振付から紐解くJ-POPの現在地 第6回:akane
「バブリーダンス」のakaneが語る、“プロの振付師”としての矜持と組織づくりの重要性
akaneが考える「プロ」の振付師とは
――昨年は『第68回NHK紅白歌合戦』にも出演しました。テレビ番組でも振付のポイントなどが取り上げられることが増えましたが、J-POPシーンで振付やダンスが注目されていることはakaneさんから見てどう思いますか?
akane:振付師の仕事って今までフィーチャーされることが少なかったですが、たくさんのこだわりを持って作っているし、そういうところに注目して見てもらえるのはありがたいことです。CMもそうですけど、印象を残す上でダンスも必要だとしてくれることが、とてもありがたいです。
――J-POPシーンでの少し前までは“誰でも踊れる”キャッチーなダンスが1つのポイントでしたが、akaneさんが振付をされたラストアイドル「青春トレイン」(2019年9月)MVでの高難易度ダンスは衝撃的でした。
akane:今日たまたま「青春トレイン」CD購入者特典のワークショップをした時に、ファンのみなさんも「こんなに難しかったんだ……」と言っていました。この振付の細かさと動きの速さを4分間している中でフォーメンションチェンジも! というところに驚かれたので、知ってもらえてよかったです。
――「青春トレイン」の振付は、テーマであった“高難易度ダンス”以外にどういうことを意識しましたか。
akane:私は組織づくりから入ることがすごく大事だと思っていて、ラストアイドルにもみんなで一つのものを作るんだという感覚から教えていきました。一人ひとりの動きや位置、全部が大事だということを教えるために、フォーメーションなども意識しましたね。どこまでみんなに気持ちが通じているのかはわからないですけど、振付の初日に個人面談をして、このチームはまだまだだからこそ、みんなが一つにならないと他のチームには勝てないよと伝えました。
――アーティストの振付をする機会も増えたと思いますが、心がけていることはありますか。
akane:私は音楽の邪魔をしたくはないし、その音楽にあった動きをしたいと思っているので、歌う人や楽曲を作った人がその曲に持っているイメージは崩したくないと考えています。それとやっぱり一瞬一瞬のインパクトですね。振付は、楽曲制作の過程を維持しながら、表現するためにサポートする立場だと思うので、グループや楽曲のイメージとリンクしない限りは邪魔になってしまうので、そこは崩せないですね。
そういう意味で、私はプロとして振付をしたいと思いました。「プロって何なんやろう」と考えた時に、本物の人たちと対等に一つのものを作るってことだと思ったんですよね。振付師って、何か資格をとるわけじゃないし、プロになる境目が難しいですが、本物の人たちと一つのものを作ることがプロなのかなと思います。振付師は、アーティストがいて楽曲があって、最後に出てくる立場なので、そこまでの過程を潰さないということは大事やなと思いますね。
――akaneさんから見て、今までにインパクトを受けた映像作品はありますか。
akane:CMで覚えているのは、武富士のCMとかタケモトピアノのCM。好きだったし、みんなの印象にも残っているんじゃないかな。あとは、マイケル・ジャクソンも大好きですし、80年代のジャズダンスの要素が多いダンスのMVがもすごく好きで、今見ても刺激的だなと思いますね。
――80年代のダンスで印象に残っているものは?
akane:YouTubeにあるポーラ・アブドゥルの「(It's Just) The Way That You Love Me 」の映像はよく見ます。ポーラ・アブドゥルはめちゃくちゃ踊れる人なんですけど、この映像がすごくて。かなり難しい動きをしているんですが、音の取り方や動きの感じがかっこよくて。あとは、ホイットニー・ヒューストンの「How Will I Know 」のMVも好きです。
他にも、80’sのMVはアーティストが踊っているものが多いのでよく見ていますね。マイケル・ジャクソンもそうですけど、日本の光GENJIやシブがき隊も踊りがすごいんですよ! ミュージカル映画も好きなので、昔の『グリース』とか『ヘアスプレー』とか。あとは『ロシュフォールの恋人たち』というミュージカル映画の、ダンサーの人たちの不規則な動きも好きです。元々この曲がワルツなので音取りが難しいんですが、自由にできるところもあって、不規則なタイミングでアクセントを出してくるところが大好きですね。ミュージカル映画を勉強しているというわけではないんですけど、私の感覚と共通している部分が多くて。私も音楽を聴いて、そこから全部感覚でタイミングを決めてつくっているから、音感だけじゃなくて歌やビートにも合わせてアンバランスな感じで振付しています。逆に、その違和感があることでお客さんの目を引くんですよね。
だからミュージカル映画や80’sのMVはとても勉強になるところがあるし、光GENJIもよくあの人数であれだけ面白く踊れるなって思います。それに光GENJIの音楽って、すごく面白いんですよ。「パラダイス銀河」でもめちゃくちゃダンスを踊っていると思いきや途中から急にロックダンスが入ったり、珍しい振付の要素も入れていたりして、全体構成を見ていても面白い。今の時代にはないセンスだと思うから、これを失くしたくはないですね。
――最後に、akaneさんの振付師としての夢を教えてください。
akane:若者たちと良いものをつくっていきたいですね。若者のエネルギーは本当にすごくて、ダンスでどこまで表現できるかを見ているのが私もすごく楽しいんです。あとは、2025年に開催される大阪万博で、何か一つでも作品をつくって大阪から世界に発信したいという気持ちがあります。私も開催される時までにはもっと経験値を積んでいけると思うので、その目標に向けてさらに動いていたいと思っています。
なお、akaneは10月27日放送の『関ジャム 完全燃SHOW』(テレビ朝日系)にair:man、TAKAHIRO、KANA-BOON!らとともに出演。振り付けにフィーチャーしたダンス特集として、これまでに手掛けてきたダンスのポイントや構成を自ら解説し、振り付けの裏側に隠された“秘密”を掘り下げる。
(取材・文=神人未稀/写真=池村隆司)