米津玄師、家入レオに注目……最新のビルボード複合チャートをさやわかが読み解く 

 ビルボード・ジャパンによる週間シングルチャート、これはつまりCDなどの売り上げだけでなくラジオでのオンエア回数やYouTubeでの再生回数、Twitterでの言及数なども考慮されているのがポイントの複合チャートなわけですが、今週のチャートを見てみると17位のこぶしファクトリー以外はわりとCD等の販売数に即した順位付けになっているので、一瞬「なんだ結局は販売数の勝負なわけですか」と思いがちです。

 しかしよく見ると複合チャートの面白さというのは出ていまして、たとえばかれこれ7回目となるチャートインを果たしている3位の家入レオ「君がくれた夏」なんかは実に面白いわけです。今週はラジオオンエア8位、CD等セールス3位、YouTube回数8位など、いずれもぶっちぎりの順位ではないわけですが、各指標にてまんべんなく上位をキープしてると総合順位で3位になる。新譜でなくとも、そして世間一般が超絶熱烈に支持しまくってるように見えなくとも、こうやって全方位型の安定支持を獲得していれば自然と浮かんで見えてくる作品というのがあるんだなあと思わせてくれるわけであります。ちなみに楽曲としてはクラシカルピアノと派手なロック感増し目のミディアムテンポなドラムによって情感を奮い立たせる、いわゆるバラードと呼ばれるタイプのやつですが、切なさを盛り上げたうえで主題歌を担当したドラマ「恋仲」とは極めて無関係に堅調を維持することができた良作と言えるのではないでしょうか。

 さて初登場の楽曲では、やはり5位の米津玄師に注目したいところです。この曲も9月2日のリリースなのですが、徐々に頭角を現してこの順位になったというところなのでありましょうか。それにしても米津玄師がハチという名前でボカロPとして台頭し、再生回数が800万回超という「マトリョシカ」などで大きな注目を集めたというのも既に懐かしい話なわけですが、その後の米津玄師としての活動でも耳に心地いいポップさと楽曲的な玄人好み感は維持されていて、オールドスタイルなロック系メディア界隈とかからも「これなら我々も推せる」的な感じでやけに期待と支持を受けている彼なのであります。しかも今回の楽曲はギターレスのうえに打ち込みを主体にしていて、心地よいドライブ感がやはりこの人らしいセンスを感じさせます。しかもチャートとしてはCD等の売り上げが4位と思いのほか上位に食い込んでいまして、発売週でないにもかかわらずこのような成績を残せるというのはよいことなんじゃないでしょうか。

 しかし初登場曲以外が目立って見えるのは好ましい半面、初登場曲に元気さが欠けて見えるというのはしかたないことなのかもしれません。たとえば今週で言えば総合20位以内にチャートインした新曲は8位のAAA、10位の福山雅治、14位のCrystal Kay feat.安室奈美恵という3組だけでして、初物好きな日本人らしく新曲がガッツーンと売れるのがヨシとされる邦楽チャートに慣れた人には物足りなさがあるかもしれません。しかし言い換えればこれらの楽曲も次週、次次週あたりに本格的に上位を目指す存在へと成長していくかもしれず、新曲を一瞬で消費しきるのではなくじっくりと動向を見極める楽しさが味わえるのがこの手のチャートの面白さなのかなといったところです。こちらからは以上です。

■さやわか
ライター、物語評論家。『クイック・ジャパン』『ユリイカ』などで執筆。『朝日新聞』『ゲームラボ』などで連載中。単著に『僕たちのゲーム史』『AKB商法とは何だったのか』『一〇年代文化論』がある。Twitter

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