シングル『この世界で』インタビュー

家入レオが語る歌への意識と自己プロデュース「どれだけ曲と自分の人生を濃く結びつけられるか」

 シンガーソングライター、家入レオの通算15枚目のシングル『この世界で』が1月30日にリリースされる。

 表題曲は、映画『コードギアス 復活のルルーシュ』オープニング主題歌。初の映画タイアップとして書き下ろされたこの曲は、昨年リリースされたアルバム『TIME』でもタッグを組んだ尾崎雄貴(元Galileo Galilei、現 Bird Bear Hare and Fish) が作詞作曲を手がけており、シンプルな音数ながらまるでアイスランドの大自然を彷彿とさせるような、雄大かつ幻想的なサウンドスケープが伸びやかな家入の歌声を、前面的に引き出すことに成功している。他にも、パラスポーツアニメ「車いすテニス編」テーマ曲となった「Spark」や、清塚信也によるピアノバージョンとして新たに蘇った「もし君を許せたら」など、バラエティ豊かな楽曲が並んでいる。

 尾崎豊に影響を受け10代でデビューした頃は、ヒリヒリとした自らの心象風景を赤裸々に歌っていた彼女も今年で25歳。今回のインタビューやフォトセッションの様子からは、「家入レオ」というアーティストをどう見せるのか、プロデューサー的な視点でも楽しんでいるようだった。

 今回は楽曲の制作エピソードはもちろん、恋愛観についてのジェンダー的な視点など、貴重な内容のインタビューをお届けする。(黒田隆憲)

人を愛するとはどういうことなのか、人生とは? 

ーー本作『この世界で』は、今年一発目のシングルですよね。いつ頃から作り始めたのでしょうか。

家入レオ(以下、家入):昨年リリースしたアルバム『TIME』から、尾崎(雄貴)さんに楽曲提供をしていただいて、その後も交流を重ねるというか、ずっとやりとりを続けさせてもらっていたんですね。お互いのライブにも行き来したり、そこでお話をさせてもらったり。で、その間に届いていたメロディや歌詞の断片の中に、もともと「この世界で」があって。いつかブラッシュアップして世に出したいなと思っていたんです。それからしばらくして、今回のタイアップ(映画『コードギアス 復活のルルーシュ』オープニング主題歌)の話を頂いて。「この世界で」だったら作品の世界観に合うんじゃないかなと。それで尾崎さんと相談して仕上げたのが、この曲なんです。

ーー最初に聞いた時は、どんなふうに感じましたか?

家入:澄み切った空気を胸いっぱいに吸い込んだ時のような気持ちというか……。この曲は、人を愛するとはどういうことなのか、人生とは? という、すごく深いことを問いかける内容で、そういう曲って普通は聴き終わった後に立ち上がれなくなるような状態になることが多いんですけど、「この世界で」は逆に決意を新たにさせられる感じがしますね。

ーー“愛の眠気”というフレーズがとても印象的ですよね。

家入:そう、まずこのフレーズが頭に飛び込んできました。人を好きになると、今まで感じていた世界観が全部逆になる気がしていて。例えば今まで幸せだったことを「悲しい」と感じたり、悲しかったことが「愛おしさ」に変わったり。大切な人を前にして、「悲しみ」や「愛おしさ」がこみ上げてくるような、そんな気持ちが“愛の眠気”というフレーズに込められているような気がしました。

ーー家入さんは、尾崎さんの音楽性のどんなところに魅力を感じますか?

家入:尾崎さんの歌詞は、海外の詩集を読んでいるような感覚があるんですよね。ちょっと村上春樹さんに似た要素があるのかな、と勝手に思っていて。村上春樹さんって、小説を書き始めた頃はまず英文で書き上げてから、それを日本語に翻訳していたそうなんです。そうすると、ご自身が知っている英語のボキャブラリーの中から選び取った言葉を使うから、より思いが強くなるって。

ーーあえて制限を加えることで、発想力や想像力を高めるということはあるのかもしれないですね。

家入:サウンド的にも、例えばサム・スミスやアデル、シーアのような比較的音数の少ないアーティストに惹かれていて。そういう音楽を自分も日本でやりたくて、その気持ちを尾崎さんに伝えたら、「僕もシンプルな音数で、家入さんの声がより際立つ楽曲がいいと思っていたんです」って言ってくださったんですよ。それを実際の楽曲に落とし込んで提供してくださった、そのスピード感にもすごく驚きました。

ーー尾崎さんとは同世代ですよね。そのことで思うことはありますか?

家入:もう、親近感しかないですね。尾崎さんも10代でデビューして、ソロプロジェクト・warbearを経て今は新しくBBHF(Bird Bear Hare and Fish)というバンドで再スタートを切られていますけど、その覚悟や行動力が素晴らしいと思います。自分がデビューした時は、周りの方たちが素敵に光輝いて見えて。自分を振り返った時に寂しい気持ちになることもあったんですよ。でも今は、「私はこの世界に1人しかいないし、比べたりする必要なんてない」と思えるようになって。そんなふうに自分のことを肯定できるようになると、他の人のこともすごく愛せるようになるんですよね。

家入レオ - 「この世界で」(映画「コードギアス 復活のルルーシュ」オープニング主題歌)

ーー「Spark」は、アニメ『アニ×パラ~あなたのヒーローは誰ですか~』のテーマ曲として書き下ろしたんですよね?

家入:はい。この曲を作る上で、国枝慎吾さん(プロ車いすテニス選手)のドキュメンタリー映像を観たんですけど、なぜ自分は感動しているのかを考えた時、「ハンディがあるのに車いすテニスをしている」ということに胸を打たれたわけじゃないと思ったんです。国枝さんという1人の人間が、汗と涙を流しながら自分の道を切り拓いているその姿に感動したんだなと。そこの軸は絶対にブレないようにしたかったんですよね。

私、そもそも「かわいそう」という概念が好きじゃないんです。そのことを自分に置き換えると、よく「女の子なのに〜」とか「女の子だから〜」みたいなことを言われて嫌だなと思うことが多いことに気づいたというか。男とか女とか関係なく、例えば男の子が赤いランドセルを持ちたいと思ったら持てばいいし、女の子が黒いランドセルを持ちたければ持てばいい。誰もが自分の人生を自由に選択していけるようになるといいなと。そんな思いを込めてこの曲を作りました。

ーーここ最近、ジェンダーに対する問題意識が高まり、それに付随した様々な課題点が浮上しつつあると思うんですけど、それについてはどんな風に感じていますか?

家入:私は、「男女」っていうふうに分けるから矛盾が生まれるんじゃないかと思うんですよ。例えば人を好きになるときに、その相手が「男性だから」好きになったりするんじゃないと思うんです。「その人だから」好きなのであって、男性であることが前提ではないというか。私が女の子のことを好きになると、それは「友情」で、男の子のことを好きになると、何故それは「恋」になるんだろうって。両方とも「好き」という気持ちは同じなのに、何故「友情」と「恋」って呼び方が変わるんだろうって。あまり「性別」を意識して人と付き合ったことがないから。

ーーおっしゃっていること、僕もすごくよく分かります。ただ、やがて「友情」が「恋」に変わることもあるわけじゃないですか。もちろん、異性とは限らず同性同士でも起こり得ると思うんですけど。

家入:確かに。私は人を好きになる時に、例えば女性だと今のところは恋愛感情には変わらず、「ああ、この子がおばあちゃんになっても幸せだといいなあ」って思うし、この先もずっと見届けることができるかもって思えるんですよ。でも男性のことを好きになると、場合によっては「恋愛感情」としてその先に進みたくなることもあるし、でも進んでしまうと「友達」には戻れないから、「私、今この人が好きだけど、人生の割と早い段階で知り合っちゃったから、そのあと関わっていくのが難しいんだろうな」って思ってしまうことはありますね。だから、「男女は気にしない」と言いつつ、男性との方が関係を持続させるのが難しい気がしていて。

ーー「恋愛関係」がやがて終わりを告げるなら、このまま「友情関係」にとどめておいた方がいいかなと思うことはあるかもしれないですね。あと、この曲では〈同じような未来を 語るたび 絶望感/悩みはじめたときは 運動して よく遊ぼう〉というラインがとても好きです。

家入:ありがとうございます。この曲はもともと「応援ソングで」というリクエストがあったんですけど、でも応援してほしい時って応援ソングは聴かないと思うんですよ。私が天邪鬼なだけかもしれないですけど……(笑)。なので、私みたいな人が聴いても納得するような応援ソングにしたいとは思いました。頭でクヨクヨ考えるよりも、感覚で動いて切り拓いていった方が早いんじゃないかなと。「行き当たりばったり」じゃないですけど(笑)。

ーー家入さんは、考える前に行動するタイプ?

家入:どちらかといえばそうかもしれないですね。一人っ子で引越しも多かったから、一人遊びがすごく得意で。いろんな空想をよくしていたし、1人で後先考えずに決めてしまって後悔することもよくありますし、割と「どうどう」といなされます。

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