コロナ禍でのライブ活動、海外シーンの動向は? アーカイブ配信、無観客、バーチャル……新たな4つのアプローチを探る

コロナ禍でのライブ活動、海外シーンの動向は?

4. ソーシャル・ディスタンスを保った観客ありライブ

 とはいえ、画面越しのパフォーマンスを眺め続けていると、むしろ現場に行けない事の辛さが高まっていくというのも正直なところであり、それはアーティスト側にとっても同様である。ビジネス面でも厳しいところがあり、多くの利益を生んだと噂される『Fortnite』とのコラボレーションについても大物アーティストだからこそ実現出来るものであり、誰もが取れる選択肢ではない。物販などでの収入を考慮しても、可能な限り早く旧来のライブの在り方に戻る必要がある。そこで、今は多くのアーティストが感染リスクを抑えた上でいかに観客を入れたライブを実現出来るかを模索するフェーズに突入している。

 サイケデリックロックバンドのThe Flaming Lipsは、バルーンの中に入るパフォーマンスを行うことがあるのだが、先日、アメリカのテレビ番組『The Late Show with Stephen Colbert』内でのライブでは、なんとこれを活用して観客もメンバーも全員バルーンの中に入ることで、見事にソーシャルディスタンシングを保ち続けたライブを実現することに成功した。

The Flaming Lips "Race For The Prize" - Late Show #PlayAtHome

 また、屋外の会場で車に乗ったまま映画を鑑賞する『ドライブインシアター』という形式を活用する例も増えており、例えば韓国ではK-POPのコンサートがこのドライブイン形式で行われるようになってきた。国内でも人気の高いIZ*ONEもドライブインコンサートを実現している。ファンも車のライトをサイリウム代わりに光らせることで場をさらに盛り上げており、この形式ならではのライブを楽しんでいることが分かる。

 世界最大手となるコンサートプロモーターのLive Nationもこのドライブインコンサート形式に大きな関心を抱いており、7月にはナッシュビルにて、ネリーらを招いた米国では初のドライブインフェスティバルとなる『Live from the Drive-In』の開催を予定している。

 しかし、ドライブイン形式は多くの車を収容出来る会場を必要とするため、非常に人気の高いアーティストか、フェスティバル形式でなければ開催することが出来ない。ライブハウスを拠点に活動するアーティストにとっては厳しい現状が続いている。ライブハウス内でソーシャルディスタンシングを保とうとすると、動員が大幅に減ることになり、利益を生むことが困難になるためである。

 この現状を打破する試みとして、韓国のインディーロックバンドであるSe So Neonは7月11日、12日の2日間、『X/X GUIDE LINE』と題したライブを野外会場となるSusan Sports Parkで開催する予定だ。

 「距離を置いた状態でも、情熱を届けることは出来るのだろうか?」という問いを据えて行われるこのライブは、ポスタービジュアルが示す通り、観客側のスペースが一人あたり1.5mおきに区切られており、観客全員がフェイスシールドを着用することが義務付けられている。興味深いのは、その状況自体をビジュアルやライブ自体のコンセプトとして設定していることである。このような見せ方をすることで、ファンもこの特殊なライブを「一つの作品」として触れることが出来る。厳しい状況をポジティブに転換した一つの例と言えるだろう。

 そして何より、来る9月には『SUMMER SONIC』を主催するクリエイティブマンによる、(実現すれば)コロナウイルス以降世界初となる、世界中のアーティストが集まる音楽フェスティバル『SUPERSONIC』の開催が予定されている。感染対策費用(場内のサーモグラフィーや消毒液などの設備投資)を補うためのクラウドファンディングは僅か数日で1000万円のゴールを達成しており、正直、直前まで開催可能なのか断定出来ない状態が続くことになるかとは思うものの、仮に無事に開催されることになれば、このフェスティバルがコロナ以降の音楽フェスティバルの一つの基準となるはずだ。

 すでに国内でも多くのライブハウスやクラブの閉店のニュースが相次いでおり、一刻も早くマネタイズ出来る状況を生み出さなければならないなかで、今後も様々な形式でのライブが行われることになるだろう。一人の音楽ファンとして、可能な限りそれらの試みをサポートすることで、以前のようにライブを楽しめる日まで耐え続けていきたい。

■ノイ村
92年生まれ。普段は一般企業に務めつつ、主に海外のポップ/ダンスミュージックについてnoteやSNSで発信中。
シーン全体を俯瞰する視点などが評価され、2019年よりライターとしての活動を開始
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Twitter : @neu_mura

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