MIYAVIが考える、リアルとバーチャルが共存するポストコロナへの展望 「何をもって“人”なのかもう一度問われることになる」

MIYAVIが考える、ポストコロナへの展望

“バーチャルの中でどうリアルになれるか”が今後の課題

――5月には新たなプロジェクト「MIYAVI Virtual」を立ち上げ、全編USアニメーションチームによる 「Holy Nights」MV公開、そして自宅スタジオからのバーチャルライブをスタートさせました。そのアイデアやプランはどういうものだったんでしょうか。

MIYAVI:アメリカに飛んでMVが撮れないということになって、急ピッチで方向転換をして、アメリカのチームとアニメーションやヴォリュメトリックといったテクノロジーを使った表現方法の模索を始めました。エンターテインメント、特にライブやパフォーマンス、アートって、人が集まる前提なので、最初に打撃を受けて、最後に回復すると言われています。緊急事態宣言が解除されたといっても(取材日は5月末)、今からいきなり集まれるわけじゃないし、ライブの開催にしても段階を踏んでいかないといけない。そういったポストコロナの状況で、音楽をどうマネタイズするかも含めて、アーティストもマネージメントもライブプロモーターも、意識的に、かつ能動的に動けるかが問われている。そこで動けなかったら生き残ることはできない。もちろん、僕たちは人間である以上、人間として生身の触れ合いを求めるだろうし、コロナが収束に向かうにつれ、ライブも徐々に回復していくと思いますが、でもそうなった頃にはきっと価値観も変わっている。リアルとバーチャルが混在した社会になっていく。そうなったときに、応援してくれる人たちとどうつながるか。人と人とのつながりが浮き彫りになっている今のこの状況下で、そのためのプラットフォーム作りが大事だと思ったので、その下支えになり得るものを考えながらファミリーライブの配信と同時期に並行して進めていました。

MIYAVI「Holy Nights」Music Video

――ジャパンツアーの初日に急遽自宅スタジオからライブを行っていましたが、これは?

MIYAVI:ツアーが延期になって、ファンのみんなもがっかりしてるだろうなと思ったので、最初は「今からサウンドチェックです」みたいな(ライブをする)妄想のツイートを投稿していて。ツアー中もリアルタイムでツイートしていたので、それをバーチャルでやるっていうただのネタだったんだけど、せっかくだし少しでも生で配信をやろうと思って。その日急遽スタッフに話をして、ネットの回線とか設定も音量のバランスもその場で決めながらバーチャルライブを始めたという感じです。「やれるのかな、でもやれなくても別にいいかな」って。それで告知も何もしなかったんです。初日が終わってからいろいろ考えて、『"Holy Nights" Virtual Tour 2020』を一連のプロジェクトとして開催するというのをスタッフの皆さんに伝えた記憶があります。それで、2回目からはちゃんと告知してLINE LIVEとTwitchで配信することにしました。

――まさに走りながら考えるみたいな感じですね。

MIYAVI:計算してできるものでもないので、楽曲作りと一緒ですね。その時に肌で感じる空気感を大事にしたい。あと、ファミリーライブに関しては、これで一区切りかなという感じもありました。回線のクオリティをあげたり機材を揃えたり、ソロのライブの準備もしているので。もう一段落したかなと。それでも、きっとこの時期にファミリーライブをやっていたのは、この先も一つのトピックとして記憶にすごく残ると思います。僕たちならではの乗り越え方を一つ提示できた。ツアーや撮影が延期になって、いろんなプロジェクトがなくなって、でもマイナスだけじゃなく、そこで見えてくる部分を大事にしたかった。小さくともそれは一つの大きなアチーブメント(達成したもの)だと思います。

――プラットフォームについての話も聞かせてください。この期間にはインスタライブでファミリーライブを配信し、バーチャルライブではLINE LIVEやTwitchやニコニコ動画など様々なサービスを使っています。いろんなチャンネルを用いて発信をされてきたと思うんですが、その違いはどう捉えていますか。

MIYAVI:今はバーチャル上でのワールドツアーも開催しようと思っているんですが、そこでもいろんなプラットフォームを使おうと思っています。時間帯を変えてもいいし、国によってプラットフォームを変えてもいい。もちろん旅は好きだし、そこでしか得られないものもあるので、コロナが本当に落ち着いたらリアルなツアーもするつもりだし、そこでしか得られないものもあります。でも、ここから先は、チケッティングも含めて、いろんなマネタイズの可能性も模索していくつもりです。

――有料でのオンラインライブのプランもある。

MIYAVI:ライブがないとスタッフも仕事がない。そこについては僕たちがアイデアを出し合って引っ張っていかないとという気持ちはあります。そうじゃないと業界がシュリンクしていって、有能な人材が流出していってしまう。米ウォルト・ディズニーのケヴィン・メイヤー氏がTikTokの新CEOに就任したように、有能な人間が他の業種に行ってしまう。避けられないことかもしれませんが、それでも守るべきものを考えていかないといけない。僕たちアーティストも、自分たちの音楽をマネタイズしていくことに真摯に向き合って、その価値のあるものを発信していく必要があると思います。僕はそこに対して自信がありますし、胸を張ってやっていきたい。自分が動ける部分はどんどん動いていきたいし、かつてワールドツアーに初めて挑戦した時の感覚と似ています。次が見えない状況だからこそ、新しい道を作っていきたいと思います。

――おそらくこの先、以前のようなライブエンターテインメントを再開できるのはかなり先になりそうですよね。感染が生じないことを証明できないと大人数が安全に集まるのは難しい。そのことを前提に、ライブビジネスというものを再構築していく必要があると思います。

MIYAVI:これは本当に早いスパンで動かないとやっていけないし、完全に(ライブエンターテインメントが)変わっていくと思います。とは言っても、じゃあ配信にすればいいと言えば、そこもどうかとも思っていて。ここから先、テクノロジーを使ったものも含めて、いろんなアウトプットは用意していくつもりですが、規模感としてどうあればいいかは、試行錯誤しながらでないと見えないので、とにかくやるしかないですね。“バーチャルの中でどうリアルになれるか”というのが、今後の課題だと思います。ライブにしても、この状況下が続いたときに、果たしてバーチャルの中でのあり方はどのベクトルが正解なのかは、やってみないとわからない。バンドでの臨場感が伝わるのか、もしくは耳元に直接聴こえるほうが伝わるのか、それは状況によって違うから。

――そういう意味では、「MIYAVI Virtual」を通じたオーディエンスとのつながりはどういうところで実感されましたか。

MIYAVI:“共有”だと思います。「思い」の共有もあるし、「時間」の共有もある。やっぱり、事前に録ったものと、その場でやってるものって、同じことをやっていたとしても、何かが違うんです。言葉ではなかなか言い表せないけど、離れてるんだけど「今、ここにいる」ということの価値がもっと高まるんじゃないかと思います。ライブはそうやって一緒の時間にいるということを共有するものになっていくように思う。だから、ライブでやれるフォーマットを持つこと、そのクオリティを高くしていくということが課題なんじゃないかと思います。

――MIYAVIさんは、こうした変化を踏まえて、人々の考え方や価値観はどう変わっていくと思いますか。

MIYAVI:まず、自分が変わろうとしなくても周りや見える景色が変わって、結果的に価値観が変わるのは間違いないと思います。コロナ以前に戻ろうとしている人もいるけれど、それでも変わっていると思います。例えワクチンができたとしても以前のようには戻らない。たとえばこのインタビューだってそうだし(リモートでのインタビュー)、オンラインのコミュニケーションが確実に成立する。し、むしろそっちの方が良いんじゃないかと気づき始める。たとえば書類の共有とか、オンラインの方が効率いいこともありますよね。当たり前にリアルとバーチャルは共存するようになっていき、データや意思疎通までも非物質化していく速度は桁違いで加速していく。そうなっていくと、何をもって「人」なのかというのを僕らがもう一度問われることになると思います。何をもって自分なのか。そこにいる自分は本当に自分なのか。どこからどこまでが人の領域で、どこから先が違うのか。バーチャルの定義すら変わっていく。まだそこまで価値観は変わっていないと思いますけれど、そこに向けた一歩が始まっている。そして、その変革は確実に起こるでしょうね。その中で、よりリアルでありたいと思います。

MIYAVI オフィシャルサイト

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる