『メカクシティリロード』インタビュー
じんが明かす、すべての経験を生かした創作活動「嘘のない作品を出せたことが自信になった」
一連のMVや楽曲がひとつの物語を生み出し、謎が謎を呼ぶ展開が話題の『カゲロウプロジェクト』。ティーンの間で大人気となったシリーズ作品は、2011年2月に“じん”のデビュー曲「人造エネミー」が動画共有サイトへアップロードされたことからはじまった。
“じん”が自ら手がける、楽曲の世界観と連動した小説『カゲロウデイズ』(KCG文庫)も大ヒット。小説版は第8巻でフィナーレを迎えた一大絵巻となっており、現在までにシリーズ累計900万部を突破している。アニメ化や映画化もされた本作は、目に特殊能力を持ち、孤独と苦悩を抱えた少年少女たちの“ジュブナイル性”のようなものが描かれた物語だ。
音楽作品としては、1stアルバム『メカクシティデイズ』(2012年5月30日)、2ndアルバム『メカクシティレコーズ』(2013年5月29日)に続いて、約5年6カ月ぶりに待望の3rdアルバム『メカクシティリロード』を11月7日にリリースした、“じん”。同作には先行してMVが公開された「失想ワアド」をはじめ、 最新リード曲「アディショナルメモリー」など全9トラックを収録。同プロジェクトの音楽と物語を創造する、唯一無二のストーリーテラー“じん”に話を聞いた。(ふくりゅう / 音楽コンシェルジュ)
“自己”が色濃くなった気がする
――5年6カ月ぶりのアルバム『メカクシティリロード』。素晴らしい作品となりましたが、完成した感想は?
じん:この数年間いろいろなことがあって、もう創らなかったかもしれない作品なんです。いい方々と出会えたエネルギーによってようやく完成しました。ひとりじゃ作れなかったなぁと感じています。愛着もありますし。2ndアルバム『メカクシティレコーズ』はやり残した感があったんですが、『メカクシティリロード』に関しては全くやり残した感がないですね。
――曲作りはいつぐらいから?
じん:去年の年末に1曲創って、間にぽこぽこいろんなことがあったりして、合計2~3カ月くらいですかね。
――どんなイメージをもって楽曲制作に臨みましたか?
じん: 2曲目の「イマジナリーリロード」の歌詞で表しているんですけど、最近世の中にはお洒落な曲が多いなと思っていて。なので逆張りしようと、誤解を恐れずにいえば漫画雑誌『コロコロコミック』みたいな曲にしようと思って創りました。歌詞に〈空想を叫べ! 今!!〉ってあるんですけど、ああいう強い言葉というか。“熱くてどうなの?”って言われてしまうような歌詞を書きたかったんです。特に「イマジナリーリロード」は、自分のモラトリアムを表現した曲ですね。〈散々な今日が 終わって「大失敗だ」って 笑って〉というはじまりの歌詞で。それが、この5年間の自分に重なるんです。
――『カゲロウプロジェクト』には、“大切な人を救い出す”というテーマがあると思うのですが、本作は“大切な自分の思い”を救い出したようなアルバムになってますよね。その根源となっているのは怒りのパワーのように感じます。
じん:確かに自己が色濃くなった気がしますね。「失想ワアド」でも〈不思議なことに この世界は 「普通なこと」が 難しくて〉というような怒りの曲を書いています。小さな頃から僕はスポーツが全然できなくて、体育のときに走らされるのが地獄だったんです、まじで。生まれ持ってフィジカルがいいヤツは、笑いながら楽しそうに走っていきますけど。そんな“なんでこんな地獄みたいなことしなきゃいけないんだ”っていうことが、世の中にはたくさんあると思っていて。だから〈「普通なこと」が 難しくて〉と歌っています。あと、今回のアルバムで特に大きかったのは「ロストデイアワー」と「リマインドブルー」の2曲を創ったこと。「アディショナルメモリー」は一曲鋭いものを足そうという感覚で創ったんですけど、「リマインドブルー」は早い段階からあって。すでにある「サマータイムレコード」(『 メカクシティレコーズ』収録)という曲よりさらに深いところで実写的な、解像度のあがった夏を描いてみたくなったというか。そんな大人になった感が宿る「ロストデイアワー」と「リマインドブルー」の2曲は、けっこう自分のなかでペアリングしていますね。
――今回、レコーディングのメンバーは?
じん:ヒトリエのゆーまおさんや、白神真志朗さんに参加してもらってます。
――白神さんも最近ソロで曲を出してますよね。
じん:そうなんですよ、お洒落な曲で。“絶対に負けない、俺が倒す!”って思ってます(笑)。白神さんは『メカクシティリロード』を聴いて「ロストデイアワー」が良かったって言ってくれて。すごい良い人だなって思いました(笑)。4曲目の「マイファニーウィークエンド」の編曲は、尊敬するsasakure.UKさんにお願いして。念願ですね。ボーカロイドの曲を初めて真剣に聴いたのってsasakure.UKさんの「*ハロー、プラネット。」や「タイガーランペイジ」だったので。
――「マイファニーウィークエンド」はかなり自由度の高いアレンジです。
じん:後半は『MOTHER2 ギーグの逆襲』のようなイメージで。
――そんな話もされたんですか?
じん:展開として静かになったところから、テーマフレーズがめちゃくちゃいいメロディで鳴るみたいな。プログレっぽくもあり、ジャジーな流れで。メロディはELP(エマーソン・レイク・アンド・パーマー)っぽいっというか、初期プログレの空気。そういうところでもsasakure.UKさんとはシンパシーが近くて良かったなって。
――“じん”さんの音楽は何度も読みたくなる歌詞も特徴的ですけど、メロディやアレンジへのこだわりも強いですよね。何度聴いても新たな発見があって、毎回新鮮な気持ちで聴けます。
じん:軸はメロディだと思っています。僕にとっての“いいメロディの基準”はずっと心の中にあったんです。でも“これ”って言いきれなかったものが、今回具体的に揃ったなって。「ロストデイアワー」のサビとか、「忘れてしまった夏の終わりに」の和風な感じとか。「アディショナルメモリー」のBメロでサビが2段階になっていて〈友達なんかになりたくなかったな〉ってフレーズがあるんですけど、あそこのメロディはキャッチーですよね。
――「アディショナルメモリー」は重要キャラクター、アヤノが描かれている動画も含めてインパクトが強いです。
じん:そうですね。でも、なんか小難しい歌詞とかいらないんじゃないかなって。別に『カゲロウデイズ』を知らなくてもいいと思ってもらえる曲にしたいなって考えてました。それこそ、「アディショナルメモリー」を出した後に「『カゲロウデイズ』とか知らないけど、すごくいい」って言ってくれた人がけっこういて。「失想ワアド」も実はそうで。
――なるほど。ファンはファンで楽しめるけど、曲としても独り立ちできる感はありますね。レコーディングをしてみて、さらに良くなった曲はありましたか?
じん:8曲目「忘れてしまった夏の終わりに」ですね。サビのメロディは小学校5~6年生の頃に母ちゃんが車のなかで流していた音楽のようで。そういう郷愁を感じた曲です。あと「イマジナリーリロード」は何度もやり直しましたね。
――サビの展開が突き抜けていて、ギターも尖りまくっていてカッコいいです。
じん:28歳にして人生最高BPMとなりました。