MUCC、lynch.、DEZERT、the GazettE……定額配信で広がるV系アーティストの可能性

 ヴィジュアル系は、独自の世界観が魅力のひとつだ。また、さまざまな形でファンを楽しませようするサービス精神が旺盛なシーンでもある。そのため、音楽と世界観の両方を深く、楽しく体験してもらえるよう、豪華な限定盤を早い時期から発売してきた。

 たとえば、PIERROTが2002年に発売した『HILL -幻覚の雪-』は、CDに加えてシリアルナンバー入りのプレートが付いたミニボストンバッグに、DVD、リストバンド、Tシャツが封入された、10000セットのみの限定盤が制作された。当時、ライブ参加時にボストンバッグを持つファンが多かったことを考えての仕様だったのだろう。お揃いのTシャツとリストバンド、そしてボストンバッグを身に着けたファンは、一体感をもってその後のライブに臨んでいったに違いない。ファッションを音楽体験に取り込んだ好例といえる。

 また、DIR EN GREYが2008年に発売した『UROBOROS』では、2CD+DVD+2LPの完全生産限定盤が制作された。音楽的な影響力の高い本作は、限定盤のDVDに収録されたドキュメンタリーなどで、その世界観をさらに深く体験することができる。当時としては珍しかったLP仕様からも感じられるように、彼らは音質やパッケージにまでこだわって、濃厚な音楽体験をリスナーに届けようとしたのだろう。

 2010年代では、BAROQUEが2015年に発売した『PLANETARY SECRET』と、2019年に発売した『PUER ET PUELLA』に注目したい。会場・通販限定盤では、ハイレゾ音源が鍵型のUSBに収録されている。"作品の鍵を開く" という身体的な行動を音楽体験に取り入れたことで、作品の世界観とコンセプトがより心に染み込むようになっている。

 以上の作品は、フィジカル・パッケージが作品やライブと連動して深い音楽体験をもたらしている。だからこそか、いずれのバンドもApple MusicやSpotifyなどのサブスクリプションサービスでは一部を除いて取り扱われていない。これには、もちろんマーケティングの観点も関係してくるのだろうが、パッケージも含めた音楽体験を伝えたいというミュージシャン側の想いもあるに違いない。

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