藤川千愛、シンガーとしてのポテンシャルの高さ 可能性の幅を再確認した連続リリース4曲を振り返る

 藤川千愛は歌が巧い。普段、あまり音楽を聴かないという人でも、彼女の歌声を1フレーズ聴いただけで「巧い!」と感動させられる歌唱力。人気者になりたいとか、自分を表現したいとか、漠然とした理由でなんとなく音楽を選んだ人とは違う、圧倒的な才能を湛えている。Megadethのマーティ・フリードマンに絶賛されたとか、彼女の歌声に惚れ込んだminus(-)の藤井麻輝(元SOFT BALLET)とBUCK-TCIKのトリビュートアルバムに参加したなどの事例をあげずとも、歌の巧さに異論を唱える方はいないだろう。

 岡山県出身で演歌歌手の祖父を持ち、3歳の頃から歌手を夢見ていたという藤川千愛は2018年12月に3週間連続でデジタルシングルとしてリリースされた「勝手にひとりでドキドキすんなよ」「夢なんかじゃ飯は食えないと誰かのせいにして」「きみの名前」でソロシンガーとしてデビュー。2019年5月にはアニメ『盾の勇者の成り上がり』のEDテーマや、同郷である千鳥のノブが初めて作詞を手掛けた西日本豪雨災害への復興ソング「あの日あの時」を収録した1stアルバム『ライカ』をリリース。同年の夏に東名阪&地元岡山を回った全国ツアー『Laika』を開催し、11月にはデビュー1周年を記念したワンマンライブを新木場スタジオコーストで開催し、大成功に収めた。

 そして、デビュー2年目の幕開けとして、2019年11月より4カ月連続でデジタルシングルのリリースがスタートした。4曲とも共作ながらも作詞を手がけており、歌の言葉はより等身大となった印象を受けつつ、曲調は全て異なっており、彼女のシンガーとしてのポテンシャルの高さと可能性の幅広さを再確認させてくれるトライアルとなっている。

 まず、連続リリース第1弾「引き寄せられて夢を見る」はオントレンドな音像のロックバラードで、多重録音にチャレンジしている。彼女は倍音をうまく響かせることができるシンガーであるため、これまではダブルなどの加工をせずとも深みのある歌声を聞かせていた。しかし、この曲では歌い出しから3声のハーモニーを重ねることで、幻想的なサウンドスケープを構築。歪んだギター、打ち込みのビートともに、なんとも言えないムードを演出している。エッジの効いたトラックとさりげなく情感の漂う声のバランスがいい。それでいて、主メロの部分の歌唱はブレスの位置が分かるほど生々しく、〈ズカズカと〉のあとのメロディラインでは、言葉にならない感情をフェイクで表現。夢に出てきてしまうほど好きになってしまった“君”に対する切実な想いが伝わってくる1曲となっている。

藤川千愛「引き寄せられて夢を見る」

 続く第2弾「おまじない」は、アコースティックバンドとレコーディングしたというジャズナンバーだ。ジャズといっても、近年のニュージャズ、シティポップの系譜ではなく、昭和のジャズ歌謡や流行歌としてのブルースといった趣で、ノスタルジックさも感じるが、どこか漠然とした恐怖のようなものも感じる。もちろん、普通に聴けば、“あなた”を振り向かせたい“私”がいろいろな努力をする甘酸っぱい片思いソングなのだが、バンドがブレイクした瞬間に語られる、赤のルージュを〈いつもより強く引いてみたの〉というセリフのようなフレーズや、〈茂みに隠れ牙を研いでいるわ〉という一節に“私”の狂気にも似た思いを感じずにはいられない。それほどまでに愛の痛みや切なさを感じてしまうのは、彼女の歌声による“演技力”によるものだろう。雰囲気ありすぎの歌と声、人間的な感情に満ちたグルーブはもちろんだが、猛烈な説得力を感じる演者としての表現力にもぜひ注目して欲しい。

藤川千愛「おまじない」

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