新刊『伝わるノートマジック』インタビュー
西寺郷太が語る、“手書きノート”本がもたらす創作の楽しさ「変化があっても目的地にたどり着ける」
「手書きノート」は思考の可視化、確認
ーーなるほど。Negiccoに書き下ろした「愛のタワー・オブ・ラヴ」の制作ノートも掲載されていますが、こういうノートも普段から作ってるんですか?
西寺:大体作ってますね。Negiccoの場合は、2008年リリースの「圧倒的なスタイル」が2012年に『めちゃイケ』のEDテーマに選ばれた後、「次はどうしようか」という時期に呼ばれたんですね。それまではずっと、地元のアマチュア・ソングライターのconnieさんが曲を作っていて。もういまや、経験を積まれて凄いプロデューサーですが。その時は、やはりプロの世界を彼はあまり知らなくて。ミックスやレコーディングの基本ノウハウというか。外部のクリエイターが参加するのは僕が最初だったんです。このノートは当時の思考を思い出し、プロを養成する学校(SONIC ACADEMY)のために作ったんですが、その後、Negiccoのメンバーに送ったら、すごく喜んでくれて。
ーーアーティストやスタッフにノートを見せることも?
西寺:ありますね。V6の「kEEP oN.」を作ったときも見開きのノートにまとめて、みなさんと共有しましたね。すごくいい現場で。V6のメンバーも喜んでくれましたね。
ーーノートが制作を進めるための地図になったと。
西寺:そうですね。車に乗る人で、今、Googleマップや、ナビで行き先まで調べない人いないと思うんです。電車で知っている場所に行くためにでも、乗り換えアプリを使いますよね。「ホントにこれがいちばん近いのかな」って。僕にとって「手書きノート」は思考の可視化、確認。それを最初にやっておくと、途中で変化があっても、目的地にたどり着ける。
ーー“手書きでノートを作る”という行為自体も、スキル、労力がたっぷり詰まっていますからね。SNSなどの発信とは対極にあると言いますか。
西寺:そう思います。僕自身もネットやスマートフォン、ストリーミングはめちゃくちゃ使ってるし、作詞も作曲もパソコンでやってますけど、20年代のフェーズに入るタイミングで手書きのノート本を出すことは、一つの提示になるんじゃないかなと。めちゃくちゃ大爆発して、「こんまり」さんみたいに世界的な存在になったらどうしよう、手書きノートで(笑)。
ーー本の冒頭には、「西寺郷太のノートができるまで」と題して、使用する道具、書き方のコツなどが紹介されていて。これは「読者にもノートを作ってほしい」ということですよね?
西寺:本の構成は編集者のアイデアなんですが、使うノートや鉛筆、2ページから4ページでまとめるとか、5冊くらい同時に使うとか、決まったやり方がありますね。ただ、なんだかんだいいつつ、手書きの時、漢字がめちゃくちゃむずいです(笑)。これだけ書いても忘れてます(笑)。
ーー“ノートマジック”というタイトルについては?
西寺:最初はプロに、タイトルつけるの任せようと思って。“伝わるノート術”みたいな案があったんですけど、任せておいて何か違うなと。ノーナの曲目もそうなんですけど、「DJ!DJ~とどかぬ想い~」「あの娘にガールシック(THE GIRLSICK)」「今夜はローリング・ストーン」みたいな、80年代の洋楽のテイストが好きなんですよね。最初に書いた小説も「噂のメロディ・メイカー」でしたし。そこからまず「ノートマジック」というタイトルを思いついて。ノートって、相手の気持ちを惹きつけるための、めっちゃいい武器なんですよ。リチャードさんの取材のときもそうだし、スラッシュさん(Guns N’ Roses)もそうだったんですけど、「それ何? 見せてよ」ってなるんで。取材に慣れていて、ちょっと飽きてる人もグッと近づいてきてくれる。まさにマジックのタネみたいだなと。ノートを作るための道具も、鉛筆と下敷きと消しゴム、それからノートだけ。ちょっといいノートを選んでも2000円くらいで揃えられるしね。
ーーこの本の価格も1500円ですからね。
西寺:安いですよね。僕は本当は「出来るだけ高くしてほしい」って頼んだんです。労力とか歴史を考えれば、相当なものなので。でも、1500円だったら「2冊買って、1冊は知り合いの子供にあげよう」みたいなこともしやすいと思って。例えば、「ノートを授業中にちゃんと取れよ」と言っても漠然としたアドバイスだけど、この本を見たら「これならやってみたい」と思う子もいると思うので。めちゃくちゃ楽しいんで、ぜひトライしてみてほしいですね。
(取材・文=森朋之/写真=三橋優美子)
■書籍情報
『伝わるノートマジック』
西寺郷太夫/著
発売中
価格:¥1500(税抜)
A5変形/オールカラー/104ページ
スモール出版
■イベント情報
「西寺郷太のノート術講座」
日時:8月6日(火) 紀伊國屋書店新宿本店9階 イベントスペース
19:00開始 18:40開場
※定員に達したため、整理券の受付は終了しています。