Four Tet、Klein、Arca、ナカコー……小野島大が選ぶエレクトロニックな新譜10選

Soela『Genuine Silk』

 ベルリンの女性アーティスト、スーラ(Soela)ことエリーナ・ショロクホヴァの1stアルバム『Genuine Silk』(Dial)。アンビエントなシンセ音と浮遊するメロディ、グリッチーなビートがゆったりと融合した幻想的で叙情的なテック~ミニマル~ディープハウスです。とにかく音を扱う手つきが抜群に細やかで繊細で、雰囲気作りがうまい。夜中に聴くと見事にハマります。

Soela『Genuine Silk』
Phillip Sollmann『Monophonie』

 過去にこの連載でも紹介したことがあるベルリン在住のDJ/プロデューサー、エフデミン(Efdemin)ことフィリップ・ソルマン(Phillip Sollmann)が、本名で新作『Monophonie』を発表。エフデミン名義の前作『New Atlantis』では、四つ打ちのストイックなビートにダルシマー(ハンマーダルシマーともいう)やハーディ・ガーディ(弦楽器の一種)、ギターといった楽器を重ね、ヨーロッパの古楽とエクスペリメンタルな電子音楽が合体したようなユニークなディープ・テクノを展開していましたが、本名名義の本作では、そこから四つ打ちのダンスビートを抜いてドローン~アンビエント色を強め、電子楽器の代わりに生楽器を多用して、打ち込みというよりは生演奏に近いような感覚のサウンドになっています。他にはないユニークな音楽性ですね。

Phillip Sollmann『Monophonie』
bvdub『Ten Times the World Lied』

 サンフランシスコ出身、現在は中国在住のアメリカ人アーティスト、ブロック・ヴァン・ウェイ(Brock Van Wey)によるソロプロジェクトがbvdub。新作『Ten Times the World Lied』(Glacial Movements Records)が発表されました。2007年からほぼ毎年2枚のアルバムを発表している多作家ですが、悠久の大河のような揺るぎのないドローンアンビエントを今作でも展開しています。シューゲイザーとアンビエントとエレクトロニカを繋ぐ幻想的で荘厳でエモーショナルなサウンドスケープは、深遠にしてイマジネイティブ。聴き手を果てしない思索へと誘います。

bvdub - Not Yours to See [Audio]
bvdub『Ten Times the World Lied』
Koji Nakamura『Texture Web』

 ナカコーことKoji Nakamuraの『Texture Web』(Meltointo)は、彼が2014年から限定CD-Rとしてリリースしてきた『Texture』シリーズ20作のなかから1曲ずつ20曲を選んでコンパイルした、いわばサンプラーです。ナカコーがこつこつと自宅で録りだめてきたエレクトロニックミュージックの集大成ですが、意外なぐらいそのサウンドの幅は広く、75分という時間を飽きさせない閃きに満ちています。彼のアルバム『Epitaph』(2019年)は、『Texture』シリーズの中の楽曲を発展させたものも多く、いわば彼の音楽的アイデアのプロトタイプ集とも言えるでしょう。ここから次のアルバムのヒントが聞こえるかもしれません。各ストリーミングサービスのみのリリースです(公式HP)。

Koji Nakamura『Texture Web』
『Supertonic:Mixes』

 最後に、ダンスミュージックの悦楽、その原点を思い出させるような素敵な作品を。ダイアナ・ロスのソロ以降の代表的なヒット曲を、アメリカのマルチインストゥルメンタリストにしてプロデューサー、エリック・クッパーがリミックス/リワークしたのが『Supertonic:Mixes』(Motown)。エリック・クッパーはフランキー・ナックルズを始めデヴィッド・モラレス、グロリア・エステファン、マライア・キャリーなど延べ1400以上もの楽曲を制作/リミックスしてきたというUSハウスの重鎮ですが、ここでも原曲の魅力をまったく損なうことなく、逃げも隠れもしない、堂々たる王道のハウス~ディスコに仕上げています。甘美でゴージャスな、それでいて歌を引き立てるアレンジ、心地よく踊れるテンポ感など、歌ものダンスミュージックとは本来かくあるべきというお手本のようなリミックス集。ダイアナのボーカリストとしてキュートな魅力もしっかり伝わってきます。80年代のパラダイスガラージクラシックとして今なお色あせない名曲中の名曲「The Boss」など全9曲というボリュームはちょっと物足りないほど。

I'm Coming Out / Upside Down (Eric Kupper Remix)
『Supertonic:Mixes』

 ではまた次回。

■小野島大
音楽評論家。 『ミュージック・マガジン』『ロッキング・オン』『ロッキング・オン・ジャパン』『MUSICA』『ナタリー』『週刊SPA』『CDジャーナル』などに執筆。Real Soundにて新譜キュレーション記事を連載中。facebookTwitter

関連記事