キーパーソンが語る「音楽ビジネスのこれから」 第10回
『SCHOOL OF LOCK!』はなぜ“記憶本”を作るのか? 番組のキーマン・森田太氏に聞く
「僕らは何百年後の未来に“鍵”を託すために放送している」
ーーそうして『SCHOOL OF LOCK!』や『未確認フェスティバル』などで、日々10代のアーティストやリスナーと触れ合っているわけですが、そのなかで森田さんから見た今の“10代”というのはどのように映っているのでしょうか。森田:まず表層的なところだと「Tik Tok」などにも顕著ですが、自分たちの顔をネット上へ出すことになんの抵抗もない。しかも出したことで危険に晒されるようなこともそこまでないわけで、彼らのなかでニューモラルが完全にできあがっていると思います。裏アカ等含めて「遊び場」がたくさん増えた感覚というか。そのぶん、インターネット疲れ・SNS疲れという新しい症状も生まれてきたわけですが、別にそこに対して多大に悲観的になるわけではなく、ある程度耐性もできているようにも見えます。よく「ネットネイティブ」なんて言葉が使われますが、僕にとってそれは「インターネットに詳しい」とか「検索の仕方が上手」ということではなくて、「インターネットに対するあらゆる耐性を持っている」というステータスなんですよ。耐性というか抗体というか。
ーーそんなネットネイティブな世代になったにも関わらず、10代のリスナーが番組を聴き続けてくれているのはなぜだと思いますか?
森田:例えばコンサートに足を運びたいとか、我々のような不器用な音と言葉のメディアに耳を傾けて聴いてみたいと思ってくれたりするというのは、時代的な感覚の揺り戻しのような気がします。『未確認フェスティバル』に応募してくれる10代の子たちと毎年触れ合ってると、10年前とそこまで変わっていないんです。すごく不器用で、生きることに対して少し悩んでいる子たちばかりで。だから、音楽で何かを表現したくなるんだなと思うんですが、その日常に対するモヤモヤみたいなものは、どんなに世代を取り巻く環境が変わっても、共通しているんでしょうね。
ーークラスの端っこ的な感覚というか。
森田:そうですね。『SCHOOL OF LOCK!』や『未確認フェスティバル』が接している子たちの特徴って、とりわけクラスで言うと、一番後ろにいるイケてるチームでもなく一番前にいるガリ勉でもなく、ちょうど真ん中の窓際あたりでヘッドフォンをして、窓の外をボーっと見てるようなタイプかなと想像してます。
ーー番組では近年、著作権に対する授業や、山口一郎(サカナクション)さんが音楽業界で働くスタッフの仕事内容を紹介するなど、音楽のことをもう少し深く知る機会をより設けるようになった気がします。
森田:まあ、基本的には“学校”なので、授業の一環として大事だと思っているから伝える、というのはどのジャンルにおいても変わらないです。ただゲラゲラ笑って終わるよりは、その中に1つや2つくらいは学びがあった方が良いですよね。「みんなが聴いてる音楽は、こういう権利で守られてるよ」っていうことを知っていくのは、アーティストのインタビューを読んで「この曲は、こういう思いで作られたんだ」ということを知るのと同じくらい大事だとも思うので。かといって、あまり啓蒙主義には陥る気もないので、そこはうまくバランスを取ってやっていきたいですね。山口一郎君がやってくれてる企画は、まさに、僕らのそういう思想を体現してくれていると思います。
ーーあのような内容を10代向けにお話しするのって、かなり勇気のいることだと思うんです。
森田:それを言われると、『SCHOOL OF LOCK!』という番組を放送すること自体、かなり勇気のいることだと思いますよ。詳細は省きますが(笑)。自分たちが生きてる時代だけ得しようとするなら、もっと違う内容を放送してるかもしれません。聴取率が無条件で取れるような。まあ、でも僕らは何百年後の未来に「鍵」を託すために放送していて、番組の存在に気づいてくれたリスナーの子たちが社会に出て、今回の『DAYS4』のように背中を押してくれるわけですから、やっていて良かったとここにきて改めて感じさせてもらっています。それに、アイドルやアニソンのシーンにも、この番組を聴いて育ってくれて、出たいと思ってくれる、橋本奈々未さん(元乃木坂46)、LiSAさんみたいな人がいるわけで。シーンやジャンルを飛び越えて番組を愛してくれる人が次々に出てきてくれているので、僕らもその期待に応え続けないとな、と思います。
ーーちなみに、森田さんは現在、『SCHOOL OF LOCK!』にはどのような関わり方をしているのでしょうか?
森田:今は、放送局全部の番組の責任者という立場ですので、SOLだけに関して言えば、高校サッカーでいうところの“総監督”ですね。現場の監督もコーチもいるなかで、少し離れたところから「いいぞー!」とか「そこでシュートだ!」みたいなことを言ってるような(笑)。
ーー「舵取りをする人」でもなく、「舵を取っている人に指南する人」のような?
森田:「舵を取っている監督の耳元で囁いてる人」ですかね(笑)。
ーーなるほど(笑)。ラジオはアプリとの連携がより密になるなど、より多くの人が聴ける環境へと開かれていっている印象があります。実際、その実感はありますか?
森田:実際の大きな聴取率的なデータで言うと、ラジオを聴く人自体はそこまで増えていないです。ただ、実態としては、多くの人がラジオに意識的になってきた実感はありますね。僕はSFマニアなので、こういう妄想をよくするのですが、いろいろなネットサービスが出てきたことで、放送と通信の境が溶け合って、「電波帯域としてのラジオ」というメディアは変化、または進化していくと思っています。音楽もラジオ放送も、通信のうえでは同じ「音声コンテンツ」じゃないですか。そうして、例えば「かつてラジオと言われていたもの」が、音声コンテンツとして形態を変えて、「新しいメディア」になっていくのかもしれない、というワクワクがあります。
ーーメディアや通信方式がそのときの時代に応じて名前を変えていくように、ラジオもまた変わる可能性があると。
森田:そのうち古い喫茶店でWi-Fiのマークを見つけて「Wi-Fiとか懐かしいー!」とか、「昔はインターネットって言ってたねー」なんていう時代がくるような気もしているので(笑)。
ーー音楽もラジオも「音声コンテンツ」として全部ひとくくりになった未来があるとして、音楽そのものはどう変わっていくと思いますか?
森田:より肉体的になっていくと思っています。映画『マトリックス』の生身の人間の都市、ザイオンみたいなものというか。VRの発展にも顕著ですが、汗が飛び散る臨場感や温度を感じることができるって、コンテンツに人間的な感覚がもたらされることに価値が発生してきているじゃないですか。例え打ち込みの音楽だとしても、デジタルな記号に「人間だからこそ出せる声や感情」を乗せることが、より重要でエキサイティングになってくるかもしれません。
ーーそういう時代に移り変わっていくとして、森田さんは今のお仕事の領域において、どのように関わっていくつもりなのでしょう。
森田:ラジオも、そういう意味ではよりフィジカルになっていくかもしれません。『SCHOOL OF LOCK!』は、生電話のコーナーもあったりと、典型的な生放送の番組で、その場でリアルに話して、お互いの生存を確認して、その時聴きたい曲、掛かるべき曲がオンエアされるんですが、そういう感覚がさらに研ぎ澄まされていくような気がします。そうなったら、ラジオや音声メディアは、24時間全部生放送でやるのも面白い将来像かもしれません。ラジオはON AIR、つまり生身の人間が生きるために必要な「空気の中」に居ますからね。
(取材・文=中村拓海/撮影=はぎひさこ)
■プロジェクト情報
WIZY「ラジオの中の学校、SCHOOL OF LOCK ! の記憶本『DAYS4』制作開始!」プロジェクト
プロジェクト期間:2018年4月26日(木)22:00~2018年10月31日(水)23:59
プロジェクトURL
■書籍概要
『SCHOOL OF LOCK! DAYS4』
判型:A5サイズ
予定価格:1,500円(税込)
ページ数:176P(予定)
販売:レコチョク「WIZY」にて先行販売。のち、番組発イベントやTOKYO FM通販サイト等にて販売予定。