乃木坂46『真夏の全国ツアー2019』で目撃した“円熟と継承”が交差する景色

乃木坂46『真夏の全国ツアー』最終公演レポ

 今回のセットリストによって浮かび上がるのは、グループの継承を担う「層」が幾重にも充実していることである。ライブ前半には3期生の「三番目の風」から4期生「4番目の光」へと繋ぎ、3・4期合同でそれぞれの期別楽曲をパフォーマンスするパートが設けられた。2年あまり前、「三番目の風」は3期生初期のアンセムとしてあったが、現在の彼女たちによるこの楽曲は、かつてとは異なる大きさパワフルさを手にしている。それが現在の4期生との交わりのなかで披露されることで、加入初期からのキャリアを照らすような遠近感を生み、3期生以降の乃木坂46にも新たな継承の歴史が生まれていることが示される。

 また、選抜とアンダーの融合として表現された、「あの日 僕は咄嗟に嘘をついた」ほかアンダー楽曲もグループの層のあり方を捉え直すものだったが、特にアンダー楽曲についていえば、アンダーライブが培ってきた実力を知らしめる瞬間になったのは、北野日奈子がセンターを務める「日常」だった。ごくストレートなライブパフォーマンスとしては、セットリスト中でも「日常」は随一の力強さを誇っていた。フェーズの異なる「層」の厚さはここにも明確にうかがえる。

 ただし、幾重にも連なったこれらの「層」はやがて、ひとつの大きな和へと集約されていく。それを何よりも表現するのは、グループ全体で歌唱される「僕のこと、知ってる?」だった。メンバーたちが期別に登場する際、そこにはそれぞれの期としての結束や矜持がうかがえる。けれども、それらが最終的に溶け合って生まれるのは、互いを慈しみ合うようなひとつの円である。この曲が主題歌になったドキュメンタリー映画『いつのまにか、ここにいる Documentary of 乃木坂46』が乃木坂46のうちに見出したのは、まさにメンバーたちが相互に向けて、またこの組織に向けて投じるいくつもの愛着だった。波乱の物語でも激情でもなく、穏やかに慈しみ合うさまは、乃木坂46が一貫して体現するひとつの群像劇たりえている。「僕のこと、知ってる?」のパフォーマンスは、乃木坂46というグループの基調を何よりも表現していた。

 ツアー最終日のクライマックスは、キャプテンを務めてきた桜井玲香に最大のスポットがあたる。もとより、全方位的なスキルの高さをもつ桜井を称するうえで、“ポンコツ”という二つ名はさほど似つかわしいわけではない。歌唱にもダンスにも演技にも巧みさをみせ、またその技術を大仰にではなくごくナチュラルにパフォーマンスに織り込む手際はこれまで、多方面にグループを支えてきた。この日もユニットのパートでは「自分じゃない感じ」を鮮やかに再解釈し、楽曲の新たな可能性を示唆してみせた。

 彼女の卒業がなお鮮やかなのは、11月に予定されている帝国劇場ミュージカル『ダンス・オブ・ヴァンパイア』出演など、グループ在籍時の蓄積を卒業後の活動に繋げる道標となっているからでもある。グループ在籍中か卒業しているかを問わずさまざまなジャンルへと架橋し、それを個々人のキャリアに接続することに関していえば、乃木坂46というグループは現在、相対的にきわめて順調な立ち位置にある。否応なくグループの構成が変わっていかざるを得ない時期にあたって、そうした特性も継承してゆけるかどうかは、半年後、一年後のグループの景色を見据えるうえで重要になるはずだ。

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■香月孝史(Twitter
ライター。『宝塚イズム』などで執筆。著書に『「アイドル」の読み方: 混乱する「語り」を問う』(青弓社ライブラリー)がある。

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