シングル『DEAD STROKE』インタビュー
藤田恵名が語る、シンガーソングライターとして『バキ』に重ねた「DEAD STROKE」 「やめちゃいけない、やるしかないんだ」
2ndアルバム『色者』以降の第1弾となるシングル『DEAD STROKE』は、藤田恵名初のアニメタイアップ曲となった。それも人気アニメとして多くのファンを持つ『バキ』のNetflix独占配信となる『バキ 大擂台賽編』のエンディングテーマとして、アニメとともに世界に配信される曲だ。
がむしゃらにギターをかき鳴らし、〈痛みを知る覚悟を晒そうか 死ぬか去るかここで突き付けろ〉というフレーズではじまる「DEAD STROKE」。『バキ』という作品に思いを重ねながらも、シンガーソングライター藤田恵名のストーリーや歌への正直な思いがまっすぐに貫かれた曲で、強い言葉とともにラウドで疾走感のあるバンドサウンドが、彼女の声にエネルギーを送っている。インパクトがあり、またエモーショナルに心を撃ち抜いていく曲になっている。
インタビューは、緊急事態宣言からひと月ほど経ちながらも、まだ先行きの見えない5月のはじめにオンラインで行なわれた。「DEAD STROKE」は、藤田恵名のバンドメンバーで編曲を手がける田渕ガー子が作曲した曲でもあるので、今回は田渕にも登場願い、作品や近況について話を聞いた。(吉羽さおり)
『バキ』のメンタル的な部分も、自分と照らし合わせて書いた
ーー(インタビュー時点で)緊急事態宣言が出て以降、藤田さんは家でどんなふうに過ごしていますか。
藤田恵名(以下、藤田):今回の曲は今までよりもギターが難しくなっているので、これまで以上に練習しなきゃとは思ってます(笑)。それも、今はステイホーム期間で時間がたっぷりあるので、練習する時間がなかったという言い訳ができないから、自分に鞭を打って練習していて。コロナが収束した後にもライブに来てもらえるようにしたいなと思っているので、ファンをつなぎ止めたいと配信の企画を今まで以上に増やしたりしています。あとは、柄にもなく料理をはじめたりもしてますね(笑)。
ーーこの時間を前向きに捉えて過ごしているんですね。ニューシングル曲「DEAD STROKE」は先ほどの話にあるように、かつてなくギターがラウドで派手であるし、バンドサウンドもヘヴィなアレンジが効いた曲になりました。制作としてはどんなふうに進んでいったものだったんですか。
藤田:『バキ』のエンディングテーマにというオファーをいただいて、まず作品を知らなかったので、漫画を読むところからスタートして。なるほどと思いながら、私なりの解釈で書き下ろした曲ですね。主人公の範馬刃牙は父・範馬勇次郎への敵わない思いを抱いていて。倒せない相手であり、同時に目の上のたんこぶかもしれないし、それでも刃牙は戦い続けて自分自身も磨き上げていくという意味で、諦めと希望が交差する感じがあったので。そのメンタル的な部分も、自分と照らし合わせて書いた曲なんです。
ーー初めて『バキ』という作品に触れたということですが、エンディングテーマを手がけてほしいというお話がきたときは率直にどう思いましたか。
藤田:そのときたまたま別のお仕事でガー子さんと一緒にいたんですけど。ウェブサイトのインフォのアドレスに直接連絡がきたんですよね。それで、え?ってなりました。
田渕ガー子(以下、田渕):ただ藤田は『バキ』をそこまで知らなかったので、なんかメールきてますけど見ました? くらいの感じだったんですよ。僕は20年来の『バキ』ファンですから、震えましたよね。
ーー曲やアレンジにより力が入ってるのは、ガー子さんの20年来の愛がぶちまけられたということですね(笑)。
藤田:それは絶対ある!
田渕:(笑)。とはいえ、アニメソングのタイアップは僕自身初めてだったので。まずテレビサイズの89秒に収めるということを、最初に意識しましたね。であれば、どちらにせよ自分が曲のアレンジをやるから、曲の構成も考えながら作った方が絶対にラクだなと思ったので。多分、作品に初めて触れる藤田よりは『バキ』寄りの攻撃性の強い曲を書けるだろうという見込みで。あとはクレジットですよね、そこに名前が載るのが嬉しいなと。
藤田:そっちが大事(笑)。
田渕:僕が作曲で藤田が作詞という分担にしました。
藤田:アニメのエンディング曲なんて、夢みたいでしたね。しかも今回は、情報解禁するまですごい時間があって。早く言いたいという浮き足立った気持ちと、これがドッキリではありませんようにというのも思ってました。
ーー制作はスムーズに進んでいきましたか。
藤田:そうですね。歌詞はめちゃくちゃ書き直したりもありましたけど。レコーディングは、バンドメンバーが演奏してくれたりとか、ガー子さんもエンジニアさんもすごく手早くやってくれましたね。
田渕:いやでも大変だったよ。昨年の8月か9月くらいにお話をいただいて、1コーラスぶんを年内いっぱいで納品してほしいということだったんです。結構時間があったので、普通に進めたらできるだろうなと思ったんですけど。やっぱりもっと超えていかないといけないなっていうので僕は悩んで悩んで作りましたが。あとは作詞だけだよという段になってからはスムーズでしたね。
ーー常に戦っていく、戦う姿勢でいるというこの作品に向けての曲を藤田さんにお願いするというのは、シンガーソングライター藤田恵名さんの背景を知っているとぴったりですが。とはいえ、なぜ私に? という思いはあったんですか。
藤田:そうです。これまで『バキ』ファンだと言っていたわけではなかったですし、それで制作の方にも「なんで私なんですか?」って聞いたんです。そしたら、今まで続けてきた全裸ジャケットを見て、藤田恵名を知ってくださって。でもそれ(全裸ジャケ)がハッタリだったらやめようって思ったんだとも言っていたんです。でも曲もかっこよかったと言ってくださって、こっそりライブにも来てくれていたようで。しかも来ていただいたライブが、毎年やっている大きなワンマンの直後にあったリリースイベントで、小さいハコでのライブだったんですけど。だから、いっぱい練習してリハを重ねて挑んだライブではなくて、MCで私がファンを罵る感じとかあってそれがよかったようで(笑)。どこで誰が見ているかわからないから、気をつけなきゃなって思ったのと、ずっといろいろ批判もされましたが全裸ジャケットを続けてきてよかったなと思いました。本当は、次は全裸ジャケットをやめようって話していたんです。
ーーそうだったんですね。
藤田:もう30歳になるし。でも、その全裸ジャケットをきっかけに知ったと言ってくださった手前、今回のジャケットどうしましょうって言ったら、ぜひ次も脱いでとなりまして。これは引き返せなくなっちゃったなと(笑)。
ーーまた今回、腹を括る感じになりましたね。
藤田:はい(笑)。次のリリースがどうなるかはまだわからないですけどね。今回はそういうことがあって腹を決めて脱いでいるという感じですね。だから私は、曲作りプラス、脱ぐ/脱がないとも戦ってるという、アーティストとしてあるまじき感じで葛藤しておりました(笑)。
ーー今回は先ほども歌詞について触れていただきましたが、常に自分の現状と戦い、傷つきながらも抗う内容は、藤田さんならではの「節」がより強く反映されましたね。と言っても、あまり気負うことなく書いているように思います。
藤田:ありがとうございます。刃牙の強さであるとか、この曲はオープニングではなくエンディング曲なので、見終えた人たちが、やっぱり刃牙すげえなとか、自分も頑張ろうとかいう気持ちで戦闘力をあげてほしいなという思いで書いているので。自分を刃牙に置き換えて考えてみたり、あとは刃牙といえばやっぱりあの肉体なので。歌詞にもなるべく身体がわかるような、かつメロディに乗るようなワードをちりばめたりとか。遊び心も持ちつつやりました。
ーー最初に浮かんだフレーズっていうのはあったんですか。
藤田:サビの終わりに〈魂は売らない〉とあるんですけど。
ーー肝となるところですね。
藤田:でもそれって、この単語だけ聞くとちょっと中二病感があるというか(笑)。女性が歌うのはちょっと恥ずかしい感じがあるんですけど、『バキ』という作品のフィルターを通すということで、強い単語にこだわりたかったので。これは言いたいなというのはありましたね。
ーーいつもは藤田さんの思いをダイレクトに伝える歌詞ですが、今回は『バキ』という作品を挟むからこそ使える言葉、伝えられる思いというのもあったんですか。
藤田:〈死ぬか去るかここで突き付けろ〉という歌詞はそうですね。今までのシングルとかに入れるとなるとちょっと、そこまでの窮地に私は立ったことがないし。普通に曲作りをしているなかでは、浮かばなかったと思うんです。でも刃牙はつねに死に物狂いで戦っているという意味では、これを私がこの曲で歌っても差し支えないなとは思っていました。
ーー作っていた時期、何か藤田さんの心情的に重なるところはありましたか。
藤田:ワンマンライブとかも一通り終わって、ちょうど制作期間ではあったので。悲壮感とかではないんですけど、なんかずっと寂しかったんです。しかも、リリースの告知もできないし(笑)。ひたすら曲を書いたり、あとは『バキ』を読みながら、私に務まるのかなとかいう不安もあったりしたんですけど。その時期でも特別何かあったとかではなかったかなあ。
ーー制作としては、2ndアルバム『色者』以降にリリースするものになりますね。充実したアルバムになっていましたし、あとは自分でMV「境界線」を初監督したりとどんどんやりたいこともできるようになっていて。デビューから着々と、見える景色が変わってきた感覚などはあるんですか。
藤田:ああ……そういうことでいうと、今まで活動してきてずっと、少しの角度ではありますけど右肩上がりなので。30歳になるけど、それでもこうしてタイアップが決まったりとか、新しいことがどんどんできていく環境にいれるのは、すごくありがたいことだなって思うんです。周りが私を落ち着かせてくれなくて(笑)。どんどん新しいことにチャレンジさせようとしてくれている、そういう流れなのかなと思って。とくに今回は初めてのアニメのタイアップだったから、YouTubeとかにエンディング曲と動画がアップされたときのコメント数の多さとか、いわゆるアニメファンの方が聴いてくれた感想がダイレクトにコメント欄に見えて。これからさらに歌詞がアップされたら、“歌ってみた”とか“やってみた”も増えるのかなって。どちらかというと、今まではそういうことをやる側だったから。それが、“歌ってみた”をされる側になるのかって思うとワクワクします。そういう意味では、これからまたちがう景色があるのかなって。
ーー今回、曲調もこれまでにない新鮮なものだから、新たなリスナー層にも広がりそうですしね。かなり馬力あるサウンドですが、その点ではボーカルとしてはどうアプローチして言ったんですか。
藤田:毎回ライブのときにバテないように、レコーディングではブレスの位置とかを工夫するんですけど。この曲は1曲歌ったときのカロリー消費がすごいんです。でもバンドメンバーも気合い入れてレコーディングしてくれた手前、歌で手を抜くわけにいかないので(笑)。ライブでも、セットリストに「DEAD STROKE」が入ると、バンドメンバーも気合いが入るので。馬力ある曲だから自分の奥底からーー中島みゆきさんのような馬力の出し方や表現の仕方もありますけど、私は今は本当に力強さだけでしか馬力を出せない分、それをライブで早く伝えたいなと思います。
ーーサビ前に、サビへとアクセルを吹かすような演奏パート、聴かせどころとなるギターのパートがありますよね、あの部分はライブでグッときそうです。
藤田:そう、そうなんです……。
田渕:藤田にあのギターの部分を弾いてほしかったんですけど。結局やらないことになりました(笑)。無駄になっちゃったなとは思ってるんですけど、曲の構成的にはいいかなって思って。
藤田:最初はあそこの部分に歌詞も入ってましたよね。
田渕:何か入れようかなと思ってたんですけどね。これはとくに最近の話ですけど、毎回新しい曲ができるたびに、ひとつ新しいギターを覚えてもらおうというのがあるんです。今回はギターリフを弾いてもらおうと思ったんですけど、まだ早かったみたいです。難しいわけではないんですけどね。
ーーでもこの自粛期間で練習していったらわからないんじゃないですか。
藤田:ギクッ。
田渕:割合がだんだん増えていくかもしれないですよね。
藤田:なんていうか、毎回ちょっとずつ、私が気づくか気づかない程度に、難しいアレンジを入れてくるので。私も成長を止めるわけにはいかない状況です。
田渕:なんで成長を止めようとするの(笑)。
ーーガー子さんから藤田さんへ、この曲に対してのオーダーはあったんですか。
田渕:歌い方についてはひとつだけありました。この曲は、普段藤田が作ってくる曲よりも、敢えてふたつキーを高く作ったんです。その状態でメロディラインを作ると、いちばん高いトップノートはいつもなら藤田がファルセットで歌うんですけど。作品が作品だから、ここは力強く全力で地声でというオーダーだけはしました。
藤田:はい。だからいつ喉がバテるか不安でしたが。でもそれも、いつもより高くしてるっていう話は聞いてないかもしれない。気づいたらそう歌わざるを得なかったというか。
田渕:はははは(笑)。でもいつものキーのバージョンも作って、「どう思う? やっぱり高いほうがいいでしょ」ってなったじゃん。都合の悪いことは忘れるよね。
藤田:数カ月前のことなので、もう覚えてないです。でもいつものレコーディングよりは穏やかに、ケンカすることもなくやってました。