カネコアヤノ、スカート、藤巻亮太……弾き語りやアコースティックアルバムならではの“歌”の表情
藤巻亮太が2019年に発表した『RYOTA FUJIMAKI Acoustic Recordings 2000-2010』は、フロントマンを務めるバンド・レミオロメンの楽曲を多彩なアプローチで再録している。本作は先述までの作品と異なり、生楽器によるバンド演奏が主体だ。「五月雨」など、原曲と異なるリズムワークも聴きごたえがある。とりわけ「永遠と一瞬」で打楽器のようにアコギを用いて高揚感を演出したリアレンジには驚くはず。
この作品の真ん中にあるのは“歌”だ。元よりその太く柔らかな声質は唯一無二であったが、キャリアを重ねてさらに滋味を増し、表現の幅は広がり続けている。「太陽の下」では新アレンジのフォーキーさに沿う朗らかな歌を乗せ、エレクトロポップを弾き語りに変換した「Sakura」では爽やかで落ち着いた歌を光らせている。
レミオロメンには華やかな管弦や鍵盤による編曲も多いが、このアコースティック盤では歌と言葉を響かせるためにその要素が削ぎ落されている。壮大なオーケストラが鳴る「もっと遠くへ」の原曲にある力強さも素晴らしいが、本作ではクラップを取り入れてそっと背中を押すような1曲に姿を変えた。
「3月9日」はほぼ全編弾き語りで時折挟まれるブルースハープが切なく、「粉雪」は、あの著名なギターイントロを排し、ピアノと歌のみで幕を開け、終始ピアノが楽曲を引っ張っていくバラードへと変貌を遂げた。大ヒット曲も隠れた名曲も分け隔てなく、今歌いたいという気持ちで新たな命を吹き込む。バンド時代を過去にするのでなく、今の自分へとチューニングを合わせていくような、丁寧で意義深い志が刻まれたアルバムだ。
シンガーだけでなくストレイテナーやACIDMANなど、バンド編成でアコースティックアルバムを発表するバンドも多く、持ち曲に異なる表情を与える選択肢としてお馴染みになりつつある。楽曲の本質を深堀りできるアイテムとして、今後も様々なアーティストのアコースティックや弾き語りバージョンを聴いてみたいと思う。
■月の人
福岡在住の医療関係者。1994年の早生まれ。ポップカルチャーの摂取とその感想の熱弁が生き甲斐。noteを中心にライブレポートや作品レビューを書き連ねている。
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