ニューシングル『大丈夫』インタビュー
花澤香菜が語る、“挑戦”から得た音楽の可能性「大好きな曲にもっといろんな見せ方があった」
花澤香菜がニューシングル『大丈夫』を7月25日にリリースした。
槇原敬之が作詞作曲、佐橋佳幸がサウンドプロデュースを担当したこの曲は、自身も声優出演するテレビアニメ『レイトン ミステリー探偵社 ~カトリーのナゾトキファイル~』(フジテレビ系)のエンディングテーマだ。
シングルには表題曲の他に、花澤香菜が作詞、佐橋佳幸が作曲を手がけたカップリング曲「夏のしおり」、そしてアレンジと歌の異なる「大丈夫(Neo Country Ver.)」を収録。アートディレクションとミュージックビデオの監督は千原徹也(れもんらいふ)がつとめ、ダンスの振り付けはラッキィ池田が手掛けている。
今年4月から7月にかけて演劇ユニット・地球ゴージャスのプロデュース公演『ZEROTOPIA(ゼロトピア)』に出演するなど、多忙な日々を過ごす彼女。そんな中で見えてきた新たな音楽の可能性について、語ってもらった。(柴那典)
やっぱり“槇原さん成分”は残したくなっちゃう
ーー今回の新曲「大丈夫」は槇原敬之さんが作詞作曲を手掛けた曲ですが、花澤さんは最初に楽曲を聞いて、どんな印象でしたか?
花澤香菜(以下、花澤):私、学生時代から母の車の中でずっと槇原さんの曲を聴いていたんです。「もう恋(もう恋なんてしない)」とか「どんなときも」とか、よく聴いていて。母が槇原さんのことを大好きなんですね。だから、曲が来たときに「槇原さんだ!」って思いました。デモテープは槇原さんの声とアコースティックギターでしっとりと歌われていたので、そのまま槇原さんの曲になっても全然違和感のないものを作ってくださったんだなあと思いました。
ーー「もう恋なんてしない」は2月のコンサートでもカバーされてましたよね。あのコンサートは振り返ってどうでしたか?
花澤:あのコンサートは、今になって振り返っても、あの一回で終わっちゃうのが本当に寂しいくらいすごい素敵な時間だったなって思いますね。佐橋さん以外のメンバーは初めてお会いする方ばかりだったんですけど、今までの私の大好きな楽曲たちを、佐橋さんのアレンジでまた全然違うメンバーでやるっていうのが本当に新鮮で。しかもそれが良いんですよ! だから、すごく刺激的だったなと思います。それで、実は槇原さんが「大丈夫」を作ってくださることはその時には決定してたんです。なので、「もう恋」は、ちょっと予告的に言えないけど、楽しみすぎて歌いたいよね、みたいな(笑)。佐橋さんが音源のときにギターを弾かれているので、その繋がりで「じゃあ歌おうか」って。
ーー「もう恋」も、この「大丈夫」もそうですけど、槇原さんの楽曲には「槇原節」と言うか、メロディと言葉にすごく記名性がありますよね。
花澤:そうですね。誰が歌っても槇原さんになりますよね。
ーー歌ってみて発見はありました?
花澤:佐橋さんと二人でどう歌おうかを話していたんですけれど、「やっぱり槇原さん成分って残したくなっちゃうよね」ってなって。Bメロの〈気づくたびに〉でコブシを入れる感じとか、そこをちゃんとやろうという風に決めていきました。
ーー歌い方も槇原さんに寄せていった、と。
花澤:というよりも「そうなっちゃうよね」という感じでした(笑)。
ーーシングルには表題曲のバージョンと「Neo Country Ver.」というバージョンのふたつがありますが、これはどういう風に作っていったんでしょうか?
花澤:槇原さんが送られてきたデモがまさに「Neo Country Ver.」みたいな感じだったですよね。このバージョンが本当に良くって。ただ、この曲はアニメのエンディングテーマで、私が演じてるカトリー(カトリーエイル・レイトン)が事件を解決して、決め台詞を言った後に流れるものなので、元気で明るい方がいいんじゃないかっていうことで佐橋さんが編曲してくださったんです。
ーー表題曲のバージョンと「Neo Country Ver.」で、花澤さん自身の歌い方のニュアンスも違いますよね。これはどういう風に歌っていったんでしょう?
花澤:まず「大丈夫」を最初に録ったんです。エンディングのアニメーションを作るためにだいぶ早い段階でお渡ししなくちゃいけなくて。メッセージ性がある曲なので、しっとり歌おうと思えばできるし、そっちに寄っちゃいがちだったんですけど、でもアレンジもああいう風になってるし、アニメの中のカトリーがすごく元気で毎日を楽しく生きてるのが持ち味だったりするので、そっちの元気な方向に佐橋さんが持っていってくださったんです。あとは細かく「ここは槇原成分を入れて」とか「ここはもうちょっと元気に」とか、語尾の長さもブレスの位置も細かく佐橋さんがディレクションしてくださって出来上がったんですね。
ーーなるほど。そのあとに「Neo Country Ver.」を録ったんでしょうか?
花澤:そうですね。その後、だいぶ時間があいてから「Neo Country Ver.」を録ったんです。その間に舞台(地球ゴージャスプロデュース公演Vol.15『ZEROTOPIA』)があったせいか、レコーディングの時に「香菜ちゃん、ちょっと声の出方が変わってる」って言われて。単純に声量が大きくなったみたいなんです。毎日のように人前でお芝居して歌うことをしてきたせいか、わりとスラスラ歌えるようになったというか。そういうのもちょっと混ざってるんじゃないかなと思います。
ーーよく聴くと、例えばAメロの〈自分が恥ずかしいな〉のところとか、いろんなところで吐息の使い方とかアクセントの付け方がかなり違いますよね。それぞれのバージョンがあることで、この「大丈夫」という曲の解釈というか捉え方も、2通り生まれるようなところがあって。
花澤:そうですね。
ーーこれは結果的にそうなった感じですか?
花澤:結果的にもそうですけれど、やっぱり同じ歌じゃつまらないというのもありました。「大丈夫」に関して言うと、子供たちが聴いてくれるということが頭のなかにあったので、サビはみんなに向けて歌っているような感覚だったんです。でも「Neo Country Ver.」は自由にひとりで今の気持ちを歌っている。ちょっと肩の力の抜けた感じで歌えていたので、そういう違いもあると思います。
ーー槇原さんはアニメの話ありきでこの曲を書き下ろされたんですよね?
花澤:そうです。シナリオも全部見て作ってくださいました。
ーーアニメの世界観とか使われ方も意識されたということだったと思うんですけど、花澤さんは「大丈夫」とアニメの物語にどんなリンクがあると感じました?
花澤:〈霧〉とか〈石畳〉とかの言葉があるくらいなんですけど、舞台がロンドンなので、ロンドンの街を身近に感じるというか、この街が自分の街なんだなって自然に思えちゃうような感じになっていると思います。あと、カトリーは失踪したお父さんを自分で探しながら、面白い謎を解決して、毎日前向きに自分らしく元気に生きている女の子で。でもきっとベースにはお父さんはどうなってるのかなという不安もあると思うんですよね。そういう彼女の心情みたいなものを繊細に拾ってくださったと思います。
ーーそういうアニメの世界観を踏まえて表題曲のほうは歌っていった。
花澤:そうですね。自分の中にある不安みたいなものをちょっと心に秘めながら歌っているような、明るく歌いながらも自分に言い聞かせているような、そんな感じなのかなと思って歌いました。
ーーそのあとに舞台の経験を経て、声量が大きくなったということでしたが。
花澤:不思議と「大丈夫」という曲が染み付いてたんですね。すらすらと自分の言葉のように歌えたんです。だから、私自身が、ちょっと大丈夫になったかもしれないです(笑)。
ーーこれまで声優はずっとやられてきたわけですけれど、舞台に立つというのはどんな刺激があったんでしょうか。
花澤:舞台はいろんな人との共同作業で、一人が間違えるとそれが大きな事故につながる繊細でシビアな世界なんですね。歌も踊りも殺陣もある内容だったので、自分が本当にしっかりしてないといけないっていうのもありました。西川貴教さんとか柚希礼音さんとか、その道を極めている人たちと一緒にお芝居をやるというのもプレッシャーがありました。私は声優というジャンルからきているわけだから、ちゃんと声を武器にしないといけないし、でもそれ以外もちゃんとできなきゃいけない。その中でいろんな人に刺激をもらったし、その分自信もなくすし。あとは、毎日同じ劇場に立つ中で、いろいろ試行錯誤してなんとなく自分の心と身体をいいポジションに持っていくことができるようになったんですよ。それができたのがすごく自分の中で大きかったです。
ーー同じ「演じる」というところでも違いはありましたか?
花澤:声のお芝居をしているときって、もちろん見ていてくれる人のことは意識して、このお芝居がどういう風に伝わればいいかを考えてやるんですけど、でもちょっと委ねてるところもあって。子供向けの場合はわかりやすくしたり、大人向けの場合は繊細に組み立てたり、いろんな方法があるんです。でも、舞台は小さい子からお年寄りまでいろんな人が見ていて、一番後ろの人までちゃんと自分が何を考えているかが伝わらなきゃいけない。そういう筋肉が鍛えられた感じがします。だから、本当にいろいろ刺激になったんですね。声優の仕事にフィードバックしている部分もあるし、「大丈夫」を歌う上でも、もっと堂々とできるようになったなって思います。
ーー不思議ですね。そのお話を聞くと、「大丈夫」の歌詞が、今年に入ってからの花澤さんのテーマソングのような意味合いにも聞こえてきます。
花澤:そういう感じがします。面白いですよね(笑)。