[Alexandros]、初のリモートアルバム『Bedroom Joule』で挑んだ楽曲構造の変化 ベッドルームミュージックの潮流とのリンクも

 新型コロナウイルス感染拡大の影響でフェスもイベントも激減した、2020年の“異例な夏”。「ステイホーム」と言われた外出自粛期間は過ぎたが、それでもライブエンターテインメントへの影響は長期化することが見込まれる。そんな中で、音楽シーンはどう変わりつつあるか。時代のムードはどこに向かい、ロックバンドは何を表現するのか。

 そんなテーマに向き合った作品の一つが、[Alexandros]がリリースした初のコンセプトアルバム『Bedroom Joule』だろう。

 これまでにリリースされた代表曲の数々を「Bedroom ver.」としてリアレンジし、新曲「rooftop」と共に全く新たな解釈で形にした同作。8月26日にリリースされるCDには、すでにデジタルリリースされている8曲に加え、「ar」「pr」と題されたインストゥルメンタルの新曲、そしてインディーズ時代の「真夜中」のBedroom ver.を加えた全11曲を収録。初回限定盤には、ソファに座り温かいランプの光に照らされムーディな空間でリラックスした表情で演奏するシークレットライブの映像も収録される。

[Alexandros] - Bedroom Joule (初回限定盤収録特典映像Teaser)

 この『Bedroom Joule』を読み解くためのポイントは2つある。1つはコロナ禍を受け世界各国でロックダウンが広がり、日本でも緊急事態宣言が発令された4月から5月にかけてリモートで制作されたアルバムだということ。そしてもう1つのポイントは、単なる弾き語りのアルバムではない、ということだ。

 自粛期間にはインスタライブで川上洋平(Vo/Gt)が生演奏の弾き語りを披露したりもしていたが、アルバムの「Bedroom ver.」は、そういったタイプのバージョンではない。メンバーがそれに穏やかなタッチの演奏を乗せるようなアレンジでもない。楽曲は、全て大胆に換骨奪胎されている。バンドサウンドというよりもゆったりとしたプログラミングのビートとサブベースの低音が存在感を放ち、もともと起伏が激しくフックの強い意匠の楽曲が、ループミュージック的な構造で作り変えられている。つまり、ローファイミュージックやチルやベッドルームポップといった海外で隆盛しつつある新たなジャンルとシンクロするようなテイストに仕上げられている。

 アルバムの制作は、そもそも予定になかったところからスタートした。もともと[Alexandros]は今年デビュー10周年を記念して様々な企画、ツアーやライブ、リリースを行う予定だったが、コロナ禍を受けてそのほとんどが中止や延期に。そこからのシフトチェンジとして、メンバーそれぞれの自宅スタジオで楽器や歌をレコーディングするリモートでの制作が始まった。

 さらには、最前線で働かざるを得ない医療従事者やエッセンシャルワーカーへの配慮もあった。『Bedroom Joule』のリリースにあたって川上洋平はこうコメントしている。

「コンセプトとしては、眠れない夜を過ごす方達にちょっとでもリラックスしてもらえたら、楽しんでもらえたら、という想いを込めて只今製作しています。

自分達自身もツアーやフェスが中止になったり、リリースも延期したり、悔しい思いをしました。

 これからどうすればいいのだろう? という漠然とした不安に飲み込まれそうになる夜が続きました。

 でもそんな中、最前線で働く医療従事者の方達や普段行くスーパーやコンビニで働く方達など、我々が家で自粛している中でも、不安な思いをして外で働く人達がたくさんいるわけで『我々もミュージシャンとして少しでも支えたい』という想いが募り、今回のコンセプト・アルバムの制作に至りました。

 今まではライブで汗だくになって盛り上がっていた曲を自宅や職場でのちょっとした合間に聴いてもらえるように作り直しました」

 つまり、彼らとしては、まず自分たちの楽曲を「BGMとして機能する」べくリデザインするという方法論が選ばれたのだろう。

 その一つのガイドとなったのが、ローファイミュージックやチルといった潮流だったはずだ。

[Alexandros] - Bedroom Joule (Teaser)

 実際リスナーサイドの動きとしても、コロナ禍以降、アッパーで攻撃的な楽曲よりも、チルなサウンド、リラックスできる楽曲が求められる傾向は強まっている。たとえばSpotifyなどのストリーミングサービスでも、自宅で何かをしながら“作業用BGM”として聴くためのプレイリストが増え、ジャンルとしての「ローファイ」への注目がより高まっている。

 『Bedroom Joule』では、こうしたテイストをバンドの方向性に吸収するという新たな試みが各曲で展開されている。ピアノループから始まる1曲目「ar」から、そのコード感を活かしながら続く「Starrrrrrr (Bedroom ver.)」が最も象徴的だろう。レイドバックしたビートの上で、口ずさむくらいのフラットなテンションの歌声が響く。「Run Away (Bedroom ver.)」ではサイドチェインコンプでうねるシンセパッドがキーポイント。シンプルなエレピとビートのループから始まり歌声がレイヤーになって重なる「Leaving Grapefruits (Bedroom ver.)」も、かなり引き算のサウンドメイキングがなされている。ドラマティックに盛り上げるのではなく、ビートがもたらすゆるく淡々としたフィーリングが徹底されている。

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