Aoi Mizunoが語る、“クラシカルDJ”の存在意義 「スピーカーでクラシックを聴く文化を広めたい」

Aoi Mizunoが語る、クラシックDJの可能性

指揮者は究極のアナログエンジニア

ーー楽曲をどのように解釈して演奏するのかは、クラシックの世界でも重要な評価軸の一つですし、DJにとっても大事な部分です。話を聴いていて、クラシックの指揮をすることと、DJプレイの共通点が浮かび上がってきたように感じました。

Aoi Mizuno:僕自身はDJカルチャーにはそれほど精通していないのですが、クラシックと向き合うにあたって作曲家や楽曲そのものに対するリスペクトを持つことは重視していて、だからこそ自分なりの解釈をするにしても、原曲の良さや持ち味は最大限に活かそうと努めています。そこはクラブDJとも共通するところかもしれません。そもそも、DJミックスは自分ひとりの表現ではなく、様々な先人たちの功績があってこそできるものなので、たくさんの楽譜を徹底的に読み込んで、今はなき作曲家たちにも胸を張って聴かせられるものを作ろうとは意識しました。ただ、自己流でやってきた表現なので、クラブDJとして活躍されている方が聴いたらどんな感想を持つのかは、気になるところです。

ーー楽曲の背景を踏まえて選曲し、独自のストーリーを紡いでいくのは、ダンスミュージックにおいても多くのDJが目指しているところです。加えて、ハーモニーやコードで繋ぐというのは斬新かつオリジナリティがあるプレイなので、DJなら誰でも興味を持つのではないでしょうか。逆に、クラシック界の方からの評判はどうですか?

Aoi Mizuno:それが意外とポジティブな感想をいただいています。正直、叩かれるんじゃないかと心配していたのですが、ちゃんと楽曲の背景を理解して、自分なりの解釈を加えているという点を評価していただくことが多いです。クラシックをよく知る音大の仲間からは、「まさかあの曲とあの曲が繋がるとは」みたいなことも言っていただきました。また、クラシックを普段聴かない方からは「ミックスされているのがわからないくらい、自然な一曲に聴こえた」という感想をいただくこともあり、それは一番嬉しい言葉です。この作品でクラシックに興味を持っていただいて、「じゃあ原曲はどういう展開なのだろう」と聴いていただけたら本望です。そうすれば、クラシック界にも貢献できるし、僕がやっている表現に社会的な意味も生まれるのかなと。

ーーリスナーに対して、原曲やそのジャンル自体に興味を抱いてもらおうとする姿勢も、DJと共通していますね。ほかに、指揮者とDJの共通点はありますか?

Aoi Mizuno:指揮者は簡単にいうと、その楽曲に対するプロデューサーであり、究極のアナログエンジニアでもあると思うんです。PA卓を操作する代わりに指揮棒を振っているような感じで、それで直接「バイオリンの人、もう少し抑えて」とか、「フルートの人、もう少し出して」とか、プレイヤーとコミュニケーションを取って楽曲のバランスを整えていく。また、プレイヤーそれぞれに独自の表現があるので、楽曲に合わせてそれを引き出していくわけです。そこには人と一緒に音楽を作る楽しみがありますし、単純に指揮棒を振るタイミングによって音が出る気持ち良さもあります。DJプレイの場合は、一人でやっていることの寂しさはありますけれど、基本的にやっていることは同じだと思います。楽曲を繋ぐ楽しさは、DJならではの音楽的な魅力ですね。

いつか『フジロック』で爆音クラシックを

ーー現在もザルツブルクの音大に在学中とのことですが、海外で音楽を学んで、最も驚いたことは?

Aoi Mizuno:ザルツブルクはクラシックの本場なので、やはりカルチャー面において受ける刺激は大きいです。人口15万人の小さな街で、一番大きいコンサートホールで2000人ほどが収容できるのですが、そこで土曜日の午前中とかにオーケストラのコンサートをやると満席になるんです。普通、その規模の街で2000人の会場が満席になるなんてまずないことで、しかも午前10時開演にも関わらず、幅広い層のお客さんが訪れています。クラシックのリスナーに高齢の方が多くなっているのは世界共通なのですが、家族連れや若者の姿も見られるのが他の地域との違いで、大衆の文化としてクラシックが根付いていることが伺えます。いかにして若者をクラシックの世界に誘うかということに対しても極めて意識的で、格安の学生席があるのはもちろんのこと、ウィーンの国立歌劇場では、観光客でも500円くらいでオペラを観劇できる立ち見席があります。もしも来日公演をしたら5万円くらいはするオペラが、その価格で楽しめるんです。そういうイベントは、フライヤーのデザインもすごくオシャレだし、インスタグラムなどによるインターネットマーケティングもしっかりとやっていて、すごく意識が高いなと感じました。

ーー言語の違いも刺激になりそうですね。

Aoi Mizuno:ドイツ語を学んだことで、ドイツ音楽への理解が深まったのは、留学で一番の収穫かもしれません。音楽はその地域の言語に大きな影響を受けるもので、例えば日本語だと抑揚があまりなく、二拍子のリズムが基礎にあるので、平坦な音楽になりがちです。一方で英語だともっとリズミカルで、パーカッシブな音楽が生まれやすい。ドイツ語もまた、発音、リズム感、文法などがその音楽にも影響を与えているはずで、ドイツ語を身につけてからは、クラシックの楽曲の構造やフレーズの取り方、グルーヴ感がとても自然なものだと感じるようになりました。現地でドイツ語を使って生活をしてみなければわからなかった感覚は色々とありますね。

ーー言語と音楽の関係性については、これまで多くの研究がありますが、それを体験として享受するのはすごく勉強になりそうです。今後、日本でクラシックDJは続けていくのでしょうか?

Aoi Mizuno:そうですね、クラシックの愛好者を増やしていく上で、今の活動はすごく有効だと感じているので、クラシック畑以外の日本のイベントにも積極的に出演していきたいです。これは目標というより夢なのですが、『フジロックフェスティバル』のような感度の高い音楽ファンが集うフェスにはぜひ出演してみたいです。クラシックは敷居が高く感じるかもしれないけれど、時代を超えて演奏され続けている極めて洗練された楽曲の数々は、本当に音楽が好きな人なら絶対に楽しめるはず。開放的な空間で爆音で流すことができたら、きっと最高だと思います。

(取材・文=松田広宣/写真=林 直幸)

Aoi Mizuno『Millennials -We Will Classic You-』

■リリース情報
『Millennials -We Will Classic You-』
発売中
価格:¥2,700
〈収録曲〉
1:ノット・ソー・ロング・タイム・アゴー
2:ザ・レイテスト・ロマンティックス
3:レザレクション…?
4:ダンス・パーティ・イン・ザ・ヘル
5:フォーギヴネス
6:メロディ・ウィズ・ユア・ディーエヌエー
7:リーチ・アウト・トゥ・ユニヴァース

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