振付から紐解くJ-POPの現在地 第7回:竹中夏海(後編)
竹中夏海が語る、振付師としての“文化系”的思考 藤井隆との出会いは転換点に
藤井隆「養命酒からだコトコト体操」が振付師としての転機に
――今までに手掛けた作品群を振り返って、このアーティストもしくはこの楽曲が転換点になったと思うような振付はありますか?
竹中:もちろんたくさん楽しいお仕事をさせていただいていますが……誰か1人を挙げるとすれば藤井隆さんです。藤井隆さんそのものが私の人生の転機というか。2年前に『養命酒』の「養命酒からだコトコト体操 ~MAKE ME WARM~」という作品でご一緒したんですよ。踊り手が藤井隆さんで、作詞作曲はDÉ DÉ MOUSEさん。藤井さんご自身も作詞に参加して、英語詞の空耳みたいな感じで養命酒の材料を歌詞に取り入れたりしていたので、かなりシュールな仕上がりになったんです。しかもそれを(奥様の)乙葉さんが歌うという、いろんな意味ですごい楽曲で。これだけやりたいことや憧れの人が集まったありがたい作品で、もし自分が思ったことが振付で形にできないんだとしたら「私はもうダメだぞ」と自分を追い込みながら作りました。藤井さんはプロデューサー的な感覚をお持ちの方ではあるんですけれども、踊り手としても末吉9太郎(CUBERS)くんみたいな感じで「先生がやってほしいことを再現しますから、どんどん言ってください!」という感じでめちゃくちゃ努力されるので、本当に幸せなお仕事でした。
――革命的な出来事だったんですね。そういえば、西寺郷太さんと堂島孝平さんのユニット、Small Boysに藤井隆さんがフィーチャリングで参加した「Selfish Girl」(2013年)の振付もされていましたよね。そのときに西寺さんがあまりにも踊れなくて、V6のイノッチ(井ノ原快彦)さんが練習を手伝ったという話を聞きました。
竹中:あのときは振り入れする時間がなかったので、映像をお送りして、撮影当日に確認して……という感じだったんですけれども、映像を見て踊れなかったから自主練するときに仲良しのイノッチさんに助けてもらったと言っていました。
――そんな強力な助っ人あるんだ? と思って。
竹中:本当ですよね。それなのに全然踊れてなかったんですよ。「俺、イノッチに教えてもらったのに~」とか言いながら(笑)。藤井さんと堂島さんがすごく踊れるので、逆に郷太さんのその踊れなさがアイドル性みたいな振り幅になるから「踊れなくていいです! それがすごくキュートなので」と言いましたね。
――面白いですね。お仕事の幅もどんどん広がってきていると思うんですが、アイドルに限らず、今後一緒に仕事をしてみたいと思っている人というと?
竹中:この前『ガリバー』のCMで瀧本美織さんに振付をさせてもらったんですが、表情のつけ方も含めてすごく魅力的な方でした。これは私の持論なんですけれども、踊ると注目を浴びたり話題になる女優さんっているなと思っていて。たとえば新垣結衣さんは、『ポッキー』や『十六茶』のCMでも踊っていたし、“恋ダンス”も大きな話題となりました。“恋ダンス”は、もちろんドラマや楽曲がよかったこともすごく大きいと思いますが、新垣さんが「ちょっと照れている」という点が大きいのではないかと思ったんです。振りを踊ってはいるんですけれども、熱く真剣になりすぎずに素の部分が見え隠れする感じが、お茶の間にめちゃくちゃハマったんじゃないかなと。そういう意味で彼女に続くのが、私は中条あやみさんじゃないかと思っています。ダンスを経験しているわけではないのに映像で踊っている作品が多くて、でもそれが本当に魅力的なんです。映画版『チアダン』でもすごく頑張っていましたし。今は女優さんでも踊りに触れていない方のほうが少なくなってきていますが、何かしらの形でご一緒できると良いなと思っています。
――最後の質問ですが、今振付師として活躍されている中で竹中先生から見て「この人の振付がすごい」と思う方はいらっしゃいますか?
竹中:好きな振付師さんが多いので、難しいんですけれども……。私はMIKIKO先生オタでもあるので、たとえばPerfumeの「Clockwork」という楽曲のダンスを見たときに膝から崩れ落ちそうになりました。「“時計”という表現にこんなに種類があるんだ!」と驚愕して……。同じくPerfumeの「NIGHT FLIGHT」も、CAさんならではの所作がたくさん盛り込まれていて、すごくステキでしたね。あと以前に対談もさせてもらった臼井比呂子先生は『アイドル×戦士 ミラクルちゅーんず!』の実写版のmiracle²や、あと東京女子流やアイドルネッサンスの振付も手掛けられていますが、先生の振付の中の女の子の表現がすごく好きですね。たとえばアイドルネッサンスの「前髪」という曲に〈文集に載せた将来の夢は 急いで作ったおもちゃみたい〉っていう歌詞があって、そこで一瞬だけスカートを持ってふわっと広げる振付があるんです。歌詞をバチッとはめているわけではないので、いろいろな捉え方ができるなと思って。楽曲や彼女たちが持つ儚さといった要素を、こういう所作で表現するんだと思って、本当に稲妻が走るというか、鳥肌が立ちました。
――歌詞と動きのリンクのさせ方は、竹中さんもすごいなと思います。
竹中:それも本当に難しいところで、リンクさせすぎてもナンセンスになったりするじゃないですか。振付は手話ではないので、そこのバランス感が悩みどころです。比呂子先生の〈~おもちゃみたい〉に対してスカートを広げるというのが、すごく何通りも答えがあって、人によって捉え方がすごく変わる振付で、あれが一つの正解といえる形だなと思ったんです。そういう振付を生み出せるようになりたいですね。
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