『怒髪天』インタビュー

増子直純に聞く、怒髪天が結成から35年続く理由 「“楽しい”っていうことに尽きる」

(若い頃と比べて)許容できるようになった

ーーそして、新曲が2曲収録されています。

増子:「入れられるもん全部入れてしまえ!」ってことで映像もだけど、新曲をね。アルバムまで取っておこうかとも思ってたんだけど、出来たものはすぐに入れるかと。

ーー「シン・ジダイ」はまさに“いま”の時代を綴った曲。

怒髪天「シン・ジダイ」Music Video

増子:これは年号が変わる記念に作っておこうと思った曲。近代日本の中で、こんなに明るくお祭りっぽく年号が変わったことはないと思うし。若い頃だったら「年号が変わろうが関係ねぇよ」って斜に構えていたかもしれないけど、今残された人生の長さを考えると、1回でも多く乾杯したほうが楽しいぞっていう気持ちもあって。珍しく(上原子)友康(Gt)からのオーダーで、歌詞に〈乾杯〉って入れたいっていうから、9割くらい出来てたんだけどもう1回詞を組み直してね。「過度に期待しないけど、いい時代になればいいな」っていう祈りを込めた。ちょうどいい具合だと思う。あんまり大きく打ち出すものではなく、普通に生活している中での心情だね。

ーー強く主張するわけでもなく、無関心なわけでもない、という絶妙な感覚が、逆に共感できるところでもあります。

増子:飲みに行って話してることと同じだよね。ちゃんと生活に馴染んでるというかさ。説教くさいとか、押し付けがましいわけでもない、かといって突き放すわけでもない。誰でも普遍的に考えることなんじゃないかな。サウンド的にもちょっとLAメタルっぽい要素があったり、起伏の激しい曲なんで。楽器隊もやってて面白いって言ってるし、聴いていても面白いはずだよ。激動する時代をサウンドで表すような。歌も最初は静かに入るからね。今までにあまりないパターンだよ。

ーーMVも硬派な仕上がりですよね。

増子:監督の意向で髪を下ろしたりしてね。でも、だんだん髪型や服装といったものじゃなくて、顔そのものになってくるよね。着飾らなくとも、居るだけでその人だっていう存在感を出せるのが理想だね。こないだPENICILLINのライブを観に行ったんだけど、めっちゃくちゃカッコイイね! ちゃんとキメて仕事してる。演奏めちゃくちゃうまいし、ライブの精度が高い。かといって大きくショーアップしてるわけでもないんだよね、バンドらしいんだよ。MCもアットホームな感じでさ。ただ演奏になるとすごいんだよ。それこそヴィジュアル系なんて、歳取ってやってるなんて誰も思ってもなかったよね。

ーーもう1曲の「やるイスト」は、打って変わってフォルクローレ調のアレンジと、怒髪天独特の節回しで畳み掛けていくような曲ですね。

増子:みんな、生きていく中で「やるか、やらないか」の二択を迫られてきたと思うんだけど、この歳になって思うのは、やったほうがいい。「あのときやっとけばよかった」という後悔は一生引きずるから。俺自身は「やるか、やらないか」でいえば全部やってきた。やらかしたら「すいませんでした」と謝ってきた。でも、結果的にやってよかったと思う。みんな、あと先を考え過ぎてるんじゃいかな。今はいろんなデータがすぐ手に入るじゃない。失敗しないように調べてからやるし。でも、そうじゃないって。もっと直感的に、やりたいと思ったらやればいいんだよ。タイトル的には(遠藤)ミチロウさんね、ザ・スターリン育ちだから“〜イスト”。

ーー理屈じゃない、迷うな、と。

増子:なんか今、ちょっとでも失敗すると大ごとにされがちじゃない、すぐ叩かれたりさ。それにビビって何もやらないと、いろんなチャンスを失うし、世界が狭まっちゃうんだよ。若いうちはやらかして、謝ればいいんだよ。まぁ、若くなくてもやらかして謝ればいい。命までは取られないよ。……こうやって、軽く無責任に人を煽っていくっていうのはロックの醍醐味ですよ!(笑)。

ーー(笑)。そんな増子さん自身、若い頃と比べて何がいちばん変わったと思います?

増子:許容できるようになったことだね。自分が「うーん」と思うことに対しても、そこに攻撃性を持たなくなってきた。攻撃しなきゃいけない部分と「まぁ、いいんじゃない」と思える部分は本来あるものだけど、「いいんじゃない」と思える部分が若いうちはすごく少ないよね。「自分の考え以外は、No!」というのはとてもよくない。その自分の考えに潰される。自分の正義に溺れるんだよ。

ーーそれによって、歌詞や音楽にも影響出ましたか?

増子:歌詞は日記と一緒。日々思うことを曲にしているだけだから、歳を重ねて成長すれば思うことも変わるし、同じことでも捉え方が変わってくる。かといって、変に落ち着くこともないんだよね。歌詞もサウンドも、変にレイドバックするつもりはない。だから落ち着きはないと思うよ、大人にしては。感情の起伏も激しいしさ。でも、一般的な53歳でなくていいと思っていて。

ーー長くバンドをやってきたからこそ、のものもありますし。

増子:バンドはやればやるほど面白い。歳を重ねないと出来ないことがあるよ。そりゃ、歳重ねて出来なくなったこともあるけど、出来ることのほうが多いよね。ただ、“10代の女の子が共感するもの”という部分では、まったく想像が及びもつかなくなったね。学生の頃は学校が世界のすべてで、そこのコミュニティに外れてしまうともう生きていけない、みたいになりがちだし。それに対して俺が言えることがあるのなら、「長く生きてきたら学校のこと細かく思い出せないよ、忘れちゃうよ」ってことくらいなんだよ。この先もっといろんなことがあるし。ただ、これを10代の子たちに共感してもらおうとしても無理だよな(笑)。そういう部分は歳を重ねたデメリットなのかなとは思うんだけど、そこを目指してたわけではないから。俺らの歌を10代の子たちが聴いて集まってくるようになったら日本はダメだよね。やっぱ歳を重ねて疲弊したヤツらがね、聴いて「よっしゃ!」と思ってくれるバンドでありたいね。

ーー「ロック=若者の音楽」だった世代が歳を重ねて「大人のためのロック」へと成熟し、若い世代は新しいロックを聴く、というそれぞれのシーンが出来上がってますよね。

増子:やってる方も、聴いている方も歳を重ねて成長していくからね。一緒に歳取ってこられるっていいじゃない。

ーー昔は「ロック=不良」のイメージもありましたし。居間で演歌や歌謡曲のテレビ番組を見ている親に疎まれながら、自分の部屋で大音量のステレオでロックをかけてギターを弾いている、という家庭がほとんどだったと思うんです。ロックって、“若者の一過性の流行”でしか捉えられてませんでしたよね。

増子:うん、でもそうならなかったんだよなぁ。だから本当に日本のロックシーンがやっと成熟してきた実感があるよ。その時期にちゃんと合っていてよかった。この歳でバンドやってるっていうこと自体、昔だったら考えられないよ。ロックやバンドが子供のおもちゃじゃなくなったよね。ちゃんと意味のあるもの、重みのあるものになった気がするよ。

ーーだからこそ、今の10代20代が、「オトナノススメ」を聴いたら何を思うか、40代50代のロックンローラーが集結したこのトリビュートを聴いて何を感じるか、非常に気になります。

増子:“Don’t Trust Anyone Over 30”、「30歳過ぎたヤツを信じるな」「大人を信じるな」っていうのが、パンクやヒッピーの世界的なスローガンでさ。もちろん俺もそう思ってた。だけど実際大人になってみると、これは違うなと。「大人になったほうが楽しいぞ」と。そこで自分なりの落とし前というか、アンサーソングを作らなきゃいけないと思って書いたのが「オトナノススメ」なんだよ。だから、俺より下の世代がこれ聴いて「大人も楽しそうじゃん」って思ってくれたらいいね。「大人になるってことは、イヤなことばかりじゃないぞ」って言いたいんだよ。俺、若い頃に戻りたいかといえば、戻りたくないもんね。

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