ザ・クロマニヨンズ、真心ブラザーズ、SOLEIL…… 今、モノラルミックス作品が生まれる理由

モノラルの魅力は独特の音像

 そうした状況で、なぜわざわざモノラルで作品をリリースするアーティストがいるのかというと、当たり前の話だがそれだけのメリットがあるからだ。

 一番わかりやすい魅力としては、60年代風のビンテージな雰囲気が出しやすいということ。実際に60年代以前のレコードはモノラルが主流だったため、それらを聴いて育った世代にとっては原点と言える音像であるし、それ以降の世代にとっては新鮮な響きを得られることになる。

 しかしそれはあくまでも表面的な魅力だ。本質的には、音圧感であったり演奏の一体感をステレオ音源以上に強く感じられるという側面のほうが重要である。すべての音が一箇所からまとめて鳴らされることにより、それぞれに分離していない渾然一体とした音像になりやすい。そのことが、生演奏とは違う録音物ならではの独特の風合いを生み出す。

 バンド音楽で言えば、「ドラムの音とベースの音とギターの音が鳴っている」のではなく、「バンドの音が鳴っている」状態として味わいやすくなる。どちらがいいとか悪いとかいう話ではなく、「トンカツとカレーのセット」と「カツカレー」とでは、まったく意味合いが違うということだ。そして、そのどちらにもきちんと意味がある。

ステレオも万能ではない

 そもそも、ステレオミックスにしたところで完全に分離感のある音像を再現できるわけではない。もともとの演奏では各プレイヤーがそれぞれの立ち位置からそれぞれに音を出しているわけで、それをLチャンネルとRチャンネルのたった2箇所から鳴らし直すという過程においては、モノラル収録と同様の欠落はどうしても起こってしまう。であるならば、よりプリミティブな形であるモノラルで仕上げたほうが潔い、という考え方は十分に成立する。

 米津玄師に代表されるような、デスクトップで作られる緻密かつレイヤードな音像に慣れきった耳には、ものすごく異質に響くであろうモノラル音源。しかし、実際にモノラル音源を聴くことによって、それが単なるノスタルジーにはとどまらないことがわかるはずだ。不可分なバンドサウンドの魅力や、ミュージシャンとしての彼らの基礎体力的な強靭さにも触れることができるだろう。

 もちろん、ステレオ音源でそれらが味わえないということではない。が、確実に言えることがひとつだけある。よほど自信がなければ、モノラルで音源などリリースできないということだ。

■ナカニシキュウ
ライター/カメラマン/ギタリスト/作曲家。2007年よりポップカルチャーのニュースサイト「ナタリー」でデザイナー兼カメラマンとして約10年間勤務したのち、フリーランスに。座右の銘は「そのうちなんとかなるだろう」。

※初出時、タイトルの一部に誤りがありました。お詫びして訂正いたします。

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