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『Raw Scaramanga』インタビュー

世武裕子が語る、映画への思い入れと音楽活動の源泉「この感覚を記録したいという気持ちがある」

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 映画『リバーズ・エッジ』や『日日是好日』のサウンドトラックから、Mr.Children、西野カナ、森山直太朗らのライブサポートなど、多岐にわたる分野で活躍中のシンガーソングライター兼映画音楽作曲家の世武裕子が、ソロ名義でのニューアルバム『Raw Scaramanga』をリリースした。

 前作『L/GB』からおよそ2年ぶりとなる本作は、sébuhiroko名義でリリースした2015年のミニアルバム『WONDERLAND』から続く、ダークでプログレッシブ、それでいてダンサンブルなサウンドが特徴。女性宇宙飛行士のモノローグで幕を開け、新世代ジャズの旗手クリス・デイヴを迎えた超絶セルフカバー、美しいピアノ弾き語りまで様々な楽曲が並ぶ本作は、まるで一編の映画を観ているような気分にさせられる。

 今年でデビュー10周年を迎える世武裕子。常に「今、やりたいこと」と真摯に向き合い音にしてきた彼女にとって、本作は一つの到達点ともいえよう。(黒田隆憲)

楽曲は自分の「経過」を記録しているだけ

ーー元々本作は、「Raw Scaramanga」という名義で発表するつもりだったそうですね。Instagramに「@r__scara」というアカウントで謎めいたポストもされていました。

世武:色々飽きたんです(笑)。普通にアルバムを作って出して、レコ発やって、プロモーションして……みたいなルーティンも、どうなのかなと思っていた時でしたし。だったら自分も面白がれることをやりたいなという気持ちから、まずはインスタのアカウントを取ってみて。当初は、「世武裕子、終了」でもいいやと思っていたんです。sébuhirokoラストライブをやった後、「Raw Scaramanga」名義で活動するつもりでした。でも、そこから紆余曲折あって、やっぱり「世武裕子」名義でやっていくという形になりました。それでアルバム名として「Raw Scaramanga」を残すことにしました。

ーーここ数年は劇伴を「世武裕子」名義で、ご自身の作品を「sébuhiroko」名義で出すというふうにしていましたよね。

世武:そうだったんですが、色んなご縁でサポートをやったり、制作に関わらせてもらったり、自分の仕事が最初に想像していたのとは、すごく良い意味で違う展開になってきて。そうするともう、名義を変える必要もないかなと思うようになってきたタイミングでもあったんですよね。それはもちろん、10年やってきて分かったことではあるのですが。

ーーちなみに「Raw Scaramanga」の由来は?

世武:スカラマンガというのは、『007 黄金銃を持つ男』に出てくる悪役なんです。そのキャラクターと名前が好きで、いつか使いたいと思っていて。だったら、その名前を憑依させた自分の「記録音楽」にしようというのが今作のテーマでした。実は、今年で活動10年になるので「ベストアルバムでも出しますか」という話もあったんです。ただ、私が思うに楽曲というのは、自分の「経過」を記録しているだけであって、それを寄せ集めたものをベストアルバムと呼ぶのもよく分からないというか。もちろん、それは自分自身の活動スタイルにおいての話で、ベストアルバム自体を否定しているわけではないです。

ーー世武さんの活動にはフィットしないなと。

世武:結局のところ、自分は「記録音源」を作り続けている一人の人間であり、自分から吐き出されているものを作り続けるだけのことというか。そういう意味で、アニバーサリーであろうが自分らしい作品というか、自分が作りたい作品を思う存分作るに至りました。

ーー以前のインタビューで、世武さんは曲を作るときに誰かの楽曲からインスパイアされるというよりは、映画を観たときの「衝撃」を音に置き換えることが多いと話していました。『WONDERLAND』の時は、グザヴィエ・ドラン監督の『わたしはロランス』や、ニコラス・ウィンディング・レフン監督の『ドライヴ』の名前を挙げていましたが、今作では何かありましたか?

世武:レフンは未だに好きですね。むしろサントラだけで言えば『ネオン・デーモン』の方が、『ドライヴ』よりも好きです。あと今回、出来上がった音源の感想を色んな人から聞いて思うのは、やっぱり自分は80年代や90年代の洋画が好きで、それが自分の音楽体験としてもベースになっているんだなということでしたね。

ーー楽曲は、ピアノから作ることが多いのですか?

世武:いや、ピアノで作っているのは「スカート」や「Bradford」、「1/5000」のような、ピアノを大きくフィーチャーした曲だけです。後はシンセの音色に触発されたり、トラックから作り始めて最後にメロを乗せたりしています。ただ実際に曲を作る時は、一つ一つの行程があまり決まっていないというか、よく覚えていないです(笑)。

「テクニック」は単なる手段であって目的ではない

ーーちなみに、アルバムの中で最初にできたのはどの曲ですか?

世武:セルフカバーの「John Doe」を除くと、「Gardien」が最初でした。これは歌詞が私ではなくて、誰かに書いてもらおうと思って友人に「書いてみない?」って聞いたら「やってみる」と言ってくれて。送られてきた歌詞に対して曲をつけたという、自分にとっては珍しく詞先の曲です。面白かったですね。

ーーセルフカバーの「John Doe」と1曲目「Vega」はクリス・デイヴをフィーチャーしていますが、これはどんな経緯で実現したのでしょうか。

世武:元々私がクリス・デイヴを好きで、彼のライブを観に行ったりしていたんですけど、エンジニアの小森(雅仁)さんが彼と知り合いだったんですよ。それで彼に、「私、めっちゃファンなんだけど、デモとか聴いてもらって何かやってくれないかな」みたいなことを言ってたら、クリスから「いいよ」という返事をもらって、それでやれることになったんです。

ーー今回ドラマーはクリスと、世武さんの作品ではお馴染みの石若駿さんが参加しています。

世武:前作『L/ GB』あたりから私の中で、「生ドラムと打ち込みの共存」というのが裏テーマにあって。どの曲をクリスが叩いてくれて、どの曲を石若くんが叩いてくれたら一番いいか? ということをすごく考えましたね。石若くんには「アルバムではクリスも叩いてるから、本気で叩いてね」って言って(笑)。

ーー(笑)。2人のプレイスタイルの違いは?

世武:クリスは「歌モノなので、自分は最小限のことしかやらない」と言い張って。「オカズも入れたくないし、シンバルも打ちたくない」と。無駄なことはやりたくないタイプ。彼のライブを観ると、「すごく手数が多くてうるさい人」というイメージがあると思うんですけど、歌モノのレコーディングでは「シンプルに叩きたい」と頑なに言っていましたね。確かに、ミニマルな格好良さがありますよね。石若くんは、若さもあり、まあ叩く叩く(笑)。でも、カッコよきゃなんでもいいわけです。全く違うタイプですけど、どちらも好きですね。

ーー以前のインタビューで世武さんは、「シンプルに上手い人が好き」とも言っていましたよね。

世武:そんなこと言ってたんだ(笑)。でも本当にそうですね。私の活動はいわゆるバンドではないので、ストーリーとはちょっと違うところで表現しないといけない。バンドっていうのは、結成してからの物語があって、一人一人の演奏力が云々というよりも、「このメンバーでやっていることの意味」というのがしっかりあると思うんです。でもソロアーティストが誰かをゲストを呼んだ時に、「エモさ」だけでは持っていけないんですよね。私自身、かなり細かく作り込んでいるから、それに対して限られた時間の中で、すぐに対応してもらえないと作れないし。

ーーなるほど。

世武:それに、「テクニック」は単なる手段であって目的ではないんです。テクニックって、それが「無い」時に初めて気付くものじゃないですか。「この人、全然弾けていないな」って。弾けていて当然なんですよ。私はよく「テクニック重視のアーティスト」みたいに言われるんですけど、実はそこには興味が全くなくて。興味があるのはセンスと曲。そのための技術。道具です。ただ、以前YouTubeで「熊蜂の飛行」をめちゃめちゃ速いスピードで弾く女性の映像を見たときは、流石に「この人、すご!!」ってなりましたけど(笑)。

ーークリス・デイヴは新世代ジャズの最重要人物とされていますが、彼をフィーチャーすることで世武さんの音楽に、そういった要素を取り入れようという意図はありましたか?

世武:いや、全くないです(笑)。単純に、ジャズ畑の方が上手い人が多いかもしれないですけど。私自身、例えば「最先端の音楽を取り入れよう」とか、「何か新しい音楽を作ろう」ということは全く考えていなくて。好きな曲があったら何百回も何千回も繰り返し聴くタイプなので、そこから先に進まないくらいです(笑)。新しい音楽を追っている時間がないというか。

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