フォトエッセイ『Blume』インタビュー
稲垣吾郎が語る、『Blume』に込めた過去と今を繋ぐ素直な思い 「今、あの頃の自分と仲良くなっている感じがする」
稲垣吾郎の19年ぶりとなるフォトエッセイ『Blume(ブルーメ)』が、9月18日に発売された。本書は女性ファッション誌『GLOW(グロー)』内で連載されていた「大人男子ライフ」(2018年7月号〜2020年6月号)をまとめ、未公開カットを含むフォトエッセイパート、さらにロングインタビューを加えて単行本化したもの。少年から大人男子へ。約30年の芸能生活と価値観を振り返る、メモリアルな一冊となっている。
発売に先駆けて、稲垣がリモート形式でインタビューに応えてくれた。一つひとつの問いに対して真摯に寄り添い、時折ユーモアを交えながら話を広げていく姿に、大人の余裕と少年時代から培われたアイドルマインドを感じずにはいられない。稲垣が紡ぐ言葉たちを、穏やかで知的な時間が流れる、サロンでの会話のように読み進めてほしい。(佐藤結衣)
いいものを次の世代に残していきたい
――19年ぶりのフォトエッセイが発売される、今のお気持ちを聞かせてください。
稲垣吾郎(以下、稲垣):『GLOW』の「大人男子ライフ」は、写真もすごく素敵に撮ってくださって、プライベートな部分もいろいろと深掘りした、僕自身とても気に入っている連載だったので、そのままにしておくのは非常にもったいないなと思っていたところでした。なので、こういった形でひとつ形に残るものを作ってくださったのは、とてもうれしいですね。そして、何よりもずっと昔から応援してくださっているファンの方が、すごく待ち望んでいてくれたので。「写真集やエッセイみたいなものを発売して欲しい」というリクエストは、いつも届いていました。それが形になって本当に良かったと思っています。
――これまでたくさんの作品を送り出してきましたが、“本”という媒体にはどのような思いがありますか?
稲垣:やっぱり今はデジタル全盛の社会なので、物として触れることって改めて大切だなって最近感じています。僕自身、好きな物に囲まれて生きていたいと常々思っていて。新しい流れに取り残されちゃダメだと思う一方で、物として残さないとなくなってしまうものもたくさんあるから。もちろん、デジタルも大事なんですけど。デジタルもアナログも両方をうまく使える人間になりたいっていうのが理想としてありますね。特に本は、本棚に飾っているときの感じとか、所有欲を満たしてくれるのがいいじゃないですか。それから染み付く匂いとか、触った感じとか、いい意味で経年劣化が楽しめるのも魅力的です。
――確かに、これからの時代、アナログとデジタルのいいところを使い分けていきたいですね。
稲垣:僕らの世代って、両方をまたいで生きてきた人間なので、そこが面白いと思うんです。先日もカメラマンさんと話したんですが、フィルムで写真を撮られる感覚って、20年後、30年後の未来を生きる人には「なんの話? よくわからない」って言われてしまうかもしれない。でも、それってちょっとさみしいじゃないですか。だから僕は、今大切にしなくちゃなくなってしまうものに目を向けたくなるんです。この間も、1956年の時計を購入したんですよ。
――Instagramでも紹介されていた、A.ランゲ&ゾーネの腕時計ですか?
稲垣:そうです、そうです。スタイリストさんが借りてきてくださったものを、そのまま買い取らせてもらって。あとは、クラシックカーとかも昔から好きで。いいものを次の世代に残していきたい。だから僕も今回、本を作るとなって、結構こだわった部分はありますね。例えば、大きさとか紙の質感とかって、すごく重要。この手に収まるこのサイズ感を僕は気に入っているので、ぜひみなさんにも手にとっていただきたいなと思います。
――タイトルが『Blume』というドイツ語の“花”にしたこだわりについても聞かせてください。
稲垣:最近の趣味の広がりで、カメラで花の写真を撮ってブログやInstagramに載せるようになったのですが、それこそ作品として残したいなという思いがありました。今回のフォトエッセイには、自分で撮った写真も載っていますし、特典のクリアファイルの写真も実は僕が撮ったものなんです。先ほどお話した、好きなものに囲まれた生活という理想のなかでも、最近は花の存在感が大きくなってきたので“花”をタイトルにしたらどうかという話になりました。同時に、この本をファンの方へ花束を贈るような感じというか。今までの感謝の気持ちを込めたブーケみたいなニュアンスがあってもいいな、と。
――9月6日放送の『7.2 新しい別の窓』(ABEMA)では“フラワー”や“ブーケ”など、他にも案があったとおっしゃっていましたね。
稲垣:最終的には直感というか、大げさな意味はないんですが、僕も46歳の男性なので、少し男っぽい響きにしたかったというのがあります。ちょっと硬派な印象がドイツ語の響きにはあるなと思って。“フラワー”とか“ブーケ”だとちょっとかわいらしい感じに聞こえませんか? まぁ、それも僕には似合うかもしれないけれど(笑)。
――お似合いです(笑)。
稲垣:実は僕、ドイツって空港しか降りたことがなくて、ドイツの土地に触れたことはないんです。けれど音楽、アート、ワイン、それからカメラや腕時計みたいな工業製品も、気づいたら心惹かれるものがドイツのものだったということが、すごく多いんですよね。余談なんですが、昔に前世占いをやったとき「ドイツ人だった」って言われたことがあって。スピリチュアリストの江原啓之さんや、ほかにも何人かの占い師さんが同じように言うので、もしかしたら何か縁があるのかな、なんて思ったり(笑)。
――すごいですね。稲垣さんのドイツ紀行もぜひ見てみたいです! こちらの帯にある言葉は、稲垣さんご自身の言葉ですか?
稲垣:そうですね、自分の言葉です。「やりすぎない、出しゃばりすぎない」は、本当に自分の価値観を表している言葉だなと思って。自分の芯というものはしっかりとありながらも、風のように、蓮のように、漂うように生きていきたいっていうのは、僕の信念なので。でも、それを人に押し付けるのもあんまり好きではなくて。ときには人に合わせたり、距離を取ったり……それが僕の人との付き合い方です。それは変わらないですね。表紙の帯にある「永遠じゃないから、今が楽しめる」って言葉も、今を楽しむってことは、本当にずっと大切にしてきていることなので。そういった自分の言葉をまとめたのが、帯になっています。