連載「EXILE MUSIC HISTORY」第1回:D.O.I.
EXILE MAKIDAI 新連載「EXILE MUSIC HISTORY」第1回:サウンドエンジニア D.O.I.と振り返る、EXILEサウンドの進化
変化を恐れない姿勢がLDHのすごさ
MKIDAI:トラックのまとめ方に関して、D.O.I.さん流のコツはあるんですか?
D.O.I.:実はある程度テンプレート化しています。彫刻で言うと大きくざっと削って、だんだん細かく調整していく感じ。でも3カ月ぐらい同じテンプレートを使っていると、新しい要素を入れられていないことで自己嫌悪に陥るんです。なので、去年は10回ぐらい更新しました。
MAKIDAI:それは新しい楽曲に触れることで、D.O.I.さんのテンプレートもバージョンが上がっていくということでもありますよね。
D.O.I.:基本的に新しいものが正義だと思っています。今まで成功したパターンを検証していくと、やっぱり名人芸的なものより、新しくチャレンジしたものの方が個人的に成功している経験があるので。
MAKIDAI:ちなみにEXILEやEXILE TRIBEで進化を感じた、ターニングポイントはありましたか?
D.O.I.:僕は「Rising Sun」(2011年)だと思ってます。その前の「Lovers Again」、「Ti Amo」(2008年)までが、いわゆるオーセンティックなJ-POPの完成形。そこからいきなり「Rising Sun」みたいな速い曲を持ってくるなんて勇気あるなと(笑)。当時はEDMって言葉もまだあまり知られていない頃でした。
MAKIDAI:BPM128くらいのダンスミュージックですから、僕らパフォーマーも驚きました。
D.O.I.:しかも空気感が今までのニュアンスじゃないと思ったら、海外のトラックメイカーも含めた、いわゆるコライト(複数の作曲家がセッションしながら制作する方法)で作られた曲だったんですよね。コライトの楽曲を初めて聴いたのは安室(奈美恵)さんかEXILEさんかでした。今は結構、多くのアーティストがコライトで作られた楽曲を使っていますけれど、当時は最先端の作り方だったと思います。
MAKIDAI:「Rising Sun」は、東日本大震災があった直後だったので、「日本を元気に」というテーマを掲げた楽曲でした。ここから新たにみんなで頑張っていこうという気持ちを込めた楽曲で、僕たち自身も初めてデモを聴いた時は新しさを感じました。だからD.O.I.さんがEXILEの歴史の中でこの曲を挙げてくださったのは嬉しいです。
D.O.I.:すごく新しいことに挑戦して、しかもちゃんとヒットするから、やっぱりすごいです。
MAKIDAI:今となってはEXILEの代表曲の一つになりました。
D.O.I.:新しいものに対して柔軟で、変化を恐れない姿勢があるからこそ、LDHさんは音楽シーンの一線で活躍し続けているのだと思います。
無駄な部分がなくなるだけ、見えないデメリットもある
MAKIDAI:D.O.I.さんはリリースされる音楽の量と速度が加速する中で、どのように情報をキャッチをしていますか?
D.O.I.:Twitterでフォローしている人とか音楽批評のサイトを見たり、あとアーティストの方と話した先に新しいことが開けるケースがあります。昔みたいに「この雑誌を読めば間違いない」とかではなく情報が散らばってるので、深追いせず全部パッと見る感じ。
MAKIDAI:最近だとchelmicoさんの「Disco(Bad dance doesn't matter)」(2020年)が素敵でした。m-floにchelmicoさんが客演した時、VERBALくんも「感覚的に良い刺激をもらえた」と話していて。
D.O.I.:彼女たちも新しい感覚ですよね。最近は若いアーティストの方もよく来てくれるのですが、本当に世代によってノリが違って面白いです。
MAKIDAI:ファレル(・ウィリアムス)も最初はテリー・ライリーのスタジオにずっといて、色々と手伝っていたといいます。やっぱりエンジニアの方は新旧問わず、色々なアーティストの方と交流があるじゃないですか。だから自ずと音楽のセンサーが最強になるのかなと。
D.O.I.:そうかもしれません。新しい音楽は常にチェックしてますが、やっぱり自分で選んでいるだけだと幅に限界があります。ネット時代とはいえ、雑談から新たな情報を得ることも多いんです。合理的にリモートでアーティストとコミュニケーションを取ってミックスしたりもしますが、無駄な部分がなくなるだけ、見えないデメリットもあるのかなと感じてます。
MAKIDAI:リモートで作業しても、自分もどこかで最終的にはちゃんと集まって仕上げたいと思ってます。同じ時間、同じ場所、同じ環境にいることの価値を重んじる文化は残ってほしいですね。僕がそう育ってきた世代だから感じることかもしれませんが。