NMB48は山本彩の卒業をどう乗り越える? 夏ツアーと『TIF』に見た“明るい未来”

 アンコールは太田がセンターを務めた「虹の作り方」でスタート。落ちサビの〈僕が最後に見た虹は〜〉という部分を歌い上げた山本が、一瞬直立不動のように見えた。ラストのサビではメンバーが全員集合し、その後に山本彩が口を開いた。

「私、山本彩はNMB48を卒業します。今年の10月で8年、密度の濃い時間を過ごさせていただいて。その間に何度も卒業という文字に向き合って悩んできました。(しばし沈黙)考えては取り消してを繰り返し、できることがあるんじゃないかなとか、みんなと一緒に頑張りたいなとか、思いもしながら今日までがむしゃらにやってきました」

 発表の序盤を聞いただけでも、山本自身がグループを卒業することにかなりの躊躇いがあったことは伝わってくる。しかし、その後の発言に、筆者はグループの未来を見た。

「でも、ここ数年は新しくセンターになる子が出てきたり、私がいない環境で一人ひとりが輝いてライブをしたりと頑張ってる姿を一歩引いたとこで見てると、私がここで離れることが、NMBのいい起爆剤になるんじゃないかなと思うようになってきました。頼もしい若い子に引っ張っていってほしいし、新しいNMBを作ってほしい。自分もまだ弱くて未熟だけど、踏みとどまっては決心しにくくなると思ったし、挑戦することが豊かな人生を作ると思った。アイドルは卒業するけど、私はまだ終わってないし、現役を続けます。もっと音楽を勉強して皆さんの前で歌いつづけたい。卒業まではアイドルとしての自分を応援してください!」

 この発表を静かに受け入れていた吉田朱里を含む1期生・2期生ら初期メンバーも、泣き崩れていた太田とそれを慰める渋谷ら3・4期生ら中堅メンバーも、まだ自分ごとのようには受け取れないであろう5期・ドラフト3期メンバーも、それぞれに抱えた思いはあっただろう。

 吉田がそれを代弁するように「自分のやりたいこともあったはずなのに、ここまで時間と愛を捧げてくれてありがとうございます。まだ実感もわかないし、さや姉のいるNMBが当たり前になって一生懸命走ってきたから、実感がわかないけど、卒業までの間にこの小さな背中でたくさんのことを教えてくれると思う。だから『もう大丈夫』と思ってもらえるようにしよう」とファンとメンバーへ言い聞かせる。山本がこのためにメンバーを呼んだことについても「みんなに聞いてほしいと思って呼びました。でも、しんみりした曲で終わるのはNMBらしくない。みんな、楽しんでくれますか?」と叫び、「青春のラップタイム」へ。

 最後、メンバーが去った後は、山本が「一回り小さい子がいる中で言うのもなんですが、25歳、人生まだまだ。皆さんがいてくれなければ見れない景色、感じられないものもあると思いますし、これからも子供たちをよろしくお願いします!」と叫び、この日の公演は終了した。ツアーでは19歳以下メンバー限定の公演もあり、先日のサマステこと(『テレビ朝日・六本木ヒルズ 夏祭り SUMMER STATION』)と『TOKYO IDOL FESTIVAL』には、若手メンバー中心のカトレア組も出演した。

 筆者は『TIF』でカトレア組のパフォーマンスを目撃したが、3日間で出ていた48グループのなかでも、セットリストとパフォーマンスのコンセプトは突出していたように思えるし、山本彩加の「これからは少しでもカトレア組がNMBを引っ張れるように頑張ります!」という言葉にも夢物語ではない力強さを感じた。報道やファンの間では“山本彩の後継者”が誰か、という議論になりがちだが、筆者はそこを無理に定めなくてもいいのではないか、と考える。グループ全体が“山本彩イズム”を継承しながら、別の色に塗り替えていく。この日のパフォーマンスは、そんなNMB48の明るい未来を予感させた。

(取材・文=中村拓海/画像提供=(C)NMB48)

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