羊文学が今の時代に求められる理由 楽曲に宿るメッセージや歌声を踏まえ考察

 それにしても、決定的な新曲だ。視界が開けるような8ビートが鳴り響いた瞬間、きっと誰もがポジティブな意志を受け取るだろう。迷いなく前進していくような軽快なリズムと、前途を祈るようなコーラス、そして〈一人で進んで〉、〈きみはいま自由だね〉というメッセージ。「砂漠のきみへ」というタイトルは、孤独な環境にひとり立つ人々の自由を肯定する言葉に他ならない。歌詞の中に出てくる、思わず流れる〈涙〉を肯定するラインも、「祈り」から地続きにあるものだろう。これはポップでガーリーな作風を見せた『きらめき』と、初の四つ打ちの「サイレン」やポエトリーを含んだ「人間だった」など、溌剌なアプローチを見せた『ざわめき』を経過した彼女達に相応しい、快活で眩いばかりロックンロールである。

羊文学「砂漠のきみへ」Official Music Video

 恐らく羊文学の中でも、特にドラムとベースが際立っている楽曲と言えるだろう、重厚感のある「Girls」もまた新鮮だ。YouTubeドラマ『DISTORTION GIRL まっすぐいかない青春』の主題歌に決まっている1曲で、いつも以上にハイトーンな塩塚の声も、どこか性急さを持っている。迫ってくるボトムとヘヴィな音で疾走していくギターの掛け合いは、多くの人が聴きたかった新たな一面ではないだろうか。そして、タイトルは「Girls」である。作品の世界観を踏まえて書かれた楽曲かもしれないが、友人とBUMP OF CHICKENのコピーをしようとしたところ、「女だからダメだ」と言われた学生時代の経験が最初の原動力になっていた塩塚である。"女子高生のまっすぐ行かないリアルな日常を描いた"内容とのことで、もしかしたら彼女の原体験にある想いも、いくばくかは反映されているのかもしれない。ヘヴィなサウンドの上を切り裂いていくような、〈惹かれあい すれ違い/睨み合い 黙らない〉というリリックも、彼女らしいザラついた感覚が光っている。

「Girls」

 先日行われたオンラインツアー『羊文学 online tour “優しさについて”』で見えたのは、やはりその距離の近さだろう。それはメンバー3人のステージ上での物理的な距離、について言っているのではない。活動の初期から親しんできたBASEMENTBARと、その所縁のあるライブハウスを会場に選び、PAや照明のスタッフもここ数年活動を共にしてきた面々で固定。こんな時代だからこそ、まずは気の置けない人と誠実なクリエイティブを行う。恐らくこの感覚こそ今多くの人が共有している価値観ではないだろうか。

 とびきりキャッチーなメロディを持ったクリスマスソング「1999」のリリース以降、羊文学は着々と音楽性の幅を広げてきた。そしてそれは、「変化」と言えば確かに変化だが、きっとその時々の気分に忠実に、自然体のまま歌を作っていっただけなのだろう。隠さない本能と飾らない素顔、そして次第に広くなっていくステージ。新しく公開されたアーティスト写真の3人を見れば、少しはマシな未来を信じられる気がしてくる。

■黒田隆太朗
編集/ライター。1989年千葉県生まれ。MUSICA勤務を経てフリーランスに転身。
Twitter(@KURODARyutaro)

羊文学『砂漠のきみへ / Girls』

■リリース情報
羊文学『砂漠のきみへ / Girls』
8月19日(水)配信限定リリース

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