柴 那典の新譜キュレーション
Cornelius、OGRE YOU ASSHOLE、betcover!!…晩夏のチル/サイケデリック新譜8選
betcover!!『中学生』
多摩出身、20歳のヤナセジロウによるソロプロジェクト、betcover!!によるメジャーデビューアルバム。基本はアコースティックギターをベースにした歌モノの曲が並んでいるんだけれど、じっくり聴いていると“飛ばされる”ような酩酊感が宿っている。たぶん彼の音響とサウンドに対しての一筋縄ではいかない意識がもたらすものなのだろう。
たとえば「水泳教室」や「決壊」のリズムやベースラインにはダブ/レゲエやロックステディを経由した、「異星人」など全体を通した重低音のサウンドメイキングにはトラップ以降の感性を感じる。
ヤナセジロウはインタビューなどでもフィッシュマンズからの影響についてたびたび語っているが、たしかに90年代のフィッシュマンズの持っていた革新性を今の時代に蘇らせるならこういう音楽になるかも。レコーディングエンジニアをつとめたのはYogee New Wavesやnever young beachを手掛ける池田洋。その功績も大きいはず。
アルバムは12分を超えるラストの大曲「中学生」が特に素晴らしい。ジャンルとしてではなく、現実世界に穴を開けるという意味での「サイケデリック」を鳴らしている。
okkaaa『okkaaa - EP』
1999年生まれで20歳のラッパー/トラックメーカー/文筆家、okkaaa(おっかー、と読むらしい)のEP。自主リリース。最初に聴いたのはたぶんSpotifyのプレイリストがきっかけで、そこからハマってしまった。
なんというか、いろんなものが「見えてる」才能だと思う。ダウナーで、少し切ないテイストのあるトラックに、声を張り上げず、つぶやくようなラップ。その背景にいろんな文脈を感じる。たとえばトラックメイキングにはNujabesの再評価から「lo-fi chill beats」というタグで海外に広まりつつあるローファイヒップホップの流れを感じるし、たとえば「シティーシティー」のボーカルには、88rising発のライジングスターになったJojiの歌に通じるようなところもある。たとえば「ビーピーエム」にはJ・ディラなどネオソウルのルーツも感じる。
配信リリースされている『okkaaa - EP』に加えて、タワレコ渋谷店限定でCDリリースされた『界雷都市』もいい。当たり前にこういう才能が世に出てくる時代なんだなと思う。
4s4ki『NEMNEM』
4s4kiと書いて「アサキ」と読む。ダウナーなトラックに、はかない歌声。1998年生まれのラップシンガー/ソングライターで、プライベートレーベル<SAD15mg>からリリースされたのが、このEP『NEMNEM』。
リードトラックの「超破滅的思考」や、Charisma.comのいつかを客演に迎えた「幻 feat.いつか(Charisma.com)」が象徴的だけれど、押しの強いシンセの音と内省的な声が絶妙にマッチしている。
EPに続けて新曲も立て続けにリリースされていく予定とのことで、9月4日リリースの「欠けるもの」は、泉まくらやドレスコーズ「もろびとほろびて」の編曲を手掛けたmaeshima soshiを共同プロデュースに迎えた曲。
4s4kiもそうだが、泉まくらやmaeshima soshiも含めて、レーベル<術ノ穴>や<ササクレクト>周辺に集まる才能たちが、メランコリックなビートミュージックの一つの潮流を作っている感じもする。