『ソラノネ』インタビュー
ZAQの変幻自在な楽曲制作術 TVアニメ『荒野のコトブキ飛行隊』OP&EDを語る
「ソラノネ」の元ネタは日曜日23時のテレビ朝日!?
——実際「ソラノネ」のサビはメロディ、アレンジとも「大きい」としか形容しようがないヌケ感、スケール感を讃えているとは思うんですけど、「大きい」って音楽用語では……。
ZAQ:ないですね(笑)。
——そのフワッとした非音楽用語を非音楽家であるアニメスタッフからもらっただけで、それを見事スコアに起こすZAQの腕よ、という感じもします。
ZAQ:ありがとうございます(笑)。ただ実はこのサビにはちょっとした元ネタがありまして……。
——元ネタ?
ZAQ:ちょうどこの曲の制作期間中のとある日曜日に『関ジャム 完全燃SHOW』(以下、『関ジャム』)を観てたんですよ。そうしたら番組の中でMrs. GREEN APPLEさんが「『ドレミファソラシド、ドシラソファミレド』っていうメロディラインは最高にキャッチーだ」って言っていて。確かにミセスさんの曲のサビのメロディラインには「ドレミファソラシド、ドシラソファミレド」っていうシンプルなスケール(音階)が使われがちだし、彼らの曲ってすごくキャッチーじゃないですか。
——しかもヒットしている。
ZAQ:なので参考にしない手はないな、と(笑)。
——あはははは(笑)。
ZAQ:で、実際に「ラシドレ、レドシラソファミレド」ってメロディを転がしてみたら、これがすごくキャッチーで(笑)。そこにうまくハマる泣きのコード進行も見つけられたので、そのままサビができあがった感じなんです。
——そしてMrs. GREEN APPLEの影響を受けまくったサビと(笑)、Aメロ、Bメロという3つの車輌をキメ2発でつなぐ、このアレンジってロジカルに組み上げていくものなんですか? それとも「こんな感じかな?」って感覚的に連結させていくのか?
ZAQ:けっこう感覚的ですね。例えば「カーストルーム」ってイントロは正調派のアシッドジャズテイストで、Aメロ、Bメロと展開していくうちにどんどんポップになっていって、サビはメチャクチャJ-POPになるっていう構成なんですけど、その車輌ごとの色が違いすぎるから、作っているとき「あれ? 私は結局なにがしたいんだ?」ってなっちゃって(笑)。
——それは確かに“感覚の人”の発言ですね(笑)。
ZAQ:とはいえ、ちゃんと「カーストルーム」という1本の電車に仕上がったとき、みんなも「いいじゃん、いいじゃん」って言ってくれたし、私も「確かにこれはZAQというジャンルというか、けっこう謎な展開なんだけど、ちゃんと解決ついているし、ポップミュージックとして成立している新しいものができた」って自信が持てるようになって。だから今回も「Aメロ、Bメロはこんな感じかなあ……」ってモヤモヤッとしながらも作り上げてしまえば、サビときちんとくっつくし、ZAQというジャンルになるっていう自信はありましたね。いろんなジャンルの音楽を取り込んでも、そのジャンルをリスペクトしつつも、ZAQの色に落とし込めるというか。最近はそういう曲の作り方ができるようになったんだろうな、とは思ってます。
——その「カーストルーム」以前の自信のなさにはちょっとビックリさせられました。ZAQさんは音大を出ていて、優秀な鍵盤弾きでもある。それだけに確信を持って音楽理論的に正しいメロディやアレンジをロジカルに組み上げるんだろうなって気がしていたので。
ZAQ:そう言われると、確かに勉強した上で培われた感覚で作ってるのかなあ。ポップミュージックって結局ドラムがあって、ベースがあって、ギターがあって、鍵盤があってっていう構成で作られるものであるという大前提があるじゃないですか。それをどういう弾き方をするかによってジャンルが分かれると思っているから、弾き方についてはいろいろなアーティストを勉強しつつ、自分なりに消化しているつもりですし、「ソラノネ」のBメロからサビへの転調みたいな響きの美しさを求められる展開って私にとって一番ピリつくポイントで、一番大事にしているところだったりしますし。
——調が移動するようなときこそ楽理的に正しい和声であることを求めるということ?
ZAQ:むしろ私が美しく感じるかどうかと、理論的な正しさのバランスを見ている感じですね。明らかに音がぶつかっているようなフレーズであっても、私がそれを美しいと感じたら、どうにかコード的に解決できないかを探ってみたりとか。コードを当てることで解決できるなら、それは美しいハーモニーという結論を出すことができるので。「大胆に音をぶつけてもそれを美しいと自分が感じることができて、ちょっと破天荒であってもコード的に解決できるなら、それは使えるハーモニー」って判断できるのは、間違いなくクラシックの勉強をしていたからですし。
——型を知らなければ型破りもできないという感じ?
ZAQ:まさにそういう感じです! その言葉使っていいですか?(笑)。
——なんならZAQさんが言ったことにしておきます?(笑)。
ZAQ:お願いします!(笑)。でも本当に型破りみたいで、私は鍵盤で曲を作るからか、ギタリストの方は「ZAQの曲、理解不能」って感じになっちゃうこともあって。「いや、このコードにそのメロディを当てる?」みたいなことをよく言われるんですよ。鍵盤弾きの方からは「ここにこのコードを当ててくるのは面白いねえ」って言ってもらえるんですけど、ほかの楽器の方からはビックリされることも多いですね。
——鍵盤、特にシンセならオクターブは事実上無限だけど、ギターやベースには出せる最高音と最低音の限界があるから驚くんでしょうね。
ZAQ:年末に別の曲のレコーディングをしていたんですけど、そのときにもギタリストの人に言われましたから。「この音、ギターだと出ないです」「チューニング変えますね」って(笑)。
——でも楽理はわかっているけど、鍵盤以外の楽器には実は明るくないことがZAQさんのキャラクターになっていますよね。音楽的に正しくて、しかも誰も聴いたことのない曲ができあがっているわけだから。
ZAQ:だから私、ホント不思議なんですよ。これは不遜な意味には取ってもらいたくないんですけど、私みたいに編曲もやる女の子ってなんで少ないんだろう? って。
——コードの勉強をしていて鍵盤が弾けてDAWができれば、メロディメイクもアレンジもできるはずだから、みんなもっとやればいいのに、と。
ZAQ:ギター弾き語りのシンガーソングライターはいっぱいいるのに……。
——DAWをやる女の子っていうと、エレクトロニカ系の宅録女子がフィーチャーされがちですしね。
ZAQ:私、時代遅れなのかな……。
——むしろそういう状況にあって、女性ボーカリストであり、しかもバンドスコアが書けるから、ZAQさんは唯一無二の存在なのかと。
ZAQ:仲間ほしいんだけどなあ……。女の子と一緒に「作曲・アレンジあるある」を話したい(笑)。
——なにをレイザーラモンRGみたいなことを(笑)。で、そのメロディメイクやアレンジは安産でした?
ZAQ:メロを作るのはホントに楽しかったです。それこそ『関ジャム』のMrs. GREEN APPLEさんの言葉に「なるほどー」って感心しながらサビのメロディを作って、Aメロ、Bメロに関してはバディ・リッチみたいなビックバンドジャズの巨匠たちの音源や、『バトルジャズ・ビッグバンド』っていう日本の現役プレイヤーの方々をフィーチャーしたCDシリーズをとにかくたくさん聴いて勉強させてもらって。特に『バトルジャズ・ビッグバンド』シリーズはCDのジャケットが全部飛行機の写真だったから「おーっ! この感じ、『コトブキ』っぽい(笑)」ってことでホントにめちゃくちゃ聴きまくって。なんかそういう流れで楽しく作れちゃいました。ワクワクしながらいろんな人をオマージュしつつも、ちゃんとZAQらしい曲になったなって。