LiSA、紅白初出場までの10年を辿るーーアニメ音楽とポップスシーンを繋ぐ“ロックヒロイン”の軌跡
2019年11月14日、年末恒例の歌番組『第70回NHK紅白歌合戦』(NHK総合)の出場歌手が発表された。紅白初出場組として、Official髭男dism、King Gnu、日向坂46、Foorinら、2019年の音楽シーンを賑わした顔ぶれが並ぶなか、SNSでひときわ大きな反響を呼んだのが、LiSAの名前だ。すでに歌手として10年近くの活動歴を誇り、その間に何度となくヒット曲を放ってきた彼女。今年7月にCDシングルとしてリリースし、紅白の歌唱曲にも決定した「紅蓮華」は、4月22日から行われた先行配信の時点で、各配信ストアのチャートを軒並み制覇。オリコン週間デジタルシングル(単曲)ランキングにおいて、2週連続で1位を獲得し、それがちょうど“平成最後”と“令和最初”の週間にあたったことから、「平成と令和の変わり目を跨ぐヒット」として記録に残ることとなった。その後も勢いは衰えることなく、12月に入ってもiTunes1位を記録し、40万ダウンロードを突破するなど「紅蓮華」は名実ともに2019年を代表するヒット曲となったわけで、その意味でも今回の紅白初出場は順当と言える。
だが、彼女のことを知るファンのなかには、「ようやく」という思いを抱いた人も多かったのではないだろうか。かく言う自分もその一人。先ほども触れたとおり、彼女はデビュー直後から10年近くに渡って継続的にヒット曲を生み出してきた、ここ10年の日本の音楽シーンを振り返ってみても稀有な存在であり、いわば2010年代を象徴するアーティストのひとりである。特に歌番組への出演も増えてきた2017年頃からは、紅白出場を待望する声が強まっていたように思うし、LiSA自身、それに見合うだけの実績を重ねてきていた。それを考えると、彼女が紅白に出場するのは遅いと言ってもいいぐらいだし、だからこそ、今回の一報に多くの人が喜び、それがSNSでの反響に繋がっていったのだろう。
前置きが長くなってしまったが、本稿では、LiSAがこの10年をどのように駆け抜けてきたのかを、今一度振り返ってみることで、彼女が紅白という場所にたどり着いた軌跡と、その間に刻んできた「シルシ」、そして紅白のステージに立つ意義について考えてみたい。
岐阜出身で学生時代からバンド活動(同郷のcinema staffとはこの頃から交流がある)に打ち込んでいた彼女が、シンガー・LiSAとして世に出たのは、2010年に放送されたTVアニメ『Angel Beats!』に登場する劇中バンド・Girls Dead Monster(以下、ガルデモ)の2代目ボーカリストとして。アニメの放送内容とリンクしたリリース展開やライブ活動、そしてオルタナティブロックやポップパンクを源流とするガルデモの音楽性にマッチしたLiSAの歌唱スキルも相まって、アニメの劇中バンドとしては異例のヒットを記録した。
ガルデモは同年末のラストライブをもって活動を終了するが、そのアイコン的な存在として絶大な支持を獲得したLiSAは、2011年4月にミニアルバム『Letters to U』を発表してソロデビュー。本作には、現在も彼女の楽曲制作に携わる田淵智也(UNISON SQUARE GARDEN)をはじめ、ハチこと米津玄師や2019年4月に急逝したwowaka(ヒトリエ)といった当時新進気鋭のクリエイターたちが楽曲を提供。ガルデモの延長線的なイメージも感じさせつつ、2010年代らしさを備えたロックサウンドとLiSA自身によるエッジの効いた歌詞、ポップ&パンキッシュなファッションセンスなどによって、早くも独自のアーティスト性を打ち出してみせた。
そこからは現在に至るまで快進撃の歴史しかない。当時ヒットメイカーとして頭角を現していた渡辺翔が作詞・作曲、toku(GARNiDELiA)が編曲を手がけた1stシングル『oath sign』(2011年)は、TVアニメ『Fate/Zero』のOPテーマとしてヒットを記録。同コンビが提供した2ndシングル『crossing field』(2012年)では、彼女のキャリアにとってとりわけ重要な作品『ソードアート・オンライン』(通称、SAO)との邂逅を果たし、その戦いの物語にしっかりと寄り添い、過酷な運命のなかで希望を掴み取ろうとする強い意志に満ちた歌声を響かせた。それらの楽曲における、急激な抑揚のついたメロディとサビで一気に力強さを増す曲展開、それらをドラマティックに聴かせる激情的なロックアレンジといった要素は、LiSAの音楽性の基盤になっているのと同時に、2010年代のアニメソングにおける絶対的なトレンドにもなった。