あいみょん楽曲のイメージ広げる二つの映像世界 very short movieとMVを比較
先月、10月2日に発売されるあいみょんのシングル曲「空の青さを知る人よ」の“very short movie”が公開された。
あいみょんの楽曲では4thシングル曲「満月の夜なら」以降、MVとは別でvery short movieを制作している。通常、先行して公開される尺の短い映像は、MVを短縮した作品であることが多いが、彼女の場合は違う。内容も一見すると別物で、映像を手がけているのも異なった人物だ。
これまでに制作されたvery short movieとデビュー以降にリリースされたシングル全てのジャケット写真でワークアートを担当しているのは、個性的な作品を生み出すクリエイター・とんだ林蘭。ポップな配色で現代的ながらも、どこかノスタルジックな世界観はあいみょんの楽曲とマッチする。
また、「マリーゴールド」以降の楽曲でMVを手がけているのは、山田智知。彼は米津玄師の代表曲「Lemon」をはじめ、サカナクションや水曜日のカンパネラなど多くのクリエイターとタッグを組む注目の映像作家だ。very short movieを担当するとんだ林蘭とは反対に、彼の映像は配色が少なめで儚げな印象を受ける。
このように、異なる個性を持ったクリエイター2人はそれぞれの楽曲をどのような映像世界で表現しているのか。「ハルノヒ」と「真夏の夜の匂いがする」を例に、それぞれvery short movieとMVを比較してみよう。
まずは、映画『クレヨンしんちゃん 新婚旅行ハリケーン~失われたひろし~』の主題歌として書き下ろされた「ハルノヒ」。同映画はしんちゃんこと野原しんのすけの両親である、ひろしとみさえを中心人物に据え、野原一家の新婚旅行先であるオーストラリアを舞台に「家族愛」が描かれている。歌詞の冒頭に〈北千住駅のプラットホーム〉というフレーズが登場するが、北千住駅はひろしがみさえにプロポーズした場所(参照)。very short movieの撮影も、北千住駅ではないが別の駅構内で行われている。ここで注目したいのは、旅立ちを象徴する場所でもある“駅”だ。誰かと家族になり、同じ道を歩んでいくのも新たな旅立ち。あいみょんが電車から景色を黄昏れつつ眺めたり、時折楽しそうに走り回ったりしているシーンは、未来に思いを馳せる家族の始まりを描いているように思える。
一方、MVの方は少しばかり不穏な空気を含んでいる。こちらの撮影は、静岡県の伊豆半島で行われた。冒頭では、あいみょんが枯れた草木の中で強い風に吹かれ、雨に打たれるシーンが映し出される。しかし、中盤からは天気が一転。美しい夕焼けをバックに、広大な土地で伸び伸びと歌うあいみょんの姿が印象的だ。緊張と緩和の両方を映し出した同作は、まるで時にぶつかりながらも絆を深めていく家族の営みを反映しているようにも見えてくる。very short movieとMVはどちらも“家族”というテーマを意識しているのではないだろうか。