SIX LOUNGE、「幻影列車」に表れた明らかな新機軸 聴き手の想像を掻き立てる歌詞を考察

 テン年代前半の“4つ打ちのダンスロック”のブームもすっかり落ち着き、現在のバンドシーンは、オーセンティックなロックに回帰しつつある(と期待を込めて言い切りたい)。もちろんスタイルや方法論は多種多様であり、ブルースロック、サイケデリックロックに根差したバンド、90年代オルタナティブを想起させるバンド、ハードコアパンクの匂いを感じさせるバンドなどが続々と登場している現状はきわめてスリリングだ。SIX LOUNGEもそのひとつ。ホームページのバイオグラフィーには“大分 日本語ロックンロールバンド”と記されているが、この言葉通り、“日本語とロックンロールをどう融合させるか?”というテーマーー70年代初めからのこの国のロックバンドに課せられてきた命題だーーを追求し続ける3ピースバンドだ。各地のフェスやイベントでも確実に注目度を高め、今年6月にはZepp Fukuoka、新木場STUDIO COASTでワンマンライブを行うなど、ライブ動員も拡大し続けている彼ら。ここでは、ナガマツシンタロウ(Dr)が手がける歌詞を中心に、SIX LOUNGEの音楽性を考察してみたい。

 2017年1月に発表されたミニアルバム『大人になってしまうなよ』の表題曲「大人になってしまうなよ」に象徴されるように、これまでのSIX LOUNGEの歌の中心は、大人になってしまうことへの反発と恐れる、いわゆるモラトリアムな感覚だった。10代特有の焦燥感、“ずっとこのままでいたい”という願望と“自分もいつかは大人になってしまう”というある種の諦念を生々しいロックンロールに結びつけることで、彼らはここまで突っ走ってきたと言ってもいい。それはもちろん、きわめて真っ当なアティチュードだ。初期衝動という強くつながっているロックンロールは、極論すれば、10代のための音楽。SIX LOUNGEが“未来のことは知らない。いま、この瞬間にすべてを注ぎ込む”という表現に突き進んだのも当然のことだろう。

 ナガマツの歌詞に少しずつ変化が見られるようになったのは、今年の5月にリリースされたシングル表題曲の「天使のスーツケース」からだろうか。性急なビートと叙情的なメロディを軸にしたこの曲は、〈スーツケースにガラクタぶち込んで/街を抜け出す〉というラインから始まる。女性目線で綴られたこの歌は、一瞬で映像が浮かぶような表現、歌詞の背景に込められたストーリー性を含め、明らかに新機軸だ。HPに掲載されているオフィシャルインタビューでナガマツは、この歌詞に関して「未来へ進む感じのイメージで。生まれ変わるじゃないですけど、新しく気分を入れ替えるような感じ」とコメントしている。この言葉は、SIX LOUNGEの歌の世界が大きな変化していることの証左だと思う。

 9月11日にリリースされるニューシングルの表題曲「幻影列車」からも、このバンドの表現がさらに深みを増していることが伝わってくる。The Yardbirdsの演奏で知られる「the train kept a rollin’」、ザ・ブルーハーツの「TRAIN-TRAIN」など、“列車”はロックンロールの定番のモチーフ。このテーマを彼らは、独創的な表現を織り込みながら、新たな名曲に仕立て上げている。

 「幻影列車」は、濃密なグルーヴをたたえたミディアムチューン。ギラっとした鋭さとノスタルジックな雰囲気を併せ持ったメロディラインとともに描かれるのは、儚さ、切なさ、憂いをたっぷりと感じさせながら、どこかにあるはずの光を探し求める心情だ。特に〈行く先のない無人列車に乗っていく/君はもう乗ってこないだろう/だけど悲しくない〉というフレーズは秀逸。圧倒的な喪失感と“それでも進んでいくんだ”という意思をリリカルに映し出すこのラインは、現在のSIX LOUNGEのモードを端的に示すと同時に、作詞家としてのナガマツの才能を改めて証明している。

 この歌詞のなかでナガマツは、具体的なことは何一つ説明していない。“無人列車”は何のメタファーなのか(楽曲の後半では“幽霊列車”と表現を変えている)。“君”とは誰で、この歌詞の主人公とはどんな関係なのか。そういうことがまったくわからないまま、しかし、だからこそ「幻影列車」は聴き手の想像力を激しく掻き立てる。この歌の背景にはどんな物語があり、それは現実の世界とどうリンクしているのかーーこの曲を聴いていると、どうしてもそんな思いが沸き立ってくるのだ。

 通奏低音のように響く孤独と寂しさ、「銀河鉄道の夜」を連想するようなスケール感を併せ持った「幻影列車」。この豊かな広がりを持った歌を生々しく描き出すヤマグチユウモリ(Gt/Vo)のボーカル、メロディアスなベースラインで楽曲を支えるイワオリク(Ba)のプレイも、この曲の聴きどころだ。ロックンロール本来の鋭さを失うことなく、3人が一体となって濃密な感情を伴った“歌”を響かせる。これこそがSIX LOUNGEの本質なのだと、「幻影列車」は改めて示しているのだと思う。

SIX LOUNGE - 「幻影列車」 Music Video

■森朋之
音楽ライター。J-POPを中心に幅広いジャンルでインタビュー、執筆を行っている。主な寄稿先に『Real Sound』『音楽ナタリー』『オリコン』『Mikiki』など。

■リリース情報
『幻影列車』
発売:2019年9月11日(水)
初回限定盤(CD+DVD): ¥2,200(税抜)
通常盤(CD):¥1,200(税抜き)
CD
1.幻影列車
2.星とメロディ
3.氷の世界
DVD
「SIX LOUNGE TOUR 2019 "in LOVE" for SIX at LIVE HOUSE BRONZE (2019.06.06) - live selections -」
1.Lonely Lovely Man
2.東京紙風船
3.DO DO IN THE BOOM BOOM
4.大人になってしまうなよ
5.星とメロディ
6.天使のスーツケース
7.二人でこのまま
8.LULU
9.ピアシング

■ツアー情報
1月8日(水) 東京 渋谷 CLUB QUATTRO(ワンマンライブ)
1月11日(土) 愛知 名古屋 CLUB QUARTTO
1月12日(日) 大阪 梅田 CLUB QUATTRO
1月18日(土) 大分 club SPOT
1月19日(日) 愛媛 松山 W studio RED
1月25日(土) 熊本 Django
1月26日(日) 鹿児島 SR HALL
2月1日(土) 福岡 小倉 FUSE
2月2日(日) 岡山 IMAGE
2月4日(火) 兵庫 神戸 太陽と虎
2月5日(水) 京都 KYOTO MUSE
2月6日(木) 奈良 NEVER LAND
2月8日(土) 長野 松本 ALECX
2月9日(日) 静岡 UMBER
2月15日(土) 福島 郡山 HIPSHOT JAPAN
2月16日(火) 岩手 the five morioka
2月18日(火) 神奈川 F.A.D YOKOHAMA
2月19日(水) 千葉 LOOK
2月21日(金) 茨城 水戸 LIGHT HOUSE
2月22日(土) 栃木 HEAVEN'S ROCK 宇都宮 VJ-2
2月29日(土) 沖縄 桜坂セントラル
3月7日(土) 香川 高松 DIME(ワンマンライブ)
3月8日(日) 広島 広島 CLUB QUATTRO(ワンマンライブ)
3月14日(土) 北海道 札幌 PENNY LANE24(ワンマンライブ)
3月20日(金・祝) 新潟 GOLDEN PIGS RED STAGE(ワンマンライブ)
3月21日(土) 宮城 仙台 CLUB JUNK BOX(ワンマンライブ)
3月29日(日) 石川 金沢 vanvanV4(ワンマンライブ)

オフィシャルサイト

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