思っておじいちゃんに買ってもらったCDが実は『MAX』という洋楽メガヒットを集めたコンピで。そこに入ってたOasisの「Don't Look Back In Anger」を聴いて、もしこれがエレキギターの音なら自分もエレキをやろうと思ったのがきっかけです。

Oasis - Don't Look Back In Anger (Official Video)

田中:『MAX』、ウチにもあったな~(笑)。

石塚:ノエル・ギャラガーの、メジャー・ペンタトニック一発! みたいな。曲が良ければ大丈夫! みたいな。最高。

田中:そういえばこないだ知ったんですけど、マーシーがライブで「僕の好きなバンドを日本語でカバーします」みたいな感じで、Oasisの「Roll With It」をやっていたんですよね。

石塚:そうそう! ああいう大ネタに日本語乗っけるのとか、最強に好きで。

田中:マーシー聴いていると、やりたいことをシンプルにやるっていうことの強さを感じますね。

田中ヤコブ

ーーヤコブくんはもともと野球をやっていて、そこからギターを始めたというユニークな遍歴ですよね。

田中:そうです。でも、野球もやりたくてやってたわけじゃなくて、ただ家にいたくなくてやってただけで。で、親父が音楽やってたから家にギターが普通にあって。それでやり始めたのがきっかけです。実際に弾き始めたら案外弾けて。

石塚:コピーとかも?

田中:最初はもうコピーばっかり。それこそTHE BLUE HEARTS。で、意外とイケるなと思ってからは早めにツェッペリンとかに行って。そのあと、BUMP OF CHICKENに行ったり。

石塚:よう戻ってこれたな(笑)。

田中:ねえ(笑)。その後も、はっぴいえんど行ったり、人間椅子行ったり、しっちゃかめっちゃかなコピー遍歴。でも、学校から帰ってきたら手も洗わないですぐギター触る、みたいな感じでしたね。ギターを抱いて寝てましたよ。テンプレ・ギターキッズ(笑)。エピフォンの安いの買ってもらったので、なんでも弾いてました。

石塚:エピフォン、P90?

田中:そう、P90。

石塚:俺はコピーはほとんどしてないんですよ。Oasisとミッシェル(THEE MICHELLE GUN ELEPHANT)、THE HIGH-LOWSくらい。

田中:俺、たぶん一番コピーしたのってXTCなんですよ。楽曲のアレンジをする時にXTC的かどうか……みたいなのが多少あったりするんですよね。コピーして自分に取り込んだものを形にしていくみたいな。それが今も自分の基準になっていますね。完全に自分の中から発想されることってあまりなくて。何かしらの大元はある上で、そこから自分で発展させていくんです。だからあんまり突飛なことはできないタイプですね。今もしょっちゅうコピーしてます。

石塚:へえ。俺はコピーはもうしないな。ギター抱っこしながらレコード聴く、みたいなことはするけど。

石塚淳

ーー真島昌利の「Roll With It」じゃないけど、台風クラブはGreen Dayの「Basket Case」を日本語でやったり、ギルバート・オサリバンの「Alone Again」をやったりしてますが、いわゆるコピーという感覚ではないですよね。

石塚:そう、むしろ最も遠い。ただ、好きな歌に日本語乗っけてやる感じ。マニアックなところに行ったるぞ、みたいなのを排除してやるカバー。替え歌ですね。

田中:俺も「Alone Again」大好きで。散歩してる時とかあの曲が頭の中で流れてる感じ......っていうと、だいぶ寂しいですけど。マジでグッとくる選曲でした。

Green Day - Basket Case [Official Music Video]
ALONE AGAIN (NATURALLY)

ーーでも、台風クラブがやるとタイトルは「ホームアローン」。

石塚:もうコロナで家ばっかおるし……って感じで。原曲の歌詞の内容とか一切見ないで書きました。見ちゃダメ。替え歌なんで。意図を汲み取るとかって高尚なものからなるべく遠いところに置きたいんで。昔のロックバンドって、意訳ですらない日本語カバーが結構あって。そういう感じがめっちゃ好きですね。

「いい音楽の立役者がエレキ(ギター)やと俺は嬉しくなる」(石塚)

ーー逆に自分のオリジナル曲に対してはそれぞれどのようなところに意志が働きますか?

田中:単純に繰り返し聴けるかどうか……みたいなところですかね。聴いて感動というか、いい曲だなってシンプルに思えるかどうか。ストックはいっぱいあるんですけど、いつのまにかヌルってできてる感じ。作り終わって聴かないまま放置してる曲はあんまり出さないようにはしてますね。

石塚:ほんまにそうですよね。やってて盛り上がらなかったらやめる、みたいな。バンドで鳴らして面白そうかどうか。

田中:わかります。盛り上がる瞬間ありますよね。

石塚:でも、だいたい大風呂敷を広げ過ぎて、戻ってこれなくて頓挫する。で、なんとか力ずくで戻ってきて反復構造のあるポップになって、そこから苦労して歌詞を書いてやっと1曲になるって感じ。じゃなかったら二番に行けないし(笑)。

田中:わかる気がします。何年も前に作った曲の断片と新しい曲と合わせることもあれば、Aメロからサビまで一気にできることもあるし……ただ、えてして時間をかけてできる曲より、一気に書けた方がいい曲になることもあって。不条理を感じますけど。

石塚:ヤコブくんの曲、めちゃめちゃいい曲やし、メロディいいし、めちゃめちゃ作り込んでるし、ギターの音の良さ……ここしかないやろ! ってところでここしかない音が鳴ってる感じ。どうやって録ってんか聞きたい。

田中:割と適当に……。

石塚:適当であれはないっしょ!(笑)。

田中:ヘンな話、パソコンあまりよくわからないんで、インターフェースにシールドを直挿しして、アンプの画面立ち上げてカッコいい音になったら、「あ、これでいいか!」って感じ。あと、昔は実家で録ってたんで、VOXのちっこいアンプにコンデンサーマイク1本……みたいにメチャクチャ適当です(笑)。

石塚:へえ!

田中:今は、一緒に録音してくれてるエンジニアの飯塚(晃弘)さんが、自分が録った素材を理解してアドバイスしてくれて、そこから一緒に仕上げてくれてるんです。

石塚:マイキングが重要やもんな。

田中:そうなんです。自分で7、8本マイクを立てて録音してから飯塚さんにいろいろとアドバイスを受けて。「すみません、もう録っちゃったんで後からなんとかなりませんか?」って(笑)。台風クラブの「日暮し」はどうやって録音したんですか?

石塚:うちはいつも通り、ドラムはhanamauiってスタジオで宮(一敬)さんに録ってもらって、今回はギターとかボーカルも自宅で録りました。

田中:噂の新しく家に作ったという防音室で?

石塚:そう、気合いで(笑)。ウチらは録りまでは自分らで全部やって、ミックスは江添(恵介/渚のベートーベンズのメンバーでエンジニア)さんにやってもらってます。

田中:マイクとかは自分で?

石塚:自宅で録ったやつはそうです。でも、俺もヤマさんも無頓着なので、インターフェースに直接突っ込んだ音なんですよね~。『ベース・マガジン』とか読んでる人にどつかれるような録音ですよ(笑)。ヤコブくんはベースも直挿しなんですか?

田中:基本はそうです。時々マイク立てますけど、家で音を出せないんで、環境に依存する感じ。でもフレキシブルにやればそれでいいかなって。録音する前に録音熱みたいなのが高まって急に調べたりはしますけど。昔の録音が好きなので、ツェッペリンはどうやってたんだろうって。

石塚:俺はそういうの全然調べたりしないからなあ。

田中:いいと思う音のバンドをいっぱいメモしたりするんですよね。ドラムはコレ、ピアノはコレ、みたいに楽器ごとにメモして。例えば、アルバムの1曲目「ミミコ、味になる」の12弦ギターなんかは、XTCのデイヴ・グレゴリーを意識しました。

ミミコ、味になる/田中ヤコブ

石塚:あの曲、ほんと12弦いい音。あれ、ギター何?

田中:リッケン(バッカー)ですね。

石塚:リッケンとダンエレクトロでは副弦を貼る順序が違うみたいだけど……。

田中:そうそう。ダンエレは上が細くて、リッケンは逆ですね。リッケンは意外とハコモノっぽい音がしますね。あとは当然、The Byrdsのような音も。でも、俺の中ではリッケンの12弦といえばXTCです。学生の頃、バイトしてお金貯めて、使い道なくて12弦エレキを買ったんですけど(笑)。

石塚:今って、12弦エレキの楽器界の立ち位置、ヤバい。俺、12弦のエレキの弦替えようと思って、京都の知ってる楽器屋全部回ったけど一つもなくて。アコギの12弦はまだあったんやけど……ほんまに今エレキの12弦弾く人いなくなってるんやなって。あと俺は、ヤコブくんの新作でいうと「cheap holic」……ハードロック然としたイントロを裏切って始まるメロウなコード運びが最高やなと。

田中:あれは、イントロがZZ Topで、曲が始まったらシティポップになったら面白いかもっていう(笑)。基本、曲作る時、友達に聴かせて笑わせたい、みたいなのがあるんですよ。これは結構狙い通りです。

石塚:アルバムを通して思ったんですけど、いい音楽の立役者がエレキ(ギター)やと俺はめちゃ嬉しくなる。エレキいいよね~って(笑)。

田中:ですよね!

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