佐藤千亜妃が露わにした“静から動”への豊かな表情 自然体で挑んだ『Streaming live “NIGHT PLANET”』レポート

佐藤千亜妃、配信ライブで見せた豊かな表情

 8月14日、パソコンの画面越しだが久々に歌う彼女に会うことができて嬉しい。佐藤千亜妃の初の無観客配信ライブ、『Streaming live “NIGHT PLANET”』。今や新時代のスタンダード、配信ライブだからこその世界観を見せるのがアーティスト、それはコロナ禍にも決して負けない未来を示すマニフェスト。午後7時が来る、静かに画面が切り替わる、さあ始まる。

 イントロなし、歌う横顔のクローズアップから劇的に始まる1曲目は「PLANET」。暗い闇と輝くスポットライト、スタンドマイクで歌う彼女をぐるっと囲んで正対するバンド、まるでプライベートルームに招かれたような特別な親近感。そんなシルキーなシティポップ感あふれる「PLANET」から、アップライトベースがスウィングするジャジーなフィーリングが心地よい「Summer Gate」は、後半のR&B感覚漂う自由なフェイクが聴きどころだ。そして「Lovin’ You」はR&Bスタイルのトラックと生演奏を融合させ、ワイルドなスラップベースやギターソロが炸裂するエモーショナルチューン。歌う口もと、弾く手もと、アップ中心のカメラワークも臨場感たっぷりだ。

「こんばんは、佐藤千亜妃です。今日はもともと、去年『PLANET』というアルバムを出して、それのツアーを回るはずだったんですが、その代わりにと言うと何ですけど、配信ライブとして1曲1曲大事にお届けしたいなと思っています。最後まで楽しみながらお付き合いください」

 黒Tシャツにシースルーのジャケット、太いシルエットのパンツにスニーカー。ユニセックスでありながら上品でフェミニン、自然体で語るMCに緊張感は感じられない。「You Make Me Happy」では見えないオーディエンスに向けてクラップを促し、ハンドマイクで動き回る。熱くソウルフルなホーン入りのトラックと、透明感あふれるボイスとのバランスがいい感じだ。「リナリア」は未音源化のライブチューンだが、聴くたびにサビのメロディのポップさと歌詞の切ない純粋さに引き込まれる、引力の強いラブソング。バンドとの息もぴったりだ。

 メンバー紹介は、それぞれのキャラクターを生かしてゆるく明るく楽しく。オリーブオイルソムリエの資格を持つ神宮司治(Dr)によると、今年のお勧めはメルガレホのコンポジシオンだそう。種子田健(Ba)は週2ペースで自作のスパイスカレーに磨きをかけている。木下哲(Gt)の飼い猫の名前はネルちゃん。バンドマスターの宗本康兵(Key)の最近の趣味は筋トレ。和やかな笑みと確かなスキル、百戦錬磨のメンバーに支えられた佐藤千亜妃は、「全然緊張してないつもりでここに立って始まったんですけど、意外とドキドキハラハラしてます」と笑ってる。ライブはどんどん佳境へと入っていく。

 最近できたばかりの未CD化曲「橙ラプソディー」は、アコースティックギターのフォーキーな弾き語りで。〈もう死んでもいい〉とまっすぐな恋心を届ける、怖いほどに純粋なラブソングがいとおしい。逆光に照らされ歌う横顔がはっとするほど美しい。同名映画の主題歌だった「転がるビー玉」は、アコギ+バンドのロックバラードで、バンドの陽性なグルーブが気持ちいいのだろう、見るからに伸び伸び歌っている。同じロックバラードタイプでも「面」はより荒々しくシリアスに、E-BOWを使ったサステイナブルなギターサウンドが最高に刺激的で幻想的。手持ちカメラが佐藤千亜妃の皮膚ぎりぎりまで接近してゆく、攻めのカメラワークがカッコいい。髪を乱して激しく歌うのに、上品な透明感と純潔性を失わない存在感が素晴らしい。

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