小田和正が母校で歌う一夜限りの奇跡 『風のようにうたが流れていた』公開収録レポ
ステージにグランドピアノが置かれると、「もう一人のゲスト、きっとみなさん喜んでくれるでしょう!」と、矢野顕子を紹介した。軽いハグで、久しぶりの対面を喜び合った2人。「ニューヨークに住んで何年になるの?」「住みやすい?」など小田の質問に、矢野顕子は「NYはもう30年、私には住みやすいかな」と、フランクな様子で答える。彼女を迎えて歌った「David」は、矢野のピアノと小田のアコースティックギターというシンプルな演奏。曲の持つ牧歌的な雰囲気が、会場をやさしく包み込み、観客の間には自然と笑顔が広がっていった。何十回もリハーサルを重ねてきたような2人の絶妙なハーモニーからは、同時代を生きてきた戦友といった確かな信頼関係が感じられる。
「番組を作る上でさまざまな音楽を聴き、そのなかで珍しい人を見つけました。杏ちゃんです。よく来ていただけました」と、紹介された女優の杏。小学校のとき聖歌隊で賛美歌を歌っていた経験もあるそうで、2010年から女優業と並行して音楽活動も行っている。「こんなに豪華なメンバーのみなさんと一緒に歌えて光栄です。でも編曲がシンプルで音数も少ないので、すごく緊張します」と話した杏は、小田と和田唱のギターをバックに、松田聖子の「SWEET MEMORIES」を歌った。同曲は、1983年に松田聖子が歌ったジャズ調のバラードで、杏の低音ボーカルによって艶っぽさが増し、よりブルージーになった雰囲気に観客が酔いしれる。落ち着いた上質の音楽空間は、この番組の魅力の一つだ。
もちろん小田の人気ナンバーも披露された。この日歌ったのは、「さよなら」と並ぶオフコースの名曲のひとつ「YES-YES-YES」で、ライブでは観客の大合唱が起こることでも有名だ。冒頭の「風のようにうたが流れていた」のように出演者が並んで、全員で順番に歌い繋いでいくと、ステージの両脇には歌詞が映し出され、観客も立ち上がって一緒に口ずさんだ。小田の母校である聖光学院で、オフコースの名曲「YES-YES-YES」が歌われるという奇跡的な瞬間に、会場からは大歓声と拍手がステージ上の小田に贈られた。
昨年末は『クリスマスの約束』の放送がなく、寂しく思っていた音楽ファンも少なくなかった。そんな声を聞き、「もう少し暖かくなったころに、また何かやりたい」とスタッフと相談して、この日を迎えたという。音楽番組を作るには、制作費以上にリハーサルなどで時間がかかるものだが、またこういった機会が設けられたのは、小田の音楽に対する愛と、上質な音楽を聴きたいというファンの願いがあったからこそ。永久保存版の奇跡の一夜は、ファンならずとも見逃せないものになっている。
(取材・文=榑林史章)
■番組情報
『小田和正音楽特番「風のようにうたが流れていた」』
3月29日(金)深夜24時20分~25時50分放送
出演:小田和正
ゲスト:杏、熊木杏里、佐藤竹善、JUJU、スキマスイッチ(大橋卓弥、常田真太郎)、根本 要(STARDUST REVUE)、水野良樹(いきものがかり)、矢井田瞳、矢野顕子、和田 唱(TRICERATOPS)※50音順
バンドメンバー:木村万作(Dr/Percussion)、栗尾直樹(Key)、稲葉政裕(Gt)、有賀啓雄(Ba)、山本拓夫(Sax/Flute)
ストリングス:金原千恵子(1st Violin)、吉田翔平(2nd Violin)、徳高真奈美(Viola)、笠原あやの(Cello)
製作著作:TBS
制作協力:TBSスパークル
プロデューサー:服部英司
ライブ演出:柴田猛司
(c)TBS