木村拓哉から贈られた視聴者への“ギフト” 『SONGS』が映した過ぎゆく時の大切さ
木村拓哉は、歌う自分を「配達人」に例えたことがある(木村拓哉『開放区2』)。
楽曲は、作詞家や作曲家、アレンジャーらが聞いてくれる人びとに向けて精魂込めてつくった果実であり、自分はそれを送り届ける配達人にすぎない、と木村拓哉は言う。かつて彼が主演したドラマタイトルになぞらえれば、楽曲とは“ギフト”だということだろう。
しかし当然ながら、なにを受け取るかだけでなく、誰からどのように受け取るかによっても“ギフト”の放つ輝きは違ってくる。自分なりの届けかたを追求するなかに「歌手=配達人」の個性も自ずとにじみ出る。そしてそれによって、配達される「楽曲=ギフト」が本来持っている魅力もより輝きを増す。その意味で、木村拓哉という歌手が「One and Only」、つまり唯一無二の配達人であることを今回の『SONGS』でのパフォーマンスは物語っていた。
稲葉浩志との対談のなかで、木村拓哉はひとりで歌うことには裸になったような無防備さの感覚があると認めていた。そこにはやはり、これまでとは異なる不安のようなものもあるのかもしれない。
だが確かなことは、そうして木村拓哉は歌手としてひとりでステージに立つことを決め、またひとつ止まっていた時間が流れ始めたということだ。そのなかで、稲葉浩志が番組中に使っていた表現を借りれば、木村拓哉の「ストーリー」もまたここから新たに紡がれていくに違いない。
■太田省一
1960年生まれ。社会学者。テレビとその周辺(アイドル、お笑いなど)に関することが現在の主な執筆テーマ。著書に『SMAPと平成ニッポン 不安の時代のエンターテインメント』(光文社新書)、『ジャニーズの正体 エンターテインメントの戦後史』(双葉社)、『木村拓哉という生き方』(青弓社)、『中居正広という生き方』(青弓社)、『社会は笑う・増補版』(青弓社)、『紅白歌合戦と日本人』、『アイドル進化論』(以上、筑摩書房)。WEBRONZAにて「ネット動画の風景」を連載中。