ASKAは“作詞家”としてどんな言葉を社会に残してきたか 35年ぶり詩集刊行を機に考える
だが、ヒットメーカーだった彼だって、いつまでもいい状態が続くわけがない。景気停滞と同調するように試行錯誤の時期に入り、「UNI-VERSE」(2008年)で『鉄腕アトム』に触れつつ壮大な宇宙をテーマにしたかと思えば、音楽の可能性を再確認しようとしたのか「歌の中には不自由がない」(2012年)と題した曲をリリースする。
そして、2013年に薬物問題が報道され、翌年に逮捕されたのである。音楽活動再開後の2017年発表のアルバム『Too many people』には自問自答を書いたような歌詞が多かった。曲名からして「それでいいんだ今は」、「元気か自分」、「信じることが楽さ」といった具合だ。
今回出版された『ASKA 書きおろし詩集』も、そうした自問自答を感じさせる内省的な言葉が多い。例えば、「心の場所」と題された詩の次の一節。
僕は景色に騙されるように
道を間違えたに違いない
悔恨が感じられるこのような文章は、本人の経験と結びつけて受けとらざるをえない。とはいえ、かつて平成の一時期を象徴する歌を発表した人が次のように書いているのを読むと、同じ時代を生きてきたものとしては、彼と共通する感覚を自分もどこかに持っているのではないかとも思う。
未来を人質に明日を語ってはいけません
幸せでありたいと願えることが幸せなのです
「別れ」と題されたこの詩は、「あなたに逢えて本当によかった」と繰り返して終わる。
詩集にはASKA自身の心情を吐露した部分と、今の社会の底流にある感覚を想像上の人物に言わせたような部分がまざっていて、必ずしもはっきりと分けられない。このため、本に書かれた過去への悔恨と未来への希望が、彼本人のものか、他の人々も共有する時代の意識なのか判然としなくなって、複雑な印象を残すところもある。バブルの頃から現在まで、なんらかの失敗をしたのは、彼だけではない。だから本の詞には、彼の人生だけでなく、自分の足もとを見つめ直させる部分がある。
元号が代わることで歴史に一つの区切りをつけようとする動きがみられる今、ASKAの言葉を読むのは、予想外に興味深い体験だった。
■円堂都司昭
文芸・音楽評論家。著書に『エンタメ小説進化論』(講談社)、『ディズニーの隣の風景』(原書房)、『ソーシャル化する音楽』(青土社)など。