村井邦彦が語る、LA交遊録と若き音楽家への伝言「西洋音楽をよく知る必要がある」

村井邦彦が語る、LA交遊録と若き音楽家への伝言「西洋音楽をよく知る必要がある」

「息子(ヒロ・ムライ)は子供の頃から絵が大好きだった」

ーー時代の移り変わりの中で、音楽業界も大きく変化してきました。村井さんが見てきた中で、もっとも大きな変化だと感じたことは?

村井:一番大きかったのは、誰でも録音ができる、誰でもタダで音楽が聴けるという、デジタル技術とインターネットによる革命だと思います。これによって、レコード会社のあり方も完全に変わってしまったし、音楽の聴き方もずいぶん変わったと思います。1990年代ぐらいまでかな、アメリカの音楽が全世界の指導的なポジションを取っていたけれど、どうも20世紀末から21世紀になってからは、みんな蛸壺に入っていったような気がするね。例えば日本の場合、僕らがアルファをやっていた70年代頃、洋楽と邦楽が半々くらいで聴かれていたけれど、今は9割方の人が邦楽しか聴かない状況です。日本なら日本の蛸壺、フランスならフランスの蛸壺、カントリーならカントリーの蛸壺という感じになってしまった。ずっと昔の話だけれど、1967年にビートルズが衛星中継で「All You Need Is Love」の公開レコーディングを全世界に流した時は、世界中の若い人がそれを観て熱狂していました。今はそういう感じがないですよね。

ーー村井さんご自身は、2000年代以降の日本のポップスを聴いていますか。

村井:きっと、いい人もいるんだろうけれど、なかなか接する機会がない。特にアメリカに住んでいると、観られるのはNHKの歌番組ぐらいですから。残念だけれど、ああいった番組に出ている人で良いなと思える人はいませんね。たぶん、僕が歳を取ったからなのでしょうけれど。日本の若い人にとっては、共感できるものがあるのかもしれない。アメリカではむしろ、K-POPがすごい人気で、ティーンエイジャーの若い女の子たちが熱狂していますね。この辺りの現象は、大和田俊之さんに聞くとわかるかもしれない。僕にはよくわかりません。

ーー現在はほとんどアメリカのロサンゼルスで生活しているとのこと。村井さんにとっては、向こうの方が快適ですか?

村井:間違いなく気候はLAのほうが快適です。だけど食べ物は日本が最高ですね。しかし両方に家を持っているとコストがかかりますからね。どちらかを選ぶとなったら、子供たちがいるし、音楽の仲間もいて、すっかり暮らしの体制が出来上がっているので、向こうを選ばざるを得ません。

ーーそんな村井さんから見て、現在の日本の社会はどのように映っていますか。

村井:日本は経済的に元気がないというけれど、例えば地下鉄に乗って人々を見ているとまず驚くのは、その身なりの良さだよね。みんな清潔で、正直そうに見える。LAの服装はもうめちゃくちゃ(笑)。ホームレスの人たちや、ちょっと危ないなと思う人がたくさんいる。そういう意味では日本はとても暮らしやすい国だと思います。急に銃を発砲されたりすることは、まずないですからね。僕が移住した90年代前半は、ロサンゼルス暴動の直後でしたから、今よりもさらに大変でした。最初、背広を着てネクタイを締めていたら、周りの友人から「それじゃあ旅行者に見える」と注意を受けたこともあります。

ーー昨今では、村井さんのように、LAで活躍する日本人が増えている印象です。特に村井さんのご子息である映画監督/映像作家のヒロ・ムライさんも、大変な活躍ですね。ヒロさんが手がけたチャイルディッシュ・ガンビーノの「This Is America」のMVは、昨今でもっとも話題になった作品の一つです。

村井:随分いろんな方が来て活躍していますね。作曲家のヒロイズムとか、B’zの松本孝弘さん、ソニーのプロデューサーだった高田さんという人もアメリカの出版社で頑張っています。LDHもなにかやろうとしていますね。息子は、最近は色々な脚本を読んで、自分が次に撮る映画を選んでいるみたい。来年は、『アトランタ』のシーズン3をやるんじゃないかな。それと、「This Is America」の次作となるMVも制作中みたいですよ。彼は9歳の頃にLAに来たんだけれど、子供の頃から絵が大好きで、ずっと描いていたから、いずれはこういう世界で活躍するんじゃないかと思っていました。黒澤明さんも絵が得意だったというしね。

ーーもともとそういう素養があって、お話を作る才能もあったということですね。村井さんと、例えば文化についての話などもされますか。

村井:話しますよ。僕が知っている日本の話だとか、歴史の話をすると、「ふーん」と言って聞いて、彼なりの解釈をしているようです。

ーーヒロ・ムライさん含めて、現在の20代〜30代の若いデジタル世代は、それ以前の世代とは異なる感覚を抱いているように思います。村井さんは若い世代をどのように見ていますか?

村井:20歳ぐらいの生徒と話をすると、ちゃんとコミュニケートできているのかなと疑問に思うことがあります(笑)。我々とは違う感覚を持っているように感じますね。うちの息子でも「最近の若い奴らは何を考えているのかわからない」というくらいで、彼が20歳前後だった15年前と今では、テクノロジーにも大きな差があるみたいです。

ーー村井さんが、若い世代の人に伝えたいことは。

村井:昔のことをよく勉強しなさい、歴史から学びなさい、ということですね。それは、僕が古垣鐵郎さんのような年上の方々から教わってきたことです。音楽でいえば、ヨーロッパが生み出した西洋音楽がどのように完成して、それがどのように破壊されてきたか。西洋音楽が民俗音楽を取り込む、あるいは民俗音楽が西洋音楽を取り込むことによって、今の混沌とした状況になっていることを理解することが大切なんです。これから先、音楽がどのように変化していくのかはわからないけれど、継承するにせよ、否定するにせよ、まずは今の音楽のもととなっている西洋音楽をよく知る必要があると思います。

(取材=神谷弘一)

『村井邦彦のLA日記』

■書誌情報
『村井邦彦のLA日記』
著者:村井邦彦
定価:2,376円(本体2,200円+税)

CONTENTS
第1章:2011年 広い空の下、フリーウェイはひしめく
第2章:2012年 偏西風が慈雨をもたらす
第3章:2013年 コロナ・ビールをラッパ飲み
第4章:2014~2015年 曲は歌って書け
第5章:2016年 We Believe in Music
第6章:2017年 過去に学ばずして創作はありえず
第7章:2018年 音は暗闇のなかから生まれ、暗闇に消えてゆく
番外編:この美しい星、アルファ

本書に登場する人々
アーメット・アーティガン(アトランティック・レコード創業者)、アル・シュミット(エンジニア)、エディ・バークレイ(バークレイ・レコード創業者)、クリスチャン・ジャコブ(ミュージシャン)、ジェリー・モス(A&Mレコード創業者)、ジョン・ウィリアムズ(作曲家)、トミー・リピューマ(音楽プロデューサー)、バート・バカラック(作曲家)、ホルヘ・カランドレリ(作編曲家)、ミシェル・ルグラン(作曲家)、ルー・アドラー(音楽プロデューサー)、レスター・シル(音楽プロデューサー)、朝妻一郎(フジパシフィックミュージック会長)、宇野亞喜良(イラストレーター)、川添浩史(キャンティ創業者)、坂本龍一(ミュージシャン)、高橋幸宏(ミュージシャン)、細野晴臣(ミュージシャン)、本城和治(音楽プロデューサー)、松任谷由実(ミュージシャン)、梁瀬次郎(ヤナセ社長)、山上路夫(作詞家)、渡邊美佐(渡辺プロダクショングループ代表)、ほか 

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