アルバム『40果実の木』インタビュー

ウォルピスカーターが明かす、“高音出したい系男子”のプライド「高い声を出すのは僕らの専売特許であってほしい」

 “高音出したい系男子”としてニコニコ動画の「歌ってみた」で絶大な人気を誇るウォルピスカーターが、3月25日にニューアルバム『40果実の木』をリリースする。TVアニメ『不機嫌なモノノケ庵 續』エンディングテーマとして好評を博した「1%」やデジタルシングル「雨子」を含む全11曲を収録した今作は、ウォルピスカーター自身が多くの作詞を手がけ、楽曲のテイストも歌詞の世界観もさまざまなものになった。

ウォルピスカーター New Album 『40果実の木』クロスフェード

 提供シリーズを経て、今作に賭けるウォルピスカーターの思いとはどんなものなのか? また、作詞における考え方、今作でのボーカルについて、そして現在音楽シーンをにぎわせている歌い手のシーンについても話を聞いた。そこで見えてきたのは、“高音出したい系男子”としてのプライドだった。(榑林史章)

二番煎じみたいなものが嫌だ

キャスティングミス-MV/ウォルピスカーター×ユリイ・カノン

ーーこれまでアルバムは『ウォルピス社の提供』シリーズでしたが、今作は提供シリーズではないんですね。

ウォルピスカーター:僕のなかでシリーズものは三部作で終わるのが理想だと思っていて。三部作で終わっておけば良かったのに、四部、五部とずるずる続けた結果、どうしてもネタ切れになるパターンがあるじゃないですか(笑)。それに「提供シリーズ」でやり残したこともないしある程度満足したので、このシリーズは想定通り三部作で完結して。新しいことに手を出しつつ、新しい仕事に繋がるものにしたいと思いました。

ーー今作『40果実の木』の収録曲は、曲調も歌詞の世界観も多彩で、今まで以上の広がりを感じました。「提供シリーズ」を経た新たな作品を作る上で、コンセプトにしたことは何ですか?

ウォルピスカーター:アルバムの話以前に、好きな作家さんたちとすでに3〜4曲作っていて、アルバムの話が持ち上がったことでそれらも収録することになり、その上でアルバムの曲も作るという感じだったので、少しゴチャゴチャした感じになってしまって。そのゴチャゴチャ感をアルバムとして成立させるために、どんなコンセプトならみんな納得してくれるのか、どういうタイトルなら不自然に感じないかと考えて、後付けでタイトルを付けました。

ーー『40果実の木』というタイトルは、どこから来ているんですか?

ウォルピスカーター:1本の木にいろんな種類の木を接ぎ木して、40種類のフルーツが実る木が実在していて。タイトルを考えているときに「乱雑である」や「整理整頓がなされていない」など、いろんな検索ワードで探したら、どこかでこの言葉が引っかかったんです。このアルバムも、1枚のアルバムにいろんな曲が収録されているので、「後付けのタイトルとしてカンペキじゃないか!」と思って。それでジャケットデザインも、木をモチーフにしたイラストになっています。

ーー最初に3〜4曲、馴染みのある作家さんとすでに作り始めていたとのことですが、それはどなたと?

ウォルピスカーター:神谷志龍です。最初に作ったのが「偶像信仰上過失致死」で、昨年のはじめころには作っていました。他のみなさんも、公私ともに仲の良い方が多いのですが、今回のアルバムで初めてがっつり一緒に制作した方もいて、それが「マキナの祈り」を書いてくださったLITCHIさんと、「キャスティングミス」を書いてくださったユリイ・カノンさんです。「斜めがけ前線」を書いてくださったKent Kakitsubataさんも、初めてと言えば初めてなのですが、この曲ができた経緯がアルバムの流れとはまた別のところにあって。

ーー「斜めがけ前線」は、ウォルピスさんの曲には珍しい清涼感のある青春っぽい楽曲ですね。

ウォルピスカーター:毎回ライブで、嘘のCMを作って流していて、そのCMのために作った嘘のタイアップ曲なんです。初夏に清涼飲料水のCMに流れていそうな曲を意識して、作っていただきました。ライブを見てくれた方からは、「いつになったら音源が出るんだ?」と以前から言われていたので、喜んでもらえたら嬉しいです。

ーー今作の特徴として、11曲中7曲でウォルピスさん自身が作詞を手がけていることが挙げられます。歌詞の世界観も非常に幅広いものになっていますが、曲を聴いてからイメージを広げるんですか?

ウォルピスカーター:はい。曲を聴いてからイメージします。基本的に僕が書く歌詞はネガティブなものが多いんですけど、そういう部分を出すか出さないかを、曲を聴いて判断したりします。それに、あまりストレートでひねりのない歌詞はどうなんだろうというのもあったので、そこは自分のなかで試行錯誤してという感じで書いています。もちろんそれぞれの曲の歌詞は、聴いてくれる人に向けて書いているんですけど、ごく個人的な希望として、これからは歌詞を書く仕事も増やしたいと思っているので、「いろいろな世界観の歌詞が書けます!」という、アピールがないこともないです(笑)。

ーーなるほど(笑)。もともと歌詞を重視するタイプだったんでしょうか?

ウォルピスカーター:もちろん音やメロディーも大事ですけど、特に歌詞はすごく重要視していますね。陳腐な言い回しだと冷めてしまうんです。例えばアニメの主題歌などを聴いて、すごく格好いいメロディとサウンドなのに、同じような単語が何度も使われていたりすると、どうしても気になるというか。逆に、伏線が上手く張られて、アニメのタイアップとして相応しい歌詞になっていると感動を覚えるし。作中の登場人物やストーリーの流れが、ぼんやりと、しかし絶妙に表現されていると、本当にプロだな〜、自分もこういう歌詞が書きたいな〜って思います。

ーーいわゆるJ-POPの歌詞には出てこないようなワードがたくさん出てきていて。

ウォルピスカーター:二番煎じみたいなものが、嫌なんだと思います。同じことをしゃべるのが嫌で、何本も取材が続いたときは、無意識に同じことをしゃべるのを避けようとして、言いよどんでしまったりすることがありますし。

ーー好きな作詞家やアーティストはいるんですか?

ウォルピスカーター:スピッツの草野マサムネさんの詞にずっと憧れています。明確に何を歌っているのかわからないけど、曲全体で伝わるものがある。だからこそ憧れます。自分でもそういう歌詞にチャレンジしたことがあったけど、上手く整合性が取れなくて全部消してしまいました。それを上手くコントロールして、納得のいく文章としてアウトプットできるのは、すごいことだと思います。何を歌っているのかはぼんやりとしているけど、きっとこういうことだろうなと。そう思わせる歌詞が書けるのは、すごい才能だなって。

ーー今作の歌詞で、「マキナの祈り」に〈デウスエクスマキナ〉という言葉が出てきたり、「キャスティングミス」という曲もあって、演劇とか舞台をイメージしたワードが出てきますね。それはネット界隈のリスナーとの親和性を考えてのことだと思いますが。

ウォルピスカーター:それもありますし、僕自身が、物語的なものが好きなんです。だから現実感のある歌詞は、意識しないと出てこなくて。それに舞台という部分では、母親の影響から宝塚歌劇団が好きでよく観ていたので、無意識にそういうワードが出てくるのかもしれませんね。

ーー宝塚がお好きなんですね。意外です!

ウォルピスカーター:中学に上がったころに母親が、宝塚歌劇専門チャンネル「タカラヅカ・スカイ・ステージ」に入ったのがきっかけで、僕も一緒に観るようになったんです。月組の『エリザベート』という演目が大好きで、何度もチケットに応募しているんですけど毎回落ちてしまっていて。それに宝塚チャンネルはすごく面白くて、演目を放送するだけじゃなく、トップスターの方のインタビューや対談なども放送されるんです。そこで宝塚音楽学校のエピソードや上下関係の厳しさを知ったり、そういう経験が作詞の感性に多少なりとも影響を与えていると思いますね。

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