ハナレグミ、Caravan……ネット配信を介して音楽を届ける、弾き語りによるアクション

 2月末に、新型コロナウイルスによって、ミュージシャンたちがライブをできない状態になってから、2カ月以上が経つ。当初は、公演中止になったその会場を使って、無観客生配信ライブを行うアーティストもいたが、3月25日に小池都知事が記者会見を行い、改めて自粛要請をしたあたりを境に、「メンバーとスタッフが集まること自体がリスキー」という認識が強まり、それもなかなかままならなくなっている。

 ただし、それ以降も、多くのミュージシャンが、さまざまな工夫をこらして、新しい音を、ネットを使ってリスナーに届けている。

 佐野元春&THE COYOTE BANDの「エンタテイメント!」のように、原曲を聴いてメンバーがアレンジを考え、演奏した音を送り、それを佐野元春がまとめて新曲を作り上げて発表した例もある。

「エンターテイメント!」佐野元春 & ザ・コヨーテバンド

 たとえば、YO-KINGを除くカーリングシトーンズの5人は、奥田民生のYouTubeチャンネルで「ガッツだぜ!!」を披露した。奥田民生によると、「みんなで元の曲をヘッドホンで聴きながら『せーの』で一緒に録って、あとでズレを修正する」という方法で行ったそうだが、それでもそれぞれの演奏がけっこうズレていたりするのが、リモートのリアルを表していて、かえって楽しい。

ゲスト:斉藤和義・寺岡呼人・トータス松本・浜崎貴司 / 第3回『カンタンテレタビレ』

 もちろん、シンプルに、弾き語り等の「ひとりでできるライブ」に活路を見出すミュージシャンもいる。やはり、当然、普段からそういうライブをよく行っている人なわけだが、イコール、以前からネットでの発信に慣れている人だというわけではない。というなかで、「慣れていなかった人」ひとりと、「慣れていた人」ひとりの、最近のそうした表現がすばらしかったケースを目の当たりにしたので、以下、ご紹介したいと思う。

クリエィテビティを発揮したハナレグミ

 ひとりめはハナレグミ。2019年11月27日(彼の45歳の誕生日)に、オフィシャルのInstagramを開設。ということは、それまでは持っていなかったわけで、あと、本人のTwitterアカウントもないわけで、つまりもともとSNS関係に積極的ではなかったのだと思うが、それが変わった。

 まず、4月4日に行うはずだった、11年ぶりの日比谷野外大音楽堂でのひとり弾き語りワンマン『THE MOMENT 〜acoustic with moon light〜』の中止を、3月26日にアナウンスした。で、その3日後に、野音の日だった4月4日に、弾き語りライブ『ハナレグミYouTube Live「出前THE MOMENT」』を行い、ビクターのYouTube公式チャンネルで生配信することを発表。そのライブで初披露するはずだった新曲「ムーンライト」のCDを通販限定で発売することも、併せて告知された。

 当日のその生配信ライブでは、その「ムーンライト」や歴代の代表曲たちに加え、ローザ・ルクセンブルグの「橋の下」のカバーなども披露。その映像は、4月11日までの期間限定で、アーカイブが残された。

 という、おそらく自身初の一大イベントが終わっても、彼はひとりで撮り下ろしたライブ映像の配信を、Instagramを使って、積極的に行っていく。

 4月10日には、大阪のFM802のために作った曲(作曲が永積タカシで作詞は奥田民生)、「僕のBUDDY!!」を、弾き語りでアップした。

 続く5月4日は、アコギ1本で自身の「さらら」。映像がなぜかモノクロで、画角が横になる。

 翌日の5月5日もアコギ1本でモノクロ、ただし画角は正方形で「SPARK」。2009年に児玉奈央のために書き下ろした曲で(歌詞は彼女と共作)、気に入ったのでセルフカバーして2011年のアルバム『オアシス』に入れたものである。と書いて気がついたけど、『オアシス』収録曲率、高いですね。「オアシス」、「Crazy Love」、そしてこの「SPARK」で3曲目だ。

 そして。5月6日、カラー・画角横・顎より上は映らず、という状態で、きのこ帝国「金木犀の夜」のカバーを歌った回で、種明かしがされた。この6日間の曲の頭文字を入れ替えて並べると、「サブスクカイキン」となる、つまり5月6日にこれまでの全115曲のストリーミング配信がスタートになる、ということで、決行された企画なのだった。

 にしても、感心するのは、同じパターンで撮った曲がひとつもないことだ。5月1日以前のものは、弾き語りだったり、ループを使って多重録音だったり、インストだったりと、毎回違う。5月1日から6日までは、基本はどれもギター1本弾き語りだが、画角やアングルや使用楽器や衣装などを、毎回変えている。

 というふうに、今回のこの事態によって、「ライブができないけど歌を聴いてほしいからアップします」というレベルではなく、ある種、クリエイティビティに火がついたみたいな状態になっていることがうかがえる、ハナレグミなのであった。

ハナレグミのトップトラック

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