細野晴臣をリスペクトしてやまないアーティストたちの集い 『細野さん みんな集まりました』レポート
今年、音楽活動50周年を迎えた細野晴臣。彼をリスペクトしてやまないアーティスト達が集い、“勝手に50周年をお祝いする”イベント『祝!細野晴臣 音楽活動50周年×恵比寿ガーデンプレイス25周年 細野さん みんな集まりました』が2019年10月11日から計4日間に渡って行われた。内容は以下の通り。
Day1「細野さんを歌おう」
細野と10年以上に渡り活動してきたThe Eight Beat Combo(高田漣/Gt、伊賀航/Ba、伊藤大地/Dr、野村卓史/Pf)がホストバンドとなり、世代を超えたアーティストたちとともに名曲の数々を演奏。
Day2「細野さんと観よう」
映画好きとして知られ、映画『万引き家族』をはじめ多くのサウンドトラックを手がけてきた細野のオススメの作品を高音質のPAシステムで視聴。さらに細野と縁のあるゲストを招いたトーク、お祝いコメント動画の上映、11月に公開されるドキュメンタリー『NO SMOKING(編集版)』の最速上映も。(10月12日は台風による悪天候のため中止。15日に振替公演が行われた)
Day3「細野さんで踊ろう」
TOWA TEI、砂原良徳、小西康陽などが、「細野さん」をテーマにした選曲でDJプレイ。50年の活動のなかで多岐に渡るジャンルを生み出してきた細野の楽曲を再解釈&ミックスし、会場はダンスホールに変貌。最後はなんと細野自身がDJとして登場。
Day4「細野さんと語ろう」
細野がホストを務めるライブイベント『デイジーワールドの集い』を約3年ぶりに開催。川添象郎、原田知世、いとうせいこうなどをゲストを招いて、細野ともにリラックスしたトークが展開された。
リアルサウンドでは、Day1「細野さんを歌おう」を中心にこの記念すべきイベントをレポートする。
■Day1「細野さんを歌おう」
会場の恵比寿ガーデンプレイスのロビーには、細野の数々の名曲が流れている。のレコードジャケットを展示したフォトブースを、さらにフード、ドリンクのブースも充実していて、さながら“細野フェス”という様相だ。
イベントの初日「細野さんを歌おう」は、The Eight Comboの生演奏によるSE、そして、最初のゲストの安部勇磨(never young beach)が登場し、「HONEY MOON」を厚みのある声でゆったりと歌い上げる。「すごく緊張しちゃって……。みなさんに(緊張が)うつるからやめてくれと言われまして(笑)」「僕も細野さんが大好きで、みなさんも細野さんが大好き。こんな場所に呼んでいただいて本当に嬉しいです」と挨拶し、「悲しみのラッキースター」を披露した。さらに藤原さくらがアコースティックギターを携えて「四面道歌」「東京ラッシュ」をオーガニックな手触りのボーカルでカバー。角舘健悟(Yogee New Waves)は「ろっか・ばい・まい・べいびい」をジャジーなアレンジとともに歌い、「僕らの1stアルバムが『PARAISO』という名前でして。今日は『はらいそ』という曲をやります」とエキゾチズムに溢れたメロディを響かせた。
アーティストそれぞれの、細野晴臣という音楽家に対する捉え方が感じられたこともこのイベントの収穫だった。髙城晶平(cero)は、ジャズ〜ファンク〜R&Bのテイストを交えた「プリオシーヌ」(シャイ・モンゴロイド)、「DJのときに、細野さん関連でいちばんかけてる曲です」というスムーズなポップナンバー「ZOOT KOOK」(SANDii)を歌唱。志摩遼平(ドレスコーズ)は、異国情緒に溢れた「北京ダック」、ブギウギのリズムが楽しい「PomPom蒸気」の楽曲を披露し、オーディエンスの体を揺らした(「日本のポップス史には、どこを向いても細野さんの足跡が残っている」というコメントも印象的だった)。
続くキセルはまず、「フニクリ・フニクラ」を演奏。高田漣のスティールギター、穏やかで危うい2人のボーカルが絡み合い、ゆったりとした雰囲気が漂う。続く「しんしんしん」はキセルだけで披露。辻村友晴のテルミンの音色を含め、サイケデリックな空間を作り上げた。
前半の最後はハナレグミ。別れのシーンを小粋に描いた「しらけちまうぜ」(小坂忠)を叙情豊かに歌い、「いい曲だ……」と呟くとフロアから大きな歓声が沸き起こった。SUPER BUTTER DOG、ハナレグミを通し、細野から影響を受け続けてきたこと(細野のソロアルバム『HOSONO HOUSE』を模して、米軍ハウスでのレコーディングに挑戦したなど)を語った後、「恋は桃色」へ。愛の本質を描いた名曲を丁寧に手渡し、豊かな感動に結びつけた。
休憩を挟み、後半のスタートは、The Eight Beat Comboとゲストベーシストの細野悠太(細野さんのお孫さんです)による「Absolute Ego Dance」(YMO)。原田郁子(クラムボン)は「福は内 鬼は外」(はっぴいえんど)を軽やかに歌い、観客も手拍子で応える。さらに「風の谷ナウシカ」(安田成美)。(まるでナウシカのような)ブルーのワンピースも曲の雰囲気にぴったりだ。
続く堀込高樹(KIRINJI)は、「イエロー・マジック・カーニバル」から。洗練されたコード進行とアジア的なエキゾチズムをたたえた旋律が広がり、豊潤な音楽空間が生まれる。「楽屋でみんな“緊張する”って言ってて。自分はそんなに緊張してないんだけど(笑)。楽屋も楽しくやってますよ」というリラックスしたトークの後は、「ローズマリー、ティートゥリー」へ。ボサノヴァ風味のサウンドに乗る洒脱なボーカルが素晴らしい。
この日、もっとも“ロック”を感じさせてくれたのが曽我部恵一だった。まずは細野がかまやつひろし(ムッシュかまやつ)に提供した「仁義なき戦い」。原曲はファンクテイストだが、この日はブルースロック的な色合いを強め、大人の男の色気をたたえたボーカルを響かせた。「僕が生まれた年、1971年に出た『風街ろまん』の1曲です」と紹介された「暗闇坂むささび変化」(はっぴいえんど)の心地よいグルーヴに満ちた歌も最高だった。
続いてはUA。軽やかに舞うようにステージに現れた彼女は、松田聖子の「ガラスの林檎」を披露。ソウルフルとしか言いようがないボーカルが響き渡り、フロアからこの日一番の歓声が巻き起こる。「ものすごく魂に触れてる感じね、今日は」という言葉の後は、「みんな“Gumbo”してちょうだい」と「Roochoo Gumbo」。間奏でバンドメンバーの紹介〜ソロ演奏を繰り広げ、会場全体の心地いい一体感へと結実させた。
〈ひなたぼっこでも していきませんか〉(「僕は一寸」)と歌い出した瞬間、穏やかで切ない空気を生み出したのはYO-KING。やはりこの人には、フォーク、ブルース、カントリーの素朴な音像がよく似合う。「今日仕入れた細野晴臣の情報をひとつ。幸宏さんから聞いた話なんですけど、細野さんは一人称を“僕”で通してるらしくて。“俺”にはちょっと不快感があって、もっとイヤなのは、“僕”と“俺”を使い分けてる人らしいです」というエピソードで観客を笑わせた後、「終わりの季節」を豊かな叙情性とともに歌った。
イベントはいよいよ終盤。名前をコールされた瞬間にすさまじい拍手と歓声が起きたのは、大貫妙子。「今日は『はらいそ』から2曲選んできました」と、まずは「ファム・ファタール」を披露(細野、高橋幸宏、坂本龍一が初めて顔を合わせた曲と言われている)優美で官能的なナンバーをあまりにも豊かな表現力をたたえたボーカルによって描き出す。一緒に円盤を観に行ったり、エジプトを旅行したり……と細野との交流を振り返り、「ウォリー・ビーズ」へ。〈Om Namah Chandraya〉というコーラスを観客と一緒に歌う場面も心に残った。
最後のゲストは高橋幸宏。まずは「STELLA」(Sketch Show)を演奏。美しくロマンティックなメロディ、ループするギターフレーズ、シンプルで奥深いリズムがひとつになり、極上の音楽へと結びつく。「僕の家の2階がありまして、そこでSketch Showの歌詞を作ろうということになって。そのときに細野さんが書いたのが『STELLA』。人はみんな、やがて星の屑になって、君もスターダスト、僕もスターダスト。なんてロマンティックなんでしょう。あの顔で(笑)」というコメント、そして、バンドと観客に感謝を伝えた後、「ありがとう」(小坂忠with細野晴臣)。70年代ウェストコーストロックと日本のフォークが融合した名曲によって、本編は終了した。
アンコールを求める声に導かれて登場したのは、そう、細野晴臣。「ホントにThe Eight Beat Comboはすごいね」とバンドメンバーを労い、「50周年なんて、生きてたら誰も来るんです。ありがたいんですけど……恥ずかしいです」と挨拶(?)した。1曲目は「薔薇と野獣」。『HOSONO HOUSE』をリメイクした『HOCHONO HOUSE』のバージョンに近い、抑制を効かせたファンクネスが何とも気持ちいい。
高橋幸宏を呼び込み、ふたりでしばしトーク。
高橋「僕は細野さんのファンですから」
細野「ほんと? そんなこと言ったことないでしょ」
高橋「いやいや、最近の海外のライブも観に行ってるでしょ。ほんというと、たまたま(スケジュールが)合っただけなんですけど。でも、ロスのライブは最高でしたよ。子供のときの気持ちに戻りました。僕は細野さんのファンです。ただ、ちょっとうるさいです」
細野「そんなことないよ。俺、俺って言ってるよ」
高橋「細野さんの“俺”、ホントに似合わない(笑)」
気の置けないやり取りの後は、二人で「スポーツマン」をデュエット。お互いに譲り合い、目配せしながらのステージはきわめて貴重だった。
「どうもありがとう」と軽く手を挙げて細野がステージを去り、イベントの1日目はエンディングを迎えた。細野晴臣の名曲を世代/ジャンルを超えたアーティストたちが歌う(おそらく2度と実現しない)素晴らしいイベントだった。