桜田通が信じ続ける、コミュニケーションが生み出す希望 「人との関わりにおいて、思考を停止させたくない」
ライブは現場で生まれるもの。あらかじめ用意された感動はいらない
ーー今回の配信ライブは、1回の動員数で考えると、過去最大の人数が集まったサクフェスといえるでしょうか?
桜田:そういう言い方もできますね。ファンクラブ限定にしなければ、さらに多くの方に見てもらえたかもしれません。ただ今回は、不特定多数の人よりも、一段階深く僕の言葉を受け止めてくれる人たちに、ライブを届けたかったんですよ。あと、これはライブ中にも話したことですが、通常のサクフェスは、遠くに住んでいたり健康上の理由があったりして来られない方もいらっしゃって。そういう方にも観てもらえたのは、配信ライブならではの良さでしたね。
ーーカメラワークやバンドの配置も凝っていて、最後まで飽きさせない工夫が満載でした。
桜田:この業界にいると、配られたカードでしか戦えない状況にたびたび出くわすんです。だから僕は、人よりも、限られた状況を楽しむことに長けていると思うんですよ。むしろ、マイナスに思える状況を全部プラスに変えていくことが、僕にとって楽しい生き方なんです。今回もそう。配信ライブって、ステージ上で演奏して、それを固定カメラで撮影する人が多いですよね。そのやり方を否定はしないし、ひとつの正解の形だと思うんですけど、僕はそうしたくなかった。だから、演出チームや撮影チームと話し合ったときに、頭の中で考えていたことを全部提案しました。今回の会場は、渋谷のduo MUSIC EXCHANGEでしたが、duoって柱が2つあって「ジャマな柱」って言われているんですよ。あ、僕はそこも含めてduoが好きなんですけどね(笑)。そういった要素を考えたときに、演出を工夫すれば、その柱すらカッコ良くなるじゃんって思ったんです。それを伝えたところ、演出チームの方やカメラチームの方が「じゃあ、通くんとギターとベースの方はステージの上、ドラムやキーボードやマニピュレーターの方は床で演奏すれば、向かい合えるね。でも、そうすると段差ができちゃうから、床に台を置いて高さを調整すればいいんじゃない?」って提案してくださったんです。「そうすれば、客席の真ん中にカメラが入れますね」「上からクレーンでも撮れますね」って、イメージがどんどん具体化していきました。
ーー桜田さんが提案したことに対して、プロの方がより良いアドバイスを返してくださり、今回のライブができ上がっていったんですね。
桜田:今回、実は、ドームライブの演出をやっているようなすごい方々に入っていただいたんです。僕が無茶な提案ばかりするから、マネージャーさんが「すみません、すごく大規模なことを頼んじゃって……」って恐縮していたら「こんなの、全然大掛かりじゃないですよ」ってあっさり言われて。ああもう、すげー勝てないなと思いました(笑)。その言葉を聞いて、甘えられるところは甘えようと決めましたね。その代わり、僕はビジネスとして赤字にならないようにしっかり発信する。そして、チケットを買ってくれたファンの皆もしっかり幸せにする。全員が「この配信ライブに関わって良かったな」って思えるライブにしなきゃいけないと、気が引き締まりました。
ーー今年4月に、マニピュレーターの板井直樹さんと一緒に作った曲を「うたつなぎ」としてTwitterにアップされましたよね。今回、あの曲をセットリストに入れなかったのはなぜですか?
桜田:1曲丸々できていなかったし、配信ライブまでに完成させるのは間に合わないと思ったからですね。あと、歌ったら感動的だとは思ったんですけど、それがわかりすぎて嫌だったのもあります(笑)。ライブは、その瞬間に生まれた感情を届けるからこそ、意味があると考えているんです。通常のライブのときも、僕はテレビやSNSでは言えないようなことを好き勝手に話すんですが、それは、チケットを買ってわざわざ来てくれた人しかその場にいないから。それほど信頼しているファンの皆に向けたライブで、あらかじめ用意された感動は必要ない。だから、今回は、うたつなぎの曲をセトリに入れませんでした。あの曲は、皆に本当に会えるときが来たら歌いたいなと思っています。
ーー写真集『The 27 Club』のインタビューで「皆、自分の中のフィルターをとっぱらってライブ会場に解放されに来ている」とおっしゃっていました。今回は、家でそういった体験ができたなと思います。
桜田:今回の配信ライブは、すごく実験的だったんですよね。画面の脇にコメント欄が用意されていたじゃないですか。もしも「直接会えるライブじゃなきゃ物足りない」っていう感想が多かったら、今後はその方向で考えようと思って。だけど、ライブ後に感想を見てみたら、通常のライブと同じように情熱を燃やせている人たちが多かった。それを目にして、今回のレベル以下のものさえやらなければ、今後も配信ライブをやっていいんだと思えたんです。そういう意味で、今回の配信ライブは有意義なものだったし、今後も形を変えながら続けていくという目標ができました。