MISIAが一つの時代を締めくくるのは必然だった 平成最後の武道館公演を振り返る

MISIA、平成最後の武道館公演レポ

 スクリーンには平成31年間のニュースが次々と映し出されていく。嬉しい出来事も悲しい事件も、恐ろしい災害もあった平成。その中でも人の絆と愛を信じてMISIAは歌い続けてきた。清楚なイエローのドレスに着替え、「Everything」「LOVED」と新旧織り交ぜたバラードを真心込めて歌い、素晴らしいピアノと豊かなストリングスの響きがそれを力強く支える。さらに「逢いたくていま」から「明日へ」と、たっぷりと時間をかけて歌いあげた極上バラード4曲。MISIAのバラードはR&B的でありながらブラックミュージック特有のフェイクを入れず、聖歌隊のようにまっすぐに歌い上げるから、そのまま心の奥に届いてくる。アップテンポと同じパワーでぐいぐい迫る、これほど純粋で情熱的なバラードの歌い手は日本でただ一人、MISIAだけだ。

(写真=Santin Aki)

 平成10年に始まったMISIAのキャリアは、音楽と並行する社会貢献活動の実践でもあった。特にアフリカでの活動は良く知られるところで、次にスクリーンに映し出されたMISIAは子供たちと共に歌い、踊り、笑い、教え、学び、カジュアルな服と笑顔で現地の人々の輪に溶け込んでいる。「AMAZING LIFE」から始まるこのセクションは、スクリーンの中のアフリカがそのまま飛び出してきたかのように、鮮やかな七色のドレスに身を包み、ダンサーと共に明るく歌い踊るパフォーマンスで賑やかにスタートした。懐かしいシングル曲「BELIEVE」も、ファンキーなビートが強調されてまるで新しい曲のようだし、「Color of Life~Re-Brain」のメドレーはラテンファンク調のグルーヴが最高に気持ちいい。極めつけは「MAWARE MAWARE」で、ドラマーとパーカッショニストが叩き出す複合リズムと強烈なグルーヴのうねり。アフリカから南米を回ってアメリカ深南部経由で日本の祭りに至るような、雄大な音楽のエッセンスを蓄えたワールドワイドなダンスミュージックだった。見渡す限り誰もがみな祝祭の輪に加わり、手にタオルを掲げて振り回しながら踊る。ダンサーたちの紹介も兼ねたソロダンスの見せ場もあり、ステージと客席が完全に一体となった本編ラストにふさわしい熱狂のフィナーレだ。

 さあ、アンコール。メンバーと揃いのシックなチェック柄のパンツルックで、「アイノカタチ(feat.HIDE GReeeeN)」を全身を使って歌い上げるMISIA。歌い終わって「ありがとう!」と叫ぶ満面の笑みが素晴らしい。最新シングルにしてJ-POPスタンダードの風格を備えた壮大なミドルバラードは、歌うことが好きで好きでたまらない彼女の原点を余すことなく引き出す意味で、平成最後のシングルにふさわしいと言える。そして平成最後の武道館公演を締めくくったのは、MISIAのスタンダードナンバー「陽のあたる場所」「つつみ込むように…」の2曲だった。1998年、それまで翻訳の域にあった洋楽R&Bを日本のポップスに昇華してヒットチャート上位に叩き込んだ。この2曲の成功の後から多くの新世代アーティストたちが羽ばたいていった。最初に扉を開けたのはMISIAだ。「つつみ込むように…」の冒頭、超高音域のホイッスルボイスがあの頃とまったく変わらない、いやそれ以上のパワーで武道館いっぱいに響き渡った時の感激を一体何と表現しよう?

「平成の宝物を全部持って、令和に行きたい。みんな一緒に令和に行こうよ!」

 2時間以上歌い続けてもまだ歌い足りないMISIAは、「みんなと一緒に令和に行けたら幸せ~」と即興アカペラを披露したり、終演後のBGMのはずだった「アイノカタチ (feat. HIDE GReeeeN)」を、途中からマイクを持って本気で歌い始めたり、子供のようにはしゃいでいる。バックバンドのメンバーも笑顔で演奏に加わり盛り上げる、チームワークも抜群だ。「こうしてみなさんと過ごせたことが平成一番の思い出です」と言ったその言葉は、元号が変わってもきっと変わらないだろう。ライブこそ、スーパーボーカリスト・MISIAの規格外のパワーが発揮される場所。平成が生んだ最強ボーカリストは、令和でも最高であり続けることを確信する素晴らしい一夜だった。

(取材・文=宮本英夫/メイン写真=Junichi Itabashi)

■セットリスト
『MISIA 平成武道館 LIFE IS GOING ON AND ON』
4月28日(日)東京・日本武道館

01. Sparks!!
02. Escape~Rhythm Reflection~LOVE BEBOP~Royal Chocolate Flush~THIS IS ME
03. We Will Rock You
04. We Are The Champions
05. 来るぞスリリング
06. Everything
07. LOVED
08. 逢いたくていま 
09. 明日へ
10. AMAZING LIFE
11. BELIEVE
12. Color of Life~Re-Brain
13. MAWARE MAWARE
EN1. アイノカタチ (feat. HIDEGReeeeN)
EN2. 陽のあたる場所
EN3. つつみ込むように…

■関連リンク
MISIA オフィシャルサイト

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「ライブ評」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる