Ghost like girlfriend、観る者を魅了する“ロックスター”としての風格 『Version』ツアーレポ
Ghost like girlfriend、メジャーから最初のリリースとなるフルアルバム『Version』を携えての東阪ツアー東京公演、7月1日リキッドルーム。2019年3月17日に渋谷WWWで行った、Ghost like girlfriendとしての初のワンマンは、バックトラックとギター等の生楽器を混ぜた編成だったが、今回はドラマーが加わっている(あちこちでひっぱりだこの名プレイヤー、GREAT3の白根賢一)。
本編16曲、アンコール1曲の全17曲。『Version』収録の11曲は全曲披露された。バックはギター、ドラム、ベース、キーボードという編成で、曲によってバックトラックも使う。Ghost like girlfriendこと岡林健勝本人は、楽器は持たず、スタンドマイクもしくはハンドマイクで歌うスタイル。Tシャツのスソをパンツに入れ、歌っている時の表情は、前髪と照明の具合で、はっきりとは見えない。
「ghost」で始まり、「sands」「(want)like(lover)」と続き、最初のMCでは「1曲目から泣きそうになっちゃって。情緒が自分でも安定してない」というようなことを言い、次のブロックで「Under the umbrella」「煙と唾」「cruise」をプレイしたあたりまでは、観ながら「前回のWWWまで、ちゃんとしたライブは3年くらいやってなかったんだよな」と思い出したりしていた。
要は、まだライブは不慣れなんだな、と感じたということだが、「Last Haze」で本編を締め、アンコールで「feel in loud」を追加する頃には、そんな印象が完全に消えていた。顔つきも、ボディアクションも、歌そのものも、もう完全にロックスターのそれにしか見えない。そこで歌っているという事実が観る者を魅了する、そういう人になっていた。という事実に、びっくりした。
ライブが進んでいくうちに場に慣れた、それに応じてお客さんも慣れた、というよりも、お互いの緊張が発したエネルギーが、ぶつかり合って、混ざり合って、それが何かのきっかけで陽性のエネルギーになってこの場を包んだーーというふうに、僕には感じられた。
特に中盤、「fallin’」から「shut it up」につないだブロック。ひややかでやわらかな音にくるんで己の孤独と決意を描く「fallin’」から、〈描け、狙え、したら行け〉のリフレインの末にすさまじい解放感が降ってくる「shut it up」につないだブロックが、圧巻だった。
「よかったら、一緒に歌おう」と彼が呼びかけた14曲目「髪の花」では、サビでじんわりとシンガロングが起こる。その2曲くらい前に、「みなさんを楽しませていますか?」と問いかけていたのを思い出し、楽しませているかどうかはわからないけど、魅了しているのは間違いないですよ、と、言いたくなった。
このライブの前の晩、本棚を見たら、最近自分が載った音楽雑誌も、8年前に読んでいた音楽雑誌もあった。8年前の雑誌に載ってるような人たちのところまで、自分も辿り着けたのかな、と思って読み直してみた。どこにも辿り着けていないことがわかった。ここまで来たら悩みとかから解放されているだろうと思ってたけど、全然そうじゃない。8年前の人たちのような輝きは自分にはない。確実に景色は変わっているけど、自分は変わることはできなかった。でも、生き延びることはできている。8年前と変わらずに、どこまで行けるのか試してみたい。8年後もこの曲を歌えるようにーー。
本編ラストのMCで、彼はこんな話をしてから、前半の〈見てみたい、してみたい事だらけさ〉という歌詞が後半では〈見ていたい、していたい事だらけさ〉に変わり、〈明日死んでも良いなんて全て叶うまで無しにしようぜ〉と締めくくられる「Last Haze」で本編を終えた。
そして、アンコールで「feel in loud」を切々と歌い終えた後、「名残惜しいんで、またすぐ会いに来ます」と告げ、「きみたちは、きれいです! きれいです!」と、二度口にしてから、ステージを下りた。地元淡路島でも、東京に出てからも、いろいろ紆余曲折あってここまで来た人だけに、ステージから見る光景に対して、いちばんふさわしい言葉がそれだ、と思ったのだろう。
■兵庫慎司
1968年生まれ。音楽などのライター。「リアルサウンド」「DI:GA ONLINE」「ROCKIN’ON JAPAN」「週刊SPA!」「KAMINOGE」などに寄稿中。