さなり、新たな扉を開いて成長し続ける17歳のドキュメント 力強く言葉届けたLIQUIDROOMワンマン公演レポート

 “18歳を迎える年の春”と聞いたら、何を思い浮かべるだろうか。高校卒業、大学進学や就職。その年齢は、人生の岐路のひとつと言っても過言ではない。この春、さなりも同じ岐路に立っていた。音楽をするために15歳で上京した彼にとって、2020年は18歳を迎えると共に、アーティストとして3年目になるタイミング。そんなケジメになるであろう年が、世界を震わすパンデミックに悩まされたとなっては、いろいろなことを考えないわけがない。

 事実、9月22日に恵比寿LIQUIDROOMにて開催された『Sanari Seventeen’s Late Summer Vacation』で、さなりはこう語っている。「自分自身と向き合う時間が増えて、すごい悩んだこともあった」と。しかし、それには続きがある。「世界の変化に適応していきながら、自分も変化していく。自分のなかで意識が変わったから、これからは第2章さなりというか」。この夏、ひとりの少年は前を向いて進み始めていたのである。その力強い歩みを感じた一夜を、ここに記しておきたい。

 開演予定時間から30分遅れて、ライブはスタートとなった。真っ暗になった会場には怪しげに光る照明と共に、観客の手にはめられたリストバンドが煌めく。バンドメンバーの後を追うように現れたさなりは、「調子どう!」と明るく一声。新曲の「Sublimate」をいきなり投下し、クールなラップを見せつけた。生バンドの演奏ということで楽器の音圧がグサグサ飛んでくるのだが、さなりのボーカルも一切負けていない。ニュアンスをつけてメロディを歌いこなし、低い声でドスを利かせたかと思えば、色っぽく声を震わせる。前を見つめる凛とした視線に、「何か変わった」と思わずにはいられなかった。

 「今日はよろしく!」と間を繋ぐと、デビューソングである「悪戯」へ。以前は“歌っている”という印象が強かったこの曲も、声量が上がったのか声の圧は増し、重みを乗せたリリックがバッと前へ飛んでいく。今のさなりは、ただ歌うだけじゃない。伝えることや届けることへも、間違いなく意識が向いていた。「I AM ME」では観客を立たせ、曲に合わせてハンズアップ。声色を操り舞台を跳ねまわる様子は、彼が以前よりステージ上で自由になったことを示しているようだった。

 MCでは「超久しぶりだから、ドキドキが止まらなかった」と心中を吐露。マスクの影響もあり反応の仕方に困るオーディエンスに「反応が薄いんだって!」と声をかけ、空気を和ます一幕もあった。

 「準備OK!?」と煽り、導かれたのは「Mayday」だ。さきほどまでと一変して吐息多めに響く歌声は、彼が17歳であることを忘れそうになる。ドラムがグルーブを回転させ、ギターは泣きメロを伸びやか歌い、ガツンと盛り上がるラスサビ。バックでDJを務めるエディとふたりのパフォーマンスが楽しいのはもちろんだが、生で楽器が鳴っているからこそのパワーやエモーションは間違いなく存在していた。

 「嘘」ではひとつひとつの言葉を届けるように歌いあげ、「Future」ではオーディエンスから生まれたクラップを会場に刻みつける。曲によって違った魅力を放つ彼は、ジャンル分けできない何者にでもなれる可能性だって感じさせる。まさしく“I AM ME”。彼は彼でしかないのだと、強く実感させられた。

 ロマンチックに「Dream」を紡ぎ、アコースティックバージョンで「Life goes on」を披露。アコースティックギターで綴られる伴奏は、彼の声が持つ切なさをより一層引き立てる。1個1個の言葉を丁寧に落とし、ブレスにまで意識を向け、一瞬も無駄にすることなく曲を魅せる。あまりにもさなりの本気を感じる演奏に、観客はスーッと吸い込まれていた。〈僕の人生を始めよう〉という歌詞が真っ直ぐに飛んできたのは、彼の覚悟を物語っているほかないだろう。

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