佐藤千亜妃の一番新しい到達点ーーソロアーティストとしての一歩踏み出したワンマンライブ東京公演を観た

 「映画『CAST:』のために書いた曲を」と言って歌った「大キライ」は、別れを突き付けられた女性の悲しみと怒りを大胆に綴る歌詞を、サイケに歪むギターの、激烈なコントラスの中で描く1曲。女優としてこの映画に出演したことが、確かに彼女を成長させたのだろう。髪をかきむしり〈大キライキライ……〉と叫ぶ、演劇的要素を盛り込んだ歌の迫力。続く「面」も、ソロアーティスト佐藤千亜妃の多様な表現力を象徴する1曲で、三連符の激しいロックバラードに乗せた絶唱は、圧巻の一言。一転して、清楚なピアノがリードする「キスをする」は、永遠の命の輪廻を描く歌詞を、子守歌のように優しく清らかに。技巧の問題じゃない。この歌はこう歌うしかない。どの曲も、だからこそ言葉がまっすぐに届いてくる。

「今年は、自分にとって歌とは何だろう、音楽とは何だろうと日々考えさせられる1年でした」

 ラスト1曲を前にした、長いMC。これを言わなきゃいけないと、心に決めていたのだろう。人生を捧げたバンド、きのこ帝国を、メンバーの総意で活動休止にした。ソロに転身して、前だけ向いて突っ走ってきた。楽しいだけじゃない、不安にならない夜は1日もなかった。でもこうしてステージに立って歌おうと思えたのは、みんなのおかげ。「これからも音楽を続けていきます。よかったら応援してください」。しんと静まり返っていたフロアから、熱い拍手が沸き起こる。この31年間がなかったら、書けなかった曲を--そう紹介したラストチューンは「空から落ちる星のように」だった。10年間、彼女が背負ってきたアンダーグラウンドなロックの文脈を超え、より広くより普遍的なポップスの香りをたたえた美しいバラード。迷いのかけらもないピュアなラブソング。これが佐藤千亜妃の、一番新しい到達点。

「さっき語りつくしたので、感謝の言葉しか出てきません」

 新作グッズのパーカーを着て登場したアンコール。「今日のために一番練習したのはMC」らしい。やっぱり。出したいものを出し切った、満面の笑みがまぶしい。始まったばかりのソロキャリアの中で、いつか「ここが全ての始まりだった」と、懐かしく語る日が来るかもしれない特別なライブを、彼女はやり遂げた。「最後の曲はギターをかき鳴らして終わりたいと思います」--この日最後の1曲、明るく激しくロックする「STAR」を歌う彼女の、見慣れていたはずのエレクトリックギターを抱えた姿が、こちらもまた妙に新鮮に見える。わずか90分の間に、佐藤千亜妃を見つめるこちら側の視線ががらりと変化した、そんな気がする劇的な一夜。

 2020年3月には、東京と大阪で恒例のカバーライブ「佐藤千亜妃 Cover Live VOICE4」を開催するという。新曲もたくさんリリースしてくれるのだろう。佐藤千亜妃が佐藤千亜妃として新たに始まる、2020年の活動が心の底から楽しみだ。

(取材・文=宮本英夫/Photo by Taku Fujii)

■ライブ情報
『佐藤千亜妃 Cover Live VOICE4』
2020年3月7日(土)Billboard Live TOKYO
2020年3月14日(土)Billboard Live OSAKA

『佐藤千亜妃 LIVE TOUR 2020 PLANET +』
2020年4月25日(土)愛知 名古屋クラブクアトロ
2020年4月28日(火)大阪 梅田クラブクアトロ
2020年5月10日(日)福岡 DRUM Be-1
2020年5月15日(金)岩手 盛岡Club Change WAVE
2020年5月17日(日)東京 恵比寿 The Garden Hall

佐藤千亜妃 OFFICIAL SITE

関連記事