『初恋』インタビュー

宇多田ヒカルが語る、“二度目の初恋” 「すべての物事は始まりでもあり終わりでもある」

「いまの私が書ける“至上の恋”を描く、究極のラブソング」 

ーーラストの「嫉妬されるべき人生」は今作の中でも小説的な要素がより色濃い歌詞です。

宇多田:パーソナルなようでいてフィクション性の強い、私小説のような歌詞ですよね。時折、「この歌詞は実話ですか?」と問われることがありますが、それって私からすれば「今日の下着の色は?」と聞かれるのに近い感覚というか。歌詞がすべて事実に基づいているかどうかなんて、楽曲を評価する上においてどうでもいい話だと思うし、たとえ発端は事実だったとしても、パーソナルさが増せば増すほど、同時にフィクション性も増していくものですからね。

――それは最近の雑誌の取材でも話していた、宇多田さんにとっての“私小説”の定義ですね。この曲では、やはり私小説の味わいが色濃かった「真夏の通り雨」(※『Fantôme』収録)における「40代の一人暮らしの女性がいて」といったような設定は事前に設けていましたか?

宇多田:日本人の平均寿命から、7、80歳ぐらいの老夫婦を設定して、片方が片方を看取る様子から、二人の出会いまで遡りました。出会って、絆が深まった時、すでに数十年後の死別の時を思い描いて、これが最初で最後の恋という気持ちでいる。いつか来る死別の瞬間さえも愛おしく思い描いているという、私にとっての理想型とも言えるカップルをイメージしました。愛とはまた異なる、いまの私が書ける“至上の恋”を描く、究極のラブソングにしようと思いつきました。

――つまり喪失によって完全なる幸福が完成する?

宇多田:そう。たとえば「愛してる」と言ったとしても、その気持ちは明日どうなるかわからないし、永遠かどうかなんて証明のしようもない。だから究極のラブソングを考えた時、死をもって完結するというところに行き着いて。そこに思いを馳せてみたくなりました。

――あらためて、この『初恋』は宇多田さんにとってどんなアルバムになりましたか?

宇多田:制作の最後に「夕凪」の歌詞が書けた時、すべての物事は始まりでもあり終わりでもあるんだという思いが、一気に収束するような達成感を強く感じられてほっとしました。『Fantôme』とはまた違った重さを備えた、これまでで最もパワフルなアルバムになったと感じています。

――では最後に “デビュー20周年”という節目についての思いを聞かせてください。

宇多田:デビューした直後は、あまりの環境の変化と予想外の副作用みたいなものを受け入れるのがすごく大変で、それなりに苦しみました。『First Love』でブレイクした後、リビングで母親に「こんなことになると思わなかった。辞めたい」って言ったら、「ああ、じゃあ辞めたら?」と返されたのが、もう20年前になるんだなって。いまとなっては“感慨深い”としか言いようがないんですけど、そこから何だかんだとよくこんなに続きましたよね。でも、結局は音楽を作る……つまり、作詞・作曲をする、歌うっていう行為によって生かされてきたんだなあとも言えるので、「こうするしかなかったんだな」って。20周年という節目を、生きて迎えられて良かったなって思っています。

(取材・文=内田正樹)

宇多田ヒカル『初恋』

■リリース情報
宇多田ヒカル 7thアルバム『初恋』
発売中
価格:【通常盤】3,240円(税込)

<収録曲>
01.Play A Love Song(『サントリー 南アルプススパークリング』CMソング)
02.あなた(映画『DESTINY 鎌倉ものがたり』主題歌/ソニー『ノイキャン・ワイヤレス』CMソング)
03.初恋(TBS系 火曜ドラマ『花のち晴れ~花男 Next Season~』イメージソング)
04.誓い(ゲームソフト『KINGDOM HEARTS III』テーマソング)
05.Forevermore(TBS系 日曜劇場『ごめん、愛してる』主題歌)
06.Too Proud featuring Jevon
07.Good Night(アニメーション映画『ペンギン・ハイウェイ』主題歌)
08.パクチーの唄
09.残り香
10.大空で抱きしめて(『サントリー天然水』CMソング)
11.夕凪
12.嫉妬されるべき人生

※ツアーチケット先行応募抽選券封入
応募受付期間:6月26日(火)12:00~7月11日(水)23:59

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宇多田ヒカル 配信シングル『初恋』
iTunesmora(※ハイレゾ音源)、レコチョクにて配信中。
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■関連リンク
宇多田ヒカル オフィシャルサイト

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