宇多田ヒカルが抱える“孤独”と“祈り” 「初恋」披露した『SONGS』から感じたこと

 宇多田は宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』から〈なにがしあわせかわからないです〉という言葉を引用し、今苦しんでいる状況も先を見つめれば幸せに向かっているかもしれないから、今は今だけで判断できない、という考えを持っていることを明かしていたが、これもある種の“祈り”だろう。彼女が持つ“孤独”から生まれる“祈り”の要素は、楽曲に差す一筋の光でもあり、それこそがいつどんな時代でも彼女の歌が多くの人々から必要とされ続ける最大の理由なのかもしれない。

 番組後半では、最新曲「初恋」について語られた。宇多田にとっての“初恋”とは「初めて人間として深く関係を持った相手」という意味を持ち、彼女の“初恋”の対象は両親なのだという。そんなトークを経て、スタジオで披露された「初恋」は、その歌詞の意味がぐんぐん体中に染み渡ってくるようだった。真っ白なワンピースを身に纏い、大切なものを救い上げるように歌唱する姿から伝わってきたものは、〈誰か〉に出会うことでまた世界が違って見えること、そしてそれは“初恋”を経てきたからこその変化なのだということ。彼女は今まさに何かの喪失と共に、新しい季節を迎えた真っ只中にいるのだろう。「初恋」と題されたこの曲は、孤独と表裏一体で存在し続けた“祈り”が、また一つの光の先に辿り着いたことを告げているようだと感じた。宇多田ヒカルが今どれほど良い状態で歌を届けてくれているのか、その絶好調ぶりが伝わってきて思わず嬉しくなってしまう放送内容だった。

■渡邉満理奈
1991年生まれ。rockin’on.comなどのWEB媒体を中心にコラム/レビュー/ライブレポートを執筆。趣味は読書でビートたけし好き。

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