Fischer's、歩乃華、みやかわくん、スカイピース……YouTuberの歌手デビュー、なぜ相次ぐ?

YouTubeと音楽業界、現在の相関関係

 上記4組はどれも「音楽」に特化した動画投稿ではなく、自分の身近にある面白さを発信することから、YouTuberとしてのキャリアをスタートさせている。個人的に楽しいと感じたことを誰かに共有したい気持ちと行動力が彼らを発信者側に立たせたわけだが、もちろん気持ちだけでは大勢の心はつかめない。それに加え、投稿を重ねていく中で企画内容や動画編集の工夫といった部分も磨きつつ、さらに音楽を見せ方の一手段として取り入れたことが、今の膨大なチャンネル登録者数に繋がっている。

 世の中で流行する作品には「共感」性がつきものだ。音楽やYouTuberが発信する作品はその比重が大きく、特にYouTuberは共感性を生みやすい発信者の立場にいると感じる。というのも、今やYouTuberは「子供が将来なりたいランキング」で上位にランクインするほど若い世代にとって憧れの職業だ。タレントなら容姿が優れていたり、アーティストなら元から歌の才能があったりと、何か人よりも優れた能力が必要だという前提にとらわれることなく、動画投稿の技術さえ学べば誰もがYouTuberとしてのキャリアをスタートさせることができる。「自分にもできるかも」「やってみたい」というのもまた一種の共感の種なのだ。

 そして彼らの主戦場であるYouTubeは、今の音楽業界にとって大切な宣伝の場となっている。音楽を知る主要手段がラジオや音楽番組、雑誌だった時代を経て、インターネットや配信サイトが中心となっている現在、レコード会社はYouTubeの公式チャンネルを持ち、アーティストが作品をリリースする際にはYouTubeにMVがアップされる。楽曲が話題になれば再生回数が増えるし、再生回数が増えれば楽曲も話題になるというYouTubeと音楽業界の相関関係が成り立っている中、すでに高い共感性を獲得している、言い換えれば多くの視聴者やチャンネル登録者を抱えている音楽系YouTuberに、レコード会社からデビューの話が行くのは時代的に必然の流れである。

 そう考えると、多くの共感性を生むプロデュース力や企画力を備えたYouTuberがメジャーデビューすることには、CDが売れないと言われているこの音楽不況時代に新しいアプローチ方法で風を吹かせる可能性と期待が込められているのかもしれない。

■渡邉満理奈
1991年生まれ。rockin’on.com、Real SoundなどのWEB媒体を中心にコラム/レビュー/ライブレポートを執筆。趣味は読書でビートたけし好き。

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