花澤香菜が持つ、シンガーとしての特異性は? 多彩なサウンドデザインと呼応する歌声の存在感
2013年の1stアルバム『claire』は北川の真骨頂ともいうべき“ポスト渋谷系”的な仕上がりになり、2014年の2ndアルバム『25』はギターポップ色、ネオアコ色を強めた一作に。ジャジーな楽曲を擁する2015年の3rdアルバム『Blue Avenue』は「ニューヨーク」をコンセプトに制作され、ミック・ハックネルを迎えた2017年の4thアルバム『Opportunity』では、まさにUKロック的アプローチが採用されている。そして5thアルバム『ココベース』がロックアルバムであることは前述の通り。ソロ名義の花澤はとかく「グッドメロディとスムーズなアレンジが印象的な良質な楽曲を歌うアーティスト」と評価されるが、実はそのサウンドデザインは時期によって大きく異なっている。
それでもそのすべてが「グッドメロディとスムーズなアレンジで、かつ花澤一流のポップス・ロック」に聞こえるのはなぜか?
それはやはり「そこにボーカリスト・花澤香菜がいるから」だろう。実際、先に参照した『ココベース』発売時のインタビューで花澤はデビューから『Opportunity』までのプロジェクトにおいて「私の声を活かす曲を作り続けてきていた」という。そしてその「声が活かされている」のは過去作とは肌合いや制作方法が異なる『ココベース』でも同じこと。槇原敬之、ザ・クロマニヨンズ、岡村靖幸、フジファブリック、在日ファンクなどなど、指向するジャンルはバラバラで、しかもそれぞれに強烈に個性的な作家たちの楽曲群が1枚のCDに美しくパッケージされている。これは7年間にわたって自身の声を活かすレコーディングを続けてきた彼女がそのスキルを発揮して、彼らのリリックとメロディに呼応してみせているからだろう。
「優しくスウィート」「ウィスパーボイス」というと儚げな歌声をイメージする読者もいるかもしれない。しかし、花澤のそれは単にか弱いだけではない。彼女はこれまでにRO-KYU-BU!でのさいたまスーパーアリーナ公演や、ソロアーティストとしての日本武道館公演など、何度となくアリーナクラスの大会場いっぱいにその声を響かせてみせている。そのありようは紛れもなく「ライブアーティスト」だ。
果たして今夜、花澤がどんな曲を歌うのかはわからない。しかし、これを機会にぜひとも彼女が名うてのクリエイターたちと作り上げた上質・上品な楽曲、そしてそのボーカリゼーションに耳を傾けてみてほしい。
(文=成松哲)